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言いつけを破った元娘にお仕置きをする元義父のお話

3.食堂のお手伝いと不穏な空気

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「あららぁ。そっかぁ、思い切って言ったのに駄目だったのね」
「うん……」


 この村で一番に出来た友達のシェリアが働いている食堂で、今日は休みだった彼女と遅いお昼を一緒にとりながら、私は朝の出来事を話した。

「お金が欲しい理由は、ゼノさんの誕生日のお祝い品を買いたいからなのにね? でもそれを本人には言えないし、辛いところだわ……」
「うん……。彼、もうすぐ自分の誕生日だってことを忘れてると思うの。そういうのに無頓着だし……。だから当日、彼の好きな物をあげて驚かせたいのに、肝心のお金が無いと……。彼から貰う生活費から出すのは違うと思うし……」
「うん、だよねぇ。ま、ゼノさんが心配する気持ちも分かるけどね? ユーティスってば、ポワポワして誰でも信用してホイホイ付いてっちゃいそうだもん」
「な……っ。そ、そんなことないよ!」

 顔をプックリと膨らます私に、シェリアは声を出して笑う。そして真剣な表情になったかと思うと、私に顔を近付け声を潜めながら言った。


「真面目な話、隣の町で女子供が攫われる事件が起きているそうよ。隣と言っても、ここから大分離れた町だから心配ないと思うけど。知らない人に付いて行っちゃ駄目よ、ユーティス。お菓子をくれるって言われても駄目だからね?」
「もう! シェリアまで私を子供扱いして!」
「あははっ!」
「おやおや、楽しそうだね? 何の話をしているのかな?」


 頭上から柔らかな声が聞こえ、シェリアと同時に顔を上げると、そこにはこの食堂の店長であるガーラさんがニコニコしながら立っていた。
 年は、確かゼノと同じくらいだっただろうか。いつも微笑みを絶やさない彼は、この村の年配の女性に人気で、食堂はいつもお客さんが絶えず入っていた。

「はい、これ。サービスだよ。いつもありがとうね、シェリアさん。助かってるよ」

 ガーラさんは柔和な顔を綻ばせながらそう言うと、私達が座っているテーブルにジュースを二つ置いてくれた。

「やった! 店長ありがとう!」
「どういたしまして。――そうそう、ユーティスさん。ここで働く話はどうなったかな? 旦那さんに許可は貰えたかい?」
「すみません、ガーラさん……。少し無理そうです……。せっかくお話を戴けたのに、本当にごめんなさい」
「そうか……。それは残念だ。――けど、この後一つだけ頼まれてくれるかい? 大丈夫、そんなに時間は掛からない、すぐ終わる手伝いだから。シェリアさんに頼もうと思ったけど、この後用事があるみたいでさ。他の従業員にも皆用事があるからって断られちゃって。お金はあげられないけど、うちのお菓子をあげるから。ね?」
「え、お菓子ですか? えっと――」
「あははっ。大丈夫よ、ユーティス。お菓子をくれるって言っても、店長はよく知ってる人だし、村の人達からの評判も良いし、信用出来るわよ。それにうちのお菓子はすごーく美味しいわよ? それを旦那さんにあげたらどうかしら? 仕事で疲れた時の甘い物は心を癒やしてくれるわよ?」


 ……確かに、ガーラさんはこの食堂の店長をずっとやっているらしく、村でも優しい人だと評判だ。
 シェリアもこう言ってるし、信用してもいいよね?
 遅くならなければ引き受けても大丈夫だよね……?


「……はい。私でよろしければ、お手伝いしますね」
「そうか! ありがとう、助かるよ。お客さんもいなくなったし、これから店じまいするから少し待っててくれないか」
「はい、分かりました」
「あら? もうこんな時間なのね。楽しい一時はホントあっという間だわ。じゃあ私行くね、ユーティス。一緒にお手伝い出来なくてゴメンね? 店長! 絶対にユーティスを遅くならないように帰してね! 重い荷物とか持たせないでよ?」
「分かった分かった、大丈夫だよ」


 大きく手を振って食堂を出て行くシェリアに笑顔で手を振り返した私は、ガーラさんが店じまいをするのを座って待っていた。

「…………?」

 不意に何かを感じ、私は辺りをキョロキョロと見回した。しかし、私とガーラさん以外誰もいない。


(……気の所為かな……)

「……お待たせ。じゃあ行こうか、こっちだよ」
「はい」


 ガーラさんの後を付いて行くと、彼は食堂を出て、裏にある物置小屋へと入って行った。

「ここにある物を食堂に運べばいいんですか?」

 私も続けて小屋に入り、四方に積んである木箱や大きな袋を見回すと、背中を向けているガーラさんに訊く。
 しかし、何故か彼から返事がこない。


「……ガーラさん?」


 私の問い掛けに、ガーラさんはゆっくりとこちらを振り向いた。
 相変わらず笑顔を貼り付けているが、何故かそれが妙に怖く感じて、無意識にブルリと背筋が震えた……。



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