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彼の為に決断する元娘と、彼女を決して逃さない元義父のお話【ハッピーエンドルート】
3.追跡者、現る
しおりを挟む(――もう、ゼノのバカッ! スケベ!! 本当に自分勝手なんだから! あまり眠ってないのに、あの体力はどこからくるの!? ……流される私も悪いけど……)
当たり前のように四回目に入ろうとしたゼノを何とか止め、遅い朝ご飯を食べて満足そうに就寝した彼を見届けた私は、買い物の為に外へと出掛けた。
(もうお昼近くか……。夜は私一人だし、晩ご飯は適当に済ませるとして……。ゼノのお夜食にサンドイッチを持たせようかな。沢山動くしきっとお腹空くだろうから一杯作ろう。じゃあその材料を買って、と。あとは……)
食材を扱っているお店に入ると、店主のレイラさんがこちらに気付いて声を掛けてきた。
「おや、ユーティスちゃん、こんにちは。今日はちょっと遅い買い物だね? もしかして寝坊したかい?」
「あ、あはは……。レイラさん、こんにちは。まぁ、そんなところ……です」
この村は住民が十数人しかいない、とても小さな村だ。私くらいの年齢の子はこの村にはいないので、買い物に行く度レイラさんが話し相手になってくれる。
彼女は四十代だけど、気さくで明るくてとても良い人だ。彼女のお子さんはここから離れた大きな町に住んでいて、今は旦那さんと二人暮らしだそうだ。
「んん? 何か怪しいねぇ……。もしかして旦那が寝かせてくれなかった……とか?」
からかうようにニヤリとして言ってきたレイラさんにドキリとしながら、慌てて首をブンブンと横に振る。
ついさっきまでしてました、とは絶対に言えない……!
「なっ、何言ってるんですか! もう、レイラさんったら!」
「あははっ! アンタ達ってばホント仲良いもんねぇ。村の独身どもが羨ましがるくらいにさ。アンタ達にあてられたのか、男どもが奥さんに対して優しくなったらしいよ。アタシんとこの旦那も以前より優しくなった気がするさね。おしどり夫婦のアンタ達には感謝だねぇ」
「いえ、そんな……」
熱くなった顔をそのままに手と首を左右に振る私に、レイラさんは気持ちの良い笑い声を上げる。
「はははっ、照れちゃってカワイイねぇ。今日は何を買うんだい? アタシが良さげなものを選んであげようか?」
「ありがとうございます、レイラさん。サンドイッチに使う材料が欲しいので、パンと卵に、トマトにキュウリ……あ、あとハムも欲しいです。レイラさんが選ぶもの、みんなどれも美味しいからありがたいです。彼も美味しいって言って残さず食べてますよ」
「ふふっ、嬉しいねぇ。そこまで言われちゃ、とびきり新鮮なものを選んであげようじゃないか」
レイラさんは鼻歌を歌いながら慣れた手付きで食材を袋に入れると、値段の計算を始める。
合計金額を聞きお金を出していると、レイラさんがふと思い出したように声を上げた。
「そういえばさっき、村の外れにある小さな森にキノコを採りに行ったんだけどね。そこで美しい騎士様を見掛けたんだよ。この国では見たことのない鎧を着ていたね。結構遠かったし、アタシに気付かずに行っちゃったけど、一体何の用だったんだろうねぇ? あの森に魔物は出ないのにさ」
「……っ!!」
そのレイラさんの言葉に、顔からサーッと血の気が引くのが自分でも分かった。
「……レイラさん、その……。その騎士様の、鎧の色とか、髪の色……は、分かりますか……?」
「ん? そうさね……。鎧は確か……白銀っぽかったね。髪の色は、この国では珍しい蒼色だったからよく覚えているよ。もしかして知り合いかい?」
「……い、いいえ、全く。ただ気になっただけで……。ありがとうございます、レイラさん。今日も美味しく戴きますね」
「あははっ、毎度あり。旦那さんにもよろしく伝えておくれ」
「はい、失礼します!」
私は無理矢理笑顔を作るとレイラさんにお礼を言い、お店から飛び出す。
(白銀の鎧に、蒼色の髪……。きっと“あの人”だ! どうしてここが分かったの!? とにかく、早く……早くゼノに知らせなきゃ! まだきっと家で寝ているはず――)
食材の入った袋を両腕でギュッと抱きしめ、家に向かって全速力で走る。
その時突然目の前に人が現れ、驚いた私はスピードを緩めることが出来ず、そのままその人にぶつかってしまった。
けれどその人はとっさに私を抱き留めてくれたようだ。お蔭で、ぶつかったと言っても大した衝撃はなかった。袋の中の食材も無事のようだ。
「す、すみません! 急いでいて、前を見てなくて……。お怪我はありませんか!?」
「いや、大丈夫だ。こちらこそ済まないね、いきなり君の前に立ってしまって。だって、嬉しくてね。――必死に捜していた人物が、そちらから現れてくれたのだから。……ところで、そんなに急いでどこへ行くつもりだったんだい?」
頭上から落ちてきた男性の声に、私の身体が石のようにピシリと固まった。
ギシギシと錆びついた扉を開けるように顔を上げると、蒼色の長い髪に同じ色の瞳を持った、美麗な顔立ちに薄く笑みを浮かべた人物が、私をジッと見下ろしていた――
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