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禁じられた想いに蓋をし逃げる娘と、それを決して許さない義父のお話

1.胸の奥に秘める想いは、誰にも絶対に

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 ――この想いは、絶対に“彼”に抱いてはいけない禁断の想い。
 絶対に“彼”に知られてはいけない想い。

 だから、その想いに蓋をし、逃げようとした。遠く離れた、“彼”の面影が全く無い土地へ。
 “彼”を、忘れることが出来るように。


 けれど“彼”は、それを決して許してはくれなかった――




**********




「ユティ、はよ」


 私が井戸から水汲みをしていると、後ろから眠そうな、けれど耳に心地良く通る低い男性の声が飛んできた。
 私は、よく知っているその声の持ち主に顔を向け、ニコリと微笑む。

「父さん、おはよう。まだ眠ってても良かったんだよ? それとももうお仕事に行くの?」
「いや、起きたらお前が水汲みに行くのが見えたからさ、手伝いに来た」


 そう言って欠伸しながら、肩まで伸びる綺麗なルビー色の髪をガシガシ掻くこの長身の男性の名は、ゼノ・フォービド。私の父さんだ。
 父さんと言っても、血は繋がっていない。八年前、父さんが二十歳の時、森に捨てられ泣いていた当時十歳の私を拾ってくれて、男手一つで今まで育ててくれたのだ。

 そんな私の名は、ユーティスという。ブラウン色の腰まである髪にオレンジの瞳という、極々平凡な十八歳の女だ。


「ありがと。でも私一人で大丈夫だよ。父さんはお仕事行くまで休んでて? 水汲みが終わったらすぐに朝ご飯作るから」
「おぉ、相変わらずオレの娘チャンは優しくて健気でサイコーだな」

 父さんはそう言って、髪と同じく透き通ったルビーの瞳を細めて笑うと、身体を屈めて私の頬にキスをしてきた。続いて額にも。
 父さん曰く、これは“家族の挨拶”らしい。朝はもちろん、父さんが仕事から帰ってきた後、就寝前に必ずこれをする。父さんの気分によって、突然してくる時もあるけれど。

 そして最後に、毎朝だけキスする箇所である私の首に父さんは顔を埋め、自分の頬を一瞬擦り寄せてくる。
 うぅっ、父さんのサラサラの髪が私の頬に当たってくすぐったい……。
 そして程なくして、首に唇をつけると強く吸ってきた。
 チクリ、と一瞬痛みが走るけど、毎日のことだし痛みにも慣れた。

 ……けれど。

「……っ」

 それらが挨拶だということは分かってるのだけど、美形の部類に確実に入る――むしろ上位であろう父さんからキスをされると、どうしても顔が赤くなってしまって……。
 更にそれが終わった後、至近距離で私の顔を見つめてくるのだ。その射抜かれるような視線に、毎回胸の高鳴りが止まらなくて。

 ……そんな状態になるのはもう一つ理由があるのだけど……。
 それは胸の奥底に秘めておく想いだから――


 私のいつもの反応に、父さんはニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべる。

「毎日頻繁にする“挨拶”なのに、未だ慣れなくて顔を真っ赤にさせるオレの娘チャンは、初々しくてホント可愛過ぎだなぁ」
「……もう、父さんったら!」

 私は火照った顔のまま父さんの背中をグイグイ押して、家の中へと無理矢理入れた。

「椅子に座って大人しく待ってて! あとでコーヒー淹れて持っていくから!」
「ははっ、照れちゃって可愛いねぇ。分かったよ、オレの愛しの娘チャン?」


 椅子に座るとダイニングテーブルに頬杖をつき、首を傾げてこちらを見て笑う父さんの姿は、本当に素敵な絵になっていて……。
 ドキリとしてしまった胸を慌てて押さえ、踵を返し井戸の所へと急いで戻る。


 父さんを見て顔が赤くなったの、見られてないよね? 気付かれていないよね……?


 ――この気持ちは、父さんに絶対に知られちゃいけない。
 隠さなきゃ。ちゃんとしっかり蓋をしなきゃ――


 私は目を閉じ深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、水汲みを再開する。



 そんな私を、紅い瞳が凝然として見つめていたとは全く気付かずに――



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