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小話:ライジン家のとある一日 3

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 よし、ここまで聞いたんだから、勢いで他にも聞いちゃおう! こんな話、なかなか聞ける機会ないと思うし!

「ねぇ、父さん達はどこにデートに行ってたの?」
「おっ、いきなりぶっこんできたなぁ。そんなん知りたいか?」
「うん、知りたい知りたい。だって父さん、そういう女性が好きそうな場所分からなそうだし。どこに母さん連れて行ってたのかなって。――あっ、まさかお城の訓練場!? 見学デートとか? 母さん、それはそれで喜びそうだけど……まさか本当に……? いや、父さんなら十分ありえるな……」
「……お前なぁ……。さすがにそんな危険な場所には連れて行かねぇよ……。父ちゃんを剣好きの鍛錬バカだと思ってんだろお前……」
「うん」
「……いやまぁ、否定はしねぇけどさ……」

 父さんが、私の肩に自分の額を乗せガックリしています。

「まぁ……他のヤツらと変わらない、ありきたりなとこだな。街を案内がてらぶらついたりとか、色んな店を巡ったりとか。《聖騎士》になった後は空の散歩をしてみたな」
「へ? 空の散歩!? いやいやそれは全然ありきたりじゃないよ!? 一般人には経験できないとっても貴重な体験だよ!?」
「おぉ、父ちゃんも母ちゃん喜ぶと思って抱えて飛んだんだけどな、母ちゃん固まっちまって、父ちゃんの服掴んだまま微動だにしねぇの。そこで母ちゃんは高い所が苦手だって分かったな。だから空中散歩はその一回だけだな」
「えぇっ!? そうなのっ!?」

 そう言えば、母さんと一緒に飛行機に乗ったことは今までなかったな……。
 無敵説が流れる母さんにも唯一弱点があったなんて……!

「でもその時の母ちゃん、すっげー可愛かったぜ? カタカタ震えて、泣きそうになって父ちゃんにピッタリくっついて服掴んで離さねぇの。庇護欲っていうの? それがすげーかき立てられたな」

 父さんは顔を上げると、その時のことを思い出しているのか口元が緩んでいます。父さんってば無意識に惚気けてるな……。はいはいご馳走さま。
 すると突然、父さんがプハッと吹き出して笑い始めました。

「お前も最初の空中飛行は震えて泣きそうになって父ちゃんの服離さなくって、やっぱ母ちゃんの娘だなって思ったけど、ギャーギャーうるさいしガッチガチだし服引っ張りすぎて伸びるしムードも何もあったもんじゃなかったなぁ。くくっ」
「なっ……今ソレ思い出す!? だって本気で怖かったし! しかも父さん相手にムードなんていらないし! 全く不必要なものだし! クシャクシャに丸めてポイッだし!」
「ははっ! 何言ってんだ、キスするムードになったじゃねぇか、なぁ?」
「ちょっ、盛大に誤解を招くような言い方しないでっ!? 緊張を解すために父さんがいきなりおでこにしてきたんでしょう!? ムードはムードでも、“ったくしょーがねぇなぁ”ムードで溢れてたよ!?」
「ぶははっ!」

 くっ、このニヤニヤ顔が腹立たしい……! 惚気けたと思ったらからかってくるし! 全くこのイジワルオヤジめ!!

 ……あ、オヤジと言えば……。

「ね、父さんのお父さん……おじいさんとはその後どうなったの? 仲違いしたまま?」
「あ? お前はいつも唐突に質問変えてくるなぁ。じいちゃんとは最終的には和解したぜ。母ちゃん住む場所なかったからライジン邸で一緒に暮らしたんだけど、同じ家にいる以上、どうしてもじいちゃんと顔合わせちまうだろ? その度に母ちゃんが話しかけて会話をしてさ。次第に母ちゃんのことえらく気に入っちまって。二人で暮らせって、ライジン邸で働いてたヤツらを全員解雇して、その建物と土地の所有権を父ちゃんに譲ってさ。オフクロ……お前のばあちゃんな、と一緒に隠居して、人っ子一人来ないような山の中で、夢だったっていう畑を耕して二人で自給自足の生活を送ってるよ。ずっと山ん中にいるし、もしかしたら、父ちゃんが【闇堕ち】してたことも気付いてないかもなぁ。バタバタしてたから行く機会なかったけど、今度会いに行こうな。もう結構いい年だけど、今も元気に自給自足な生活をしてると思うぜ」
「うん、会いたい!」

