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彼の為に決断する元娘と、彼女を決して逃さない元義父のお話【ハッピーエンドルート】

9.帰ろう、我が家へ

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「王女の部屋にいた夜は本当に何も無かった。王女との距離も相当開けてたしな。オレは王女に泣きつかれて、仕方なく相談を受けてただけだ。お前に関してのな、ジャスティ。他のヤツらに聞かれたくない話ってことで、相談場所が王女の部屋しかなかった。時間が夜だったのは、王女の要望だ。オレが望んだわけじゃ決して無い」
「……? ちょっと待て、俺……だと? 王女様がどうして俺のことをお前に相談するんだ?」


 私はピンときたけど、本当に何も分からないといった風に訊いてきたジャスティさんに、ゼノは盛大な溜息を吐いて返した。


「ホンットお前は超絶鈍チン野郎だな。お前のことは長く一緒にいるオレがよく知ってると思ったんだろうよ。――なぁ、ジャスティ。オレさぁ、『王命』を断って城から出る時、お前に言ったよな? 『常に王女の近くにいて彼女をよく見ろ。王女を絶対に守れ』って。お前は当然とばかりに頷いたよな? オレとの約束を無視してオレを捜しにくんなよ、この激鈍大バカクソ野郎が」
「……? 約束を破ったのは申し訳ないが、何が激鈍なのかがサッパリ分からないな……」
「はぁ……。ったく、埒が明かねぇ……。お前、今からでも遅くねぇからさっさと王女の所に戻れ。そして彼女の話を聞いてみろ。まずはそれからだ」
「……あぁ、取り敢えずは分かった。ではお前は? また逃亡生活を続けるのか?」
「当たり前だろ? オレはオレの奥さんをこの上なく愛してるんだ。王女と婚約する『王命』なんて死んでもお断りだ。だから明日まで見逃せ。それで百発ブン殴るのをチャラにしてやる」

 ゼノの言い分に、ジャスティさんは思わずといった感じで苦笑して答えた。

「自分勝手なのも相変わらずだな……。分かった、俺がお前の気持ちを勘違いをしていたのは確かだし、その所為で彼女にも大きな迷惑を掛けたから、その願いは聞き入れる。しかし明日までだぞ。これからは、俺じゃなくて他の騎士や兵士達がお前を捕らえに来るだろう。せいぜい逃げ回って捕まらないようにするんだな」
「ふん、このオレだぜ? 捕まらないに決まってるだろ」
「……ははっ、そうだな。可能なら、たまには俺に顔を見せに来いよ。お前がいないと寂しいんだよ。腹を割った話し相手がいないからな。持ってるぞ」

 ジャスティさんの言葉に、ゼノは小さく苦笑して肩を竦める。

「……そんなわざわざ敵地に赴く自殺行為な真似はしたくねぇが……。まぁ、検討はしておくよ」
「あぁ、是非頼む。――お嬢さんも悪かったね。どうか許して欲しい……」
「あ、……はい」
「――って、待て待てユティ、簡単に許し過ぎだ。『許さねぇ!』っつって、コイツを思いっ切りブッ飛ばしてもいいんだぞ。それだけのことをお前にしたんだからな」

 不服そうに言うゼノに、私は小さく首を横に振って答えた。

「……ううん。私がブッ飛ばしても、ジャスティさんは羽虫が当たったくらいにしか感じないと思う。逆に私の手が怪我しちゃうと思うし、止めておくね」
「……殴る気はあったのか……。フッ……やれやれ、油断出来ないお嬢さんだ」
「ははっ! じゃ、オレが代わりにコイツを本気でブッ飛ばそうか? てか、やらせろ」
「だっ、大丈夫。ゼノの本気は洒落にならないから……」


 ……ジャスティさんは大きな勘違いをしていたとはいえ、ゼノを想って今回の行動をしたのだから……。
 お互い、彼を大事に想ってるって同士で、今度は普通にお話をしてみたいな……。


「そろそろオレ達行くわ。ま、元気でいろよ」
「あぁ、お前もな。――お嬢さんも、ゼノのお守りは大変だろうが頑張ってくれ。本当に色々と済まなかった」
「おい、何だよそれ」
「ふふっ。はい、ジャスティさんもお元気で」
「こら、お前も否定しろよな。――ったく、じゃあな」


 ゼノはジャスティさんにヒラリと手を振ると彼に背を向け、私の掌をギュッと握り締めて歩き出した。


「じゃ、帰るか。――オレ達の家に」
「……うん!」


 私達は笑い合うと、指を絡めて寄り添いながら帰路についた。



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