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禁じられた想いに蓋をし逃げる娘と、それを決して許さない義父のお話
4.どうして……?
しおりを挟む「……はぁ」
手紙を書き終え封をすると、私は大きく息をついた。
その手紙を、ダイニングテーブルの端に置くと立ち上がり、予めまとめてあった荷物を手に持つ。
「……直接、父さんから聞かなくて正解だったな。こんなにも胸が苦しくなるなんて……。本人から聞いていたら、その場で泣いちゃってたかも。……ううん、絶対泣いてた。何て説明したら分からなかったし、危なかったな……。ふふっ」
私は独りごちると苦笑する。
ミナから父さんと王女様の婚約パーティーのことを聞かされた時、もう父さんの側にいられないと思った。
父さんが帰ってきたら、必ずこの話をするだろう。
事前に話してくれなかったのは、私を驚かす為だろうか。
けれど、彼から嬉しそうにその話をされることが、今の私にはとても辛くて、苦しくて……。
王女様との婚約が決まったのなら、父さんはきっとお城で過ごすことになる。お世話は侍女達がしてくれるだろうし、私がいなくても全然大丈夫だ……。
私は、父さんの“面影”が全く無い、遠く離れた土地で、彼の幸せを祈っていよう……。
彼に対するこの想いは、きっと時間が解決してくれる。
長い年月が掛かっても、彼のいない場所なら、少しずつ消えていってくれる筈――
私は置き手紙に視線を落としながら、小さくポツリと呟いた。
「父さん……。今まで本当にありがとう。私、父さんのことが大好きだったよ――」
「――あぁ、知ってるさ。けど、過去の話じゃないだろ、ユティ?」
「――っっ!!?」
突然後ろから声が飛び、私は声音にならない悲鳴を上げ、驚きの余り荷物を手から落としてしまった。
ドサッと、荷物の床に落ちる音が静かな空間に響く。
……よく、知っている声だった。間違える筈もない。
だって、ほぼ毎日聞いているのだから。
息を呑み、恐る恐る振り返ると、そこにいたのはやはり――
「……な、なんで……? なんで今、ここにいるの……? 今日は遅くなるって……夜は私一人だって――」
「終わったから戻ってきた。ムリヤリ終わらせたっつーか。――ま、今はそんなことどうでもいいな」
唇の震えが止まらない。
止まってくれない。
「……い、いつから……。いつから……そ、そこに……?」
「お前がその手紙を書き終わって、『直接父さんから聞かなくて正解だったな』ってとこから」
「……っ!!」
……聞かれてた……。
全部、聞かれて……しまった――
サーッと音を立て、私の顔が真っ青になっていく。
腕を組んで壁に寄り掛かっていた騎士団服姿の父さんは、無表情のままツカツカと歩くと、ダイニングテーブルに置いてあった彼宛の手紙を素早く手に取る。
そして乱暴に封を切ると中身を読み始めた。
「あ……」
突然の出来事に思考が追いつかなかった私は、父さんの行動を止めることができず――
「……お前の友達から聞いたんだな。『オレと王女の邪魔をしたくないから、ここを出て行く』……か。『二人の幸せを強く願ってる』? く……ははっ! ――なぁユティ、コレさぁ、ちゃんと本音で書いているのか?」
「……っ」
「なぁユティ、違うよな? お前自身が辛いからここを出て行くんだろ? オレが嬉しそうに王女の話をするのを聞きたくないから。オレと王女の仲睦まじい姿を見たくないから。お前が嫉妬で気が狂っちまうから、――だろ?」
「……ちっ、違うよ! 違う違う違う……っ!!」
父さんの的を射た言葉を聞きたくなくて、私は必死に首を左右に振り否定をする。
父さんはそんな私の様子を感情の無い顔で眺めると、手紙をビリビリと細かく破き放り投げた。
「……あ……」
紙の破片があちこちに舞うその光景を唖然として眺めていた私を、父さんは唐突に抱き上げてきた。
「きゃっ!?」
思わず悲鳴を上げる私に構わず、父さんは私を抱えたまま歩こうとしたから、必死で身をよじって逃げようとする。
「お、降ろして! お願い、降ろして父さん……っ」
「……心配させねぇように黙ってたのが裏目に出ちまったな……」
「……え?」
微かな声音で呟いた父さんは私を見下ろすと、今度はハッキリと声に出して言った。
「ざけんな。お前をオレから逃がすわけ、ぜってぇにねぇんだよ。――逃さねぇよ、一生な」
目を見開き見上げた父さんの紅い瞳は、有無を言わさない威圧が込められていて……。
私はその迫力に思わず身を硬くし、口を噤む。
今まで見たことのない、父さんの怒り顔だ……。
父さんはそれ以上何も言わず大股で歩くと自分の部屋へと入る。
父さんがいつも使っているベッドに降ろされたと同時に乱暴に押し倒され、彼はそのまま私の上に伸し掛かってきた――
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