 顔を輝かせながら頷いた私に、父さんはフッと笑うと頭をグリグリ撫でてきました。

「ふふ、楽しそうね。何のお話をしていたの?」

 そこに、トコトコと歩いて来た母さんが微笑みながら会話に入ってきました。

「うん、母さんと父さんの馴れ初め話を聞いてたんだよ。あとデートはどこに行っただとか」
「あらあら、そうなの? 何だか恥ずかしいわぁ」
「柚月がどうしても聞きたいって言うからさ」
「そんなお話聞いたって何の得もないわよ?」
「オレはあの頃の母ちゃんを思い出してすげー得したけどな。ま、今も得するくらい超美人だけどさ」
「もう、あなたったら」

 恥ずかしそうにする母さんに優しい笑みを向けている父さんを見て、私は自然に口が開き問い掛けていました。

「ねぇ、父さん、母さん。――今、幸せ?」

 二人は私の問いに顔を見合わせ同時に笑うと、これまた同時に言葉を出します。


「あぁ、幸せだ」
「えぇ、幸せよ」


 私はそのハッキリと紡がれた答えに、とびきりの笑顔を返しました。
 父さんはそんな私を見てニッと笑みを浮かべると、頭をガシガシッと撫でてきて……。

「そうそう、幸せついでに報告な。まだ少し先だが、お前に弟か妹が出来るぞ。だから身重の母ちゃんの様子を見に頻繁に帰って来いよ。産まれた後も母ちゃんの手伝いと赤ん坊の顔を見に頻繁に帰って来い。毎日でもいいぞ。いや毎日帰って来い。約束な」
「あらあら、あなたったらまた無茶を言って……」
『おいおい、さすがに毎日呼び出されるのはキツイぜ~?』

 ………………。
 …………。


「……え、えぇえーーっっ!?」


 二十二……いや二十三歳違いの兄弟がっ!?
 あっ、その前に母さんの体調大丈夫なの!? さっきまで普通にいつも通り家事してたけど!

「か、母さん! 今何ヶ月目? つわりとか大丈夫? 辛くない?」
「二ヶ月経ったけど、全然平気よ。あなたの時も全くつわりもなくてピンピンしてたから、今回もきっと大丈夫よ。あなたもこの子も、お腹にいる時からお母さん想いの良い子ね。ふふっ」
「よ、良かった……。でも絶対に無理はしないでね? 父さん! ちゃんと母さんを見てあげてね?」
「そんなん言われなくともさ。お前も毎日帰って来るんだぞ?」
「いやそれはムリ!」
『俺様もムリ!』
「だよね~」
『だよな~』
「くそっ! ライ、お前裏切りやがったな!? 息ピッタリにハモりやがって!」
『毎日なんてムチャ言うお前が悪いんだよ』
「ね~」

 私達のやり取りに、母さんはクスクスと笑いを零します。

「ふふっ。でもわたしは柚月とイシュリーズくんの方が早いと思ったんだけど、お先になってしまったわ」
「はぁっ!? 何言ってんだ! オレはまだアイツとの交際もちろん、結婚も許してねぇからな!?」
「あらあら? 二人での旅を許したのに今更何を言っているのかしら?」
「そっ、それは! アイツに『娘にヘンなコトは絶対にするな』『娘を死んでも守れ』って約束させて、アイツも真面目に真剣な顔で返事して頷いたし、ソレに免じて仕方なく妥協したんだ! そ、それにだな、『可愛い子には旅をさせよ』っていうどっかの世界の言い伝えがあってだな……」
「あらあら、うふふっ」
「な、何だよ……」
「ふふっ、いいえ?」


 …………。
 ……父さん……ゴメンね。
 イシュリーズさん、旅に出て最初に泊まった宿屋で、

「これは決して“ヘンなコト”ではありません。“互いの愛を確かめ合う行為”です。決してあの人との約束は破っていません。そうですよね、柚月?」

 ……って、あの有無を言わせない笑顔で言われて、その夜は“朝までコース”を……。
 しかも、旅に出てほぼ毎日……。たまにイシュリーズさんが暴走して、立てなくなって一日をムダにするくらいの激しい時もあって……。うっ、思い出しただけで羞恥で死ねる……。
 毎日して飽きないのかって、さり気なーく訊いてみたところ、

