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言いつけを破った元娘にお仕置きをする元義父のお話

5.私は、彼だけを信じる

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「……あ、うあぁ……。僕の腕が、腕があぁ……っ!!」


 喚くガーラさんを見ると、何と両腕がスッパリと斬り落とされていた。無惨にも二つの腕は血に塗れ床に転がっている。
 

「……ふん。これで女子供を攫うことも、攫った女達を犯すことも出来なくなったな。ははっ、良かったじゃねぇか」
「……ぐっ!! ゼノ・フォービド……ッ! どうしてここが分かった!?」
「ははっ、さあなぁ。どうしてだろうなぁ?」
「……畜生……っ! お前さえ来なければ……。お前さえいなければ、ユーティスは僕のものになったのに……っ!」
「…………あぁ? 誰がテメェのモンだって? そんなん、天と地がひっくり返ってもあるわけねぇよ。どうやら両腕だけでなく、首もスッパリと斬り落とされたいらしいなぁ?」
「ヒッ……」


 ゼノの、低く重く、地を這うような声音に、ガーラさんは短い悲鳴を上げ尻餅をつく。


「チッ、クソが。――もういい、捕らえてくれ。町の誘拐事件の犯人の一人だ。拷問して他の仲間の居場所を吐かせろ。根性ねぇヤツみてぇだからすぐに白状するだろ」
「はっ!」


 ゼノが言葉を発したと同時に、いつの間にか開かれていた扉から衛兵達が駆け込んで来た。
 この村で見たことのない人達――きっと、隣の町の衛兵達だ。

「はっ、離せ、離せぇっ!! 僕は……僕は大金を手に入れるんだぁ!! そして欲しい物も女も全てこの手に……っ!!」
「うるさい、大人しくしろ!!」

 ギャアギャアと騒ぐガーラさんを抑え付け、衛兵達はゼノに頭を下げて小屋から出て行く。

「…………」

 シンと静寂が訪れ、ゼノと二人きりになった途端、緊張の糸が解けて、ヘナヘナとその場に座り込んでしまった。
 情けないことに、腰が抜けて立てそうにない……。

「…………」

 そんな私をゼノは一瞥すると、無言で私の肩と膝裏に手を回し抱きかかえ、小屋から出て家に向かって歩き出した。
 相変わらず表情の一切ないゼノに、私は言葉を詰まらせる。謝りたいけど、ビリビリとした空気を発する彼に話し掛けられない……。


「……アイツを、信用したんだろ。お前、すぐに他人を信じるからな」


 不意にぶっきらぼうな言葉が投げられ、私はビクリと身体を震わす。


「アイツを信用したから、お前はアイツに付いてったんだろ? ……それがこのザマだ。危うくお前はアイツに犯され、他の国に売り飛ばされるところだった。アイツを信じたから」
「…………」


 何も……何も反論出来ない。


「……なぁ、これで分かったろ? 人は平気な顔をして平気で簡単に裏切る。そういう生き物なんだよ。お前がまた他人を信用する限り、同じことが起きる。お前はまた簡単に裏切られる。その繰り返しだ」
「…………」


 自分が情けなくて、悔しくて、私の両目から涙が溢れてきた。


「……だから、お前はオレだけを信じていればいい。オレだけはお前を裏切らない。約束する。――お前の世界は、オレだけでいい。他は誰も入れるな、ユーティス。オレだけをずっと見ていろ」
「……ゼノ……」


 涙で濡れた瞳でゼノを見上げると、彼は真剣な表情で私を見下ろしていた。


「ごめ……ごめんなさい、ゼノ……。や、約束する……。私、ゼノだけを信じる……。ゼノだけ……だから……」
「……あぁ。オレも、お前だけさ。信じられるのは……」


 ゼノはようやくフッと表情を和らげると、私の流れる涙を唇で何度も拭ってくれた。


「……ね、ゼノは、いつあの小屋に来たの……?」
「……さっき、だ。隣の町から来た衛兵と辺りを見回っている時、誰もいるはずのないあの小屋から声が聞こえたからさ……」
「……そっか。助けてくれてありがとう……」


 ……私は、ゼノが嘘を言っているのに気付いていた。
 ゼノはきっと以前から、誘拐事件の犯人を町の衛兵達と共同で調べていたんだ。そしてガーラさんに目星を付けて見張っていた。
 今日、何度か見知った視線を感じていたのは錯覚じゃなかったんだ。
 そして、私が危機に陥るギリギリまで小屋のすぐ外で待っていた。

 ――これを機会に、私に解らせる為に。



 ゼノ以外の人を、簡単に信じてはいけないということに――



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