人形となった王妃に、王の後悔と懺悔は届かない

望月 或

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27.終わらない懺悔 ◇

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(カトレーダの意識がっ!? あぁ、良かった……。本当に良かった……っ!)


 私の心の中が、安堵と喜びで満ち溢れる。

 リオーシュと私を苦しめる原因を作ったのはあの子でもあるけれど、ミュールに唆され、ただ私とずっと一緒にいたいが為に、彼女の言う事を素直に聞いてしまって……。

 けど、やっていい事と悪い事の区別は、あの子の歳ならもうちゃんと分かっていなくては駄目だ。
 配偶者のいる国王を誘惑するなんて、本当にとんでもない話なのだ。

 あの子には心から反省をさせ、しっかりと更生の道を歩ませなければいけない。



「妹が目を覚ましたんだな!? じゃあ、彼女を突き落としたのは誰かとか、『媚薬』関連の裏付けや、お前との事も訊けるじゃねぇか!」
「あぁ、だから今すぐシルヴィス侯爵家に向かおうと思ったんだが、ロアの方が大切だし第一優先だ。侯爵家に向かうのはその後にするよ」


 ゼベクはそれに、ゆるりと首を横に振った。


「いや、どちらも優先度が高い。二人いるんだから、別々に行動すればいいだろ? 俺が侯爵家に行ってくる。お前とヤッたかどうかなんて、本人目の前で直接は言い辛いだろうし、お前も彼女に直接言われるより、一段階間を置いて俺から訊いた方が“覚悟”も出来るだろ。お前はエウロペア様の方を頼む。アディオ殿下は自分の別荘に向かったそうだ。話を聞いたらすぐに俺もそっちに行く」
「……あぁ、そうだな……分かった。よろしく頼む」


 ゼベクは頷くと、抱いていたリーエちゃんをリオーシュに差し出した。


「コイツも連れて行ってくれ。コイツもずっとこの事件を見てきたんだ。最後まで見届けさせてやって欲しい」
「リーエを……か?」


 キョトリとしながらも、リオーシュはリーエちゃんを受け取る。


「あぁ。絶対に無くすなよ。そして必ずコイツを護れ。怪我一つ、傷一つつけさせんな。分かったな?」
「あぁ……分かった、約束するよ。――ふふっ、本当に大事なんだな、この子が」
「あぁ、すごく大事だ。俺の命と同じ位にな。だから大切に扱えよ」
「ははっ、リーエにベタ惚れだな。分かったよ」


(……ゼベク……)


「じゃあ行ってくる。一番速い馬を借りるぞ」
「あぁ、気を付けてな。……頼んだぞ」


 ゼベクはヒラリと手を振り、私をチラリと横目で見ると、小さく頷いた。私もそれに微かに頷き返す。
 ゼベクが出て行くと、リオーシュはフッと微笑んで私を見た。


「大丈夫、君の事は私が必ず護るよ。大切な友と約束したからな。――さて、急ぎの公務を終わらせて、準備が出来たら私達も行こうか。アディオはロアに手荒な事はしない筈だが、私的にあいつとロアが二人きりなのが許せない。さっさと追いつこう」


(……嫉妬してくれているのかしら。こんな時にアレだけど……嬉しいわ)


 門番に話を聞いたら、アディオ様は堂々と門から出て行ったそうだ。
 お姫様抱っこをしたまま、本体の私を暖かい布で包んで、


「義姉さんも少しは日に当たらないと駄目だって、主治医の先生が。兄さんは忙しいし、僕が代わりに連れてくよ。馬車で近くに行くだけだから。義姉さんの調子が良かったら、数日泊まってくるかもしれないけど、兄さんの許可は得てるから心配しないで」
 

 そうスラスラと淀みなく言い、馬車に乗って行ってしまったらしい。


(白昼堂々の見事な犯行だわ……。嘘も言いまくりだし、王族としてそれは駄目でしょ、アディオ様……)


 リオーシュは至急の公務を終わらせた後、馬車ではなく馬に乗って向かう事にしたそうだ。馬の方が馬車より速いし、小回りも利くかららしい。

 私はお忍び用のフードを被ったリオーシュのショルダーバッグに入れられ、夕方頃、アディオ様の別荘に向けて、護衛と共に出発した。
 小休憩を挟みつつ馬を走らせ続け、別荘の近くの町に着いた時には辺りが暗くなっていた。

 そこで一泊する事になり、宿屋でリオーシュと護衛それぞれに部屋を取る。


 宿屋の一階の食堂で護衛と夕食を取る時、リオーシュはリーエちゃんを連れて来て、彼の隣の椅子にちょこんと座らせた。
 そして、時々こちらを見てはふっと頬を緩めている。


「り、リオーシュ様、その人形は……?」


 護衛が戸惑いがちにリオーシュに尋ねてくる。


(何で人形なんか持ってきたんだ? って顔に書いてあるわね! そうよね、普通はそう思うわよね!? しかも隣に座らせるなんて! 私の正体はバレていないけど、前にゼベクが言った通りになってて怖いわ!)


「あぁ、これは妻が作った人形だ。私達の子供を想像して作ったそうだ。髪と瞳の色が私と妻のだろう? はは、可愛い事をしてくれるよな。実際に妻はとても可愛いが」
「……あ、あぁ……。は……はは……。そ、そうですね……」


(違うっ! 護衛さんはそんな事を聞きたかったんじゃないっ! しかもサラリと惚気てるし!? 本人わたし目の前で止めてっ!? 護衛さんも反応に困ってるじゃないー! ホント、この人変な所で天然だわっ!)


「よく出来ているだろう? 今にも動き出しそうな気がしないか?」
「え、あ、あぁ……。そうですね、とてもお上手に作られていますね。このフカフカな手足も、ガラス玉の眼もひょっこりと動きそうな……」


(ギクッ!)


 護衛がチラチラとこちらを見てきて、私は内心ハラハラ状態のまま、そこにビシリと固まっていたのだった……。



 護衛と部屋の前で別れると、リオーシュはサッとお風呂に入った。明日は早朝から出発する予定なので、もう寝る事にしたようだ。


「……リーエ。一緒に寝てもいいか?」


 リオーシュはそう言うと、私を片手に抱いてベッドに入った。


「君が傍にいると、ロアが一緒にいる感覚になるんだ。彼女が作ったものだからかな?」


 照れくさそうに微笑むと、リオーシュは腕の中でリーエちゃんを抱きしめる。


「やっぱりだ……。ロアの温もりみたいだ。人形の君には温もりなんて無いのに、おかしいよな」


(それは、その中に“私”が入っているからですっ!)

 
「……あぁ、今日は……すぐに眠れそうだ……。――済まない、ロア……。君を“自由”にしてあげられなくて……。アディオの言った通りだとしても……それでも……私は、君を……離したく……な……」


 そこで、言葉が途切れる。
 そろそろと顔を上げると、リオーシュは眠ってしまっていた。閉じた瞳から、一筋の涙を伝わらせて。


(貴方の『懺悔』は、ここでも続くのね……。その『懺悔』と『後悔』は、私が傍にいる限り……私を見る度、きっと……いつまでも続くのね……? 私が……貴方から離れて、それが無くなるのなら……。大好きな貴方が、貴方を巣食う深い苦しみから解放されるのなら――)


 私は仄暗い思いに蓋をするように、リオーシュの胸に顔を埋めたのだった――











※※※※※※

今日はバレンタインデー。
読んで下さっている皆様に、大きな感謝を込めて。
本日は夜も更新予定ですので、よろしくお願い致します。




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