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言いつけを破った元娘にお仕置きをする元義父のお話
1.“夫婦”としての始まり
しおりを挟む「ユティ、はよ」
私が井戸から水汲みをしていると、後ろから低い、けどよく通る心地良い声が飛んできた。
振り返ると、肩まで伸びたサラサラの紅い髪と、同じ色の瞳をした私の旦那様が、こちらに向かって歩いて来るのが目に入ってきた。
「おはよう、ゼノ。昨日は遅くまで魔物退治お疲れさま。怪我しなかった?」
「おぅ、この通りピンピンさ。お前が起きてるまでに帰りたかったんだけどなぁ……。あの魔物、動きだけは異常に素早くて、アッチコッチ逃げ回りやがってさ。お蔭で家に戻れたのが日付変わってからだったぜ」
「わ、それは大変だったね? もっとゆっくり眠ってても良かったのに」
「昨日の夜はお前に会えなかったからな。可愛いオレの奥さんの顔が見たくて目が覚めちまった」
そう言って口の端を持ち上げニッと笑うゼノに、私の顔がボッと火が灯るように熱くなったのが分かる。
「おっ、そうそうその顔。すっげぇ可愛い」
「もう、ゼノったら……」
こういうことを恥ずかしげもなく言う彼は、ゼノ・フォービド。少し前までは私の“父さん”だった人だ。
“父さん”と言っても、私と血は繋がっていない。九年前、彼が二十歳の時、森に捨てられていた当時十歳の私を拾ってくれて、一年前まで男手一つで育ててくれたのだ。
そして今、私達は想いが通じ合って夫婦となり、彼は私の旦那様となっている。
“親子”から“夫婦”へと、関係性が一気に変わった。
“父と娘”として暮らしていた国ではそれは出来ないことだったが、とある『王命』を彼がキッパリと断った為に国から追われる身となり、私達は逃亡者となった。
そして現在、私達は隣国の辺境にある村に腰を落ち着け、一軒家を借りて暮らしている。
そんな私の名は、ユーティス・フォービド。
明るいブラウン色の腰まである髪にオレンジの瞳という、極々平凡な、最近十九歳になったばかりの女だ。
「そういや、仕事仲間にこんなの貰ったんだよ。オレ達の仕事は身体が命だから、疲れたらコレ使えってさ」
ゼノはそう言うと、ズボンのポケットから、小さい平らな石みたいな物を取り出して私に見せてきた。
ゼノは、前にいた国で騎士団の副団長を務めていた為、剣の腕は他の人より並外れて強い。それを活かして、この村では魔物退治の仕事をしている。
近くに魔物が棲息する大きな森があり、村が襲われないよう定期的に森に入って魔物を退治しているのだ。
この村は剣の腕が立つ者がいなかった為、ゼノは非常に有難がれる存在となっていた。
「わぁ、透き通っててキレイな石だね」
「ただの石だと思うだろ? コレを肩に乗せてだな……」
ゼノは言いながら私の肩にその石を乗せる。と、突然その石がブルブルッと強く震えて!?
「ひゃあっ!?」
「ははっ! やっぱりいい反応してくれるなぁ、ユティ。コレ、少しでも魔力を持ったヤツが使うと、こんな風に震えるんだよ。肩や腰が凝った時に使えってさ。こんなんあるなんて初めて知ったぜ。この国は、オレ達がいた国より技術が優れてるのかもなぁ」
私の反応に満足したように笑ったゼノは、その石を自分の肩に置くと作動させる。
「……おっ、この振動はなかなか気持ち良いな。気付かねぇ内に肩凝ってたか。――やれやれ、年には勝てねぇなぁオレも」
「私にはただくすぐったかっただけだよ……。もう、そんなお年寄りみたいなこと言わないでよ、父さ――」
そこで私はハッとして慌てて口を両手で押さえる。しかしゼノにはバッチリ聞かれてしまったようだ。
おもむろに彼の目が据わり、口の端が持ち上がっていくのを、私は恐々と眺めていた……。
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