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◆本編◆
2.心高鳴る“噂”
しおりを挟むそして、私達は考えられる点を思いつく限り挙げていく。
「娘に一目惚れ……は無いか。五年前に御両親を亡くし、齢二十四歳で公爵になったあの方は、この国で王族の次に偉くて、国一番の魔導師様だしな。その上女性の誰もが振り向くあの整った容姿ときたもんだ。我々にとって高嶺の花の人物が、底辺にいる伯爵の娘に一目惚れは有り得んな」
「えぇ、自分で言うのも悲しいけど無いわね。本当に有り得ないわ。ちょっと見てたらギロリッと睨まれるくらいだもの」
「……お前の場合、“ちょっと”じゃないと思うんだよなぁ……。毎回穴が空くほど見つめていただろ……」
「――えっ!? そ、そんなっ!? な、何のことやらサッパリだわっ!?」
「……はぁ……。やれやれ……」
「この子は見た目通りの平凡で目立たない子ですし、一目惚れは一ミリも可能性はありませんわね……。――あっ、勿論、母目線としてはあなたはとっても可愛い娘ですよ? 目に入れても痛くないくらいですもの」
「ふふっ。お母様、必死のフォローありがとう。分かってるから大丈夫よ」
私は全く気にせずクスリと笑うと、別の理由を考えてみる。
前世で読んでいた小説や漫画を参考にすると、可能性があるのは――
――あっ、もしかして……?
「“政略結婚”、かしら……。うちの資産が目的……とか?」
「うちの資産か……。なるほど、我が伯爵家はこの辺りでは有数の鉱山をいくつか所有している。そこから貴重な鉱物も発見されているし、その可能性は高いな」
「えぇ、確かに……。もうそれしか考えられませんわね」
父と母は納得したように大きく頷いた。
「アディル、お前はどうしたい? この申し込みを受けるようであれば、私達はお前を全力で支える。オブラスタ公爵家と繋がるのは得であって損は無いからな。しかし断るようであれば、私達はお前と伯爵領の我が民を全力で守るよ。うちは他に後ろ盾もあるから心配しなくていい。お前の判断に任せるよ」
「えぇ。自分が“幸せ”になる、望む方を選びなさい。後悔の無いように、ですよ?」
「お父様、お母様……。ありがとう、大好きよ――」
優しく微笑む父と母に胸が熱くなった私は、泣きそうになるのをぐっと堪え、しっかりと首を縦に振った。
「その縁談、有難く受け入れます」
――そして、嫁ぐ日の前日、私を心配してくれた友人が伯爵家を訪ねてきて、公爵家にまつわる“噂”を教えてくれたのだ。
私はそういう類は疎いので知らなかったけれど、結構有名で信憑性のある“噂”らしい。
「オブラスタ公爵は、一緒に住んでいる継母の娘である義妹と相思相愛な仲で、結婚の約束もしていた」
――と。
私はそれを聞いた時、胸が一層大きく高鳴った。
――ショックの方ではなく、“期待”の方の高鳴りで。
(もしや……あの“伝説のお言葉”が聞けるかもっ!?)
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