「俺は毎日一日中でも、ずっと貴女と繋がっていたいですよ? 一つになれるこの時が、本当に至福の時間ですから」

 と、ものすごい蕩けるような笑顔で言われました……。目が、目が本気でした……。

 くぅっ、イシュリーズさんの絶倫具合を侮っていた……っっ!!
 彼の方が断然体力があるから、する度いつも私の身体を労ってくれるのは嬉しいけど、その行為を数日休むという選択肢は彼の中には全くないみたいで……あぁ……。
 毎夜部屋の外に出されるウインさん……本当にごめんなさい……。


 ……っとと、つい遠い目になっちゃった……。
 そっか、うちにも赤ちゃんがくるのかぁ……。旅に出てすぐ、ホムラさんのお家にお邪魔して赤ちゃんを見せてもらったけど、すごく可愛かったなぁ……。

 あ、ちなみにホムラさんのお母さんのカガリさん、何とハーフエルフだったんです。だから寿命も人間より長いわけで。高齢出産だと勝手に思ってごめんなさい……。
 ちなみにやっぱり美人さんでした。耳も尖ってました。憧れのエルフをこの目で見られて感無量でした!
 エルフは、この世界でも存在自体が貴重で高貴な種族らしく、その為悪いことを考える人達に狙われる心配もある為、カガリさんは自分がハーフエルフだってことを家族や《聖騎士》以外の人達に隠していたんです。

 ……ん? 待てよ……。そうなるとホムラさんはエルフのクォーターなわけで……?

 高貴で貴重なエルフの血を引くホムラさんが、ドMでド変態……。

 …………。
 ……うん、考えないでおこう。

 頭と手を振って、脳内ホムラさんを煙を撒くようにサッサと追い出し(『ヒドイッ!』って声が頭に響いた……)父さんと母さんを見ると、仲良さそうにお喋りをしていて。
 その仲睦まじい二人の姿は、本当に幸せそうで……。


 ――でも、私達は知っている。
 その幸せが、何の前触れもなく、ある日突然崩れ落ちることがあるのだ。

 だから、私達は今の幸せを、強く強く噛み締めながら生きていく。
 この幸せは、とても貴重で大切だということを心に刻んで。


 けれど願わくば、この幸せがいつまでもいつまでも続きますように。



 神様へ、心からの祈りを捧げましょう――







Fin.




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みんなの感想(19件)

はにーれもん

本編完結おめでとうございます&おつかれさまでした…!!

大変素敵なお話で、心の栄養になりました…てぇてぇ…(合掌🙏)

番外編も楽しみにしております〜!!

望月 或
2023.09.08 望月 或

はにーれもん様、こんにちは(^^)
わぁ、ありがとうございます!
うぅっなんて嬉しいお言葉を……!(T□T)心の栄養になれたことが、本当に嬉しくてありがたいです!
いえいえこちらこそ最後までお付き合い下さりありがとうございます……(平伏)
番外編はもう少しお待ち下さいませ〜!
もし「こんな話読んでみたい」というものがありましたら教えて下さいね(*^^*)
嬉しいコメントありがとうございました!

解除
yuuka
2023.09.08 yuuka
ネタバレ含む
望月 或
2023.09.08 望月 或

yuuka様、こんにちは(^^)
素敵だなんて、なんて勿体ないお言葉を……! 嬉し過ぎます! ありがとうございます!!
嬉し過ぎの余り調子に乗って挿絵を追加してしまっていたらごめんなさい(^^;)(笑)
さみしいとのお言葉、本当に作者冥利に尽きます……。ありがとうございます(TT)
おぉっ、yuuka様! 実は、近日中に載せる予定の小話ですが、まさにそこら辺のお話で……。
心が読まれた!?とドキリとしました!(笑)
恋愛話……追加しようかしら。父母に興味を持って下さって嬉しいです♡
蕾は確かに鈍感ですが(笑)シデンにはとある武器があるので……ふふ。
また「こんな話読んでみたい」というものがありましたら教えて下さいませ(*^^*)
嬉しいコメントありがとうございました!

解除
はなここ
2023.09.08 はなここ

楽しかったです!
キャラがみんな素敵で、イキイキしていてすごいです😄
それぞれの会話も、柚月の心の声も面白くて、ニヤけながら読んでいました。
楽しいリフレッシュの時間となりました✨

望月 或
2023.09.08 望月 或

はなここ様、こんにちは(^^)
うわぁ……! とても嬉しいお言葉ありがとうございます!! 作者冥利に尽きます(*^^*)
よっしゃあ! ニヤケ顔戴きましたー!(ガッツポーズ)
この作品が、はなここ様にとってリフレッシュになれたことがすごく嬉しいです♡
嬉しいコメント、本当にありがとうございました!

解除
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