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永久に囚われた元娘と、永遠に逃さない元義父のお話〜if ending〜【メリバルート】

3.地獄の果てまでも、お前を

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 猛炎に照らされたゼノの髪と瞳が、より一層紅く映えている。
 ゴウゴウと激しい火柱を立てながら、烈火に燃え尽くされる森を感情の無い同じ色の瞳で一瞥すると、ゼノは踵を返し歩き始めた。
 火は、森だけを燃やすように調整をしてある。村に被害は一切出ないだろう。

 ゼノは、火を操ることが出来た。
 親とは違う髪と瞳の色で産まれ、小さな炎を生み出し遊んでいた息子に異常さと恐怖心を抱いた両親は、呆気なく自分を捨てた。涙も出なかった。

 ――遠い昔の、どうでもいい無駄話だ。

 その能力のことは、誰にも言っていない。畏怖やバケモノを見る視線が向けられることが分かり切っているからだ。

 ――けれど。


「ユティだけは、オレのこの能力を知っても、怖がらず受け止めてくれるんだろうなぁ」


 最愛の人の笑顔を思い浮かべ、ゼノはフッと小さく笑みを漏らす。


「……なぁユティ。お前間違えてるよ。オレの幸せを“一番”に願うなら、お前がオレの傍にいなきゃダメだろうが。ヤツの話を真に受けちまってさぁ。……まぁ、それはオレも悪かった部分があったが……」


 王女との密談については、当時ユーティスに説明をしていなかった。
 その話をするとなると、必然的にジャスティのことを話さなければいけなくなる。まだ“親子”の関係だった当時、恋敵になりそうな男の話は、どんな内容でもユーティスに聞かせたくなかった。
 ホンの僅かでも彼女がヤツに興味を持って欲しくなかった。
 恋愛に鈍感な彼女が自分に対し“異性”として好意を持つよう、あれこれ仕向けていた最中だったからだ。


 事前報告も無しに真夜中に帰ってきたことについては、「仕事で遅くなった」と誤魔化していた。
 王女はいつも唐突に「今夜相談に乗って」と泣きついてくるのだ。騎士団の副団長という立場上、この国の王女である彼女の願いを無下にも出来ず、渋々付き合っていた。

 ソファに座り、永遠にジャスティのことを話し続ける王女に、一番端の壁に寄り掛かり腕を組みながらウンザリしつつ、早く帰ってユーティスの顔を見たいと思いながら。


 ある日、いつものように「仕事だった」と説明すると、ユーティスが少し怪訝な表情をして頷いたのが気になった。
 その後着替える為に騎士団の制服を脱いだ時、王女の部屋に染み付いている香水の匂いが微かに漂った。それをユーティスが気付いたのかと焦ったが、何も言われなかったので、結局隠したまま通した。

 あの時伝えなかったその判断が、ジャスティの話を聞いたユーティスの、自分に対する疑念を作ってしまったことは確かだ。
 結果、ユーティスはヤツの話を鵜呑みにして、自分から去って行ってしまった。


 ……自業自得……? ――いや、違う。それは違う。


「元はと言えば、鈍感過ぎなジャスティの野郎と、ヤツに嫉妬させたくて夜に密談させた王女と、フザけた『王命』を出した王が全部悪ぃじゃねぇか。オレ達の仲をまた邪魔してきたらウゼェし、もう殺すか。――あぁ、ジャスティの野郎はもう火の中か」


 振り返り、火の粉を撒き散らしながら燃え盛る森を仰ぎ見たゼノは、口元を歪ませクッと笑った。


「……けど、アイツのあの髪と瞳の色……気になるんだよな。他のヤツらには無い色だし、もしかしたらオレと同じ――」


 そこまで考えたゼノは、思考を止めた。今更それを知ったって無意味だと気付いたのだ。
 もしがあったとしても、ヤツが火に呑まれたところは見ている。助かりはしないだろう。


「ユティもなぁ、根が純粋で素直だから、オレ以外のヤツを全て信じるなっつっても難しいか……。そこが可愛いところでもあったから強くは言わなかったが、もっと厳しく躾けても良かったか……。――ま、今からでも遅くねぇな。ユティの世界にはオレ以外必要ねぇし。誰も入らせねぇよ」


 ゼノは懐から『移動スクロール』を取り出した。
 使用する者が行ったことのある場所なら、魔力を使ってそこへ瞬時に移動出来る最高級品の巻物だ。一般人は絶対に手に入れることが出来ない高価な代物だ。


「――ユティ、オレがお前を逃がすと思うか? お前の行き先はもう分かってんだよ。地獄の果てまでも追い掛けて捕まえてやるよ。そんで、もう二度とオレから離れたくないと思わせるような“お仕置き”をしてやる。オレ達は離れず死ぬまで一緒だ。死んでも一緒だ。――なぁ、そうだろユティ? 待ってろよ、をサッサと済ませてお前のもとへ行くからな」


 ニィ、と口の端を大きく持ち上げたゼノは、『移動スクロール』を乱暴に広げる。

 同時に、彼の姿は風のように消えていった。



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