【R18】《用無し》と放り出された私と、過保護な元《聖騎士》様の旅路

望月 或

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小話:ライジン家のとある一日 2

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「そうだな……。あれは二十五年前、父ちゃんが二十七歳の時だ。当時は現《雷の聖騎士》――ま、父ちゃんのオヤジなんだが、まだ聖騎士になれないのかって毎日と言っていいほど責められててさ、超不機嫌で王国の外壁周辺を巡回してたんだよ」

 そっか、父さんは今は三十二歳だけど、順調に年を取っていけば五十二歳だったんだよね。
 うーん、まだ想像出来ないな、その年齢の父さんの姿……。

「その外壁の前で、母ちゃんは座り込んでたんだ。スカートひらひらのヘンな服装でボーッと空を見上げててさ。そんな怪しいヤツに、機嫌が悪いのもあって乱暴に話し掛けたんだよ。女だし、怖がるか怯えるか泣くかと思ったけど、母ちゃんはホッとしたように顔をクシャッとして笑ってさ。今思うと、知らない土地で一人ぼっちで不安な時に話しかけられたのが嬉しかったんだろうな。あの顔は今でも鮮明に思い出せるぜ」

 懐かしそうに口の端を上げる父さんを見て、私も自然と顔が綻びます。

「その時の母ちゃんはヘンな格好で怪しい上に、長い黒髪で黒い瞳の色ときた。父ちゃんは黒髪に偏見なんぞ持ってなかったが、他のヤツらが母ちゃんを見つけたら何するか分かったもんじゃねぇし、取り敢えず父ちゃん家まで連れて帰ったんだよ。お互い言葉分かんねぇから、身振り手振りで危害は加えないことを分かってもらって、何とかついてこさせたって感じだな」
「うん……」

 ……あぁ、初めてイシュリーズさんと会った頃を思い出すなぁ……。
 言葉が全然通じなくて、二人して途方に暮れたんだよね……。

「案の定、ライジン邸で働いてるヤツら全員悲鳴を上げたり、おぞましいものを見るような目でこっちを見てさ。オヤジも『なんてものを連れて来たんだ』って激怒りだ。母ちゃんは申し訳なさそうに頭を下げて出ていこうとしたけど、父ちゃんが止めて一緒に家を飛び出した。母ちゃんにそんな態度を取るアイツらが許せなくてさ。その当時、《水の聖騎士》になったばかりのスミレに助力を求めようと、馬車に乗ってブルフィア王国まで旅に出ることにしたんだ」
「おぉっ! すごい、父さん行動派!」
「はっはっは、だろ?」

 父さんってば、初対面の異世界人の女性にそこまでするなんて……。その上父さん高身長でイケメンだし、当時はまだ【闇堕ち】していなかったから、黄金色の髪と瞳でキラキラ度がアップしていたと思うし。しかも男女構わず話し掛けられる気さくな性格で……。様々な面で母さんが父さんのことを好きになるはずだよね!

 ……あ、そうなると一つ気になることが……。

「ね、父さんって昔から結構モテた方だよね?」
「ん? 何だ藪から棒に……。まぁお前が惚れるくらいだから、父ちゃんすっげーカッコいいだろ? それなりにはそうだったんじゃねぇか?」

 ニヤニヤしながら私の頭を手でグリグリしてきたので、顔を膨らませながらそれを払い除けます。

「私が惚れることは全力で否定するとして、カッコいいことは否定出来ないから、当時付き合ってる人はいなかったのかな? って」
「あぁ、そこ心配してたのか。そうだなぁ、確かに寄ってくる女子達はいたな。けどそれより自分の剣の腕を上げる方が大事で優先順位が高かったからな。そういうのは作らないで、暇さえあれば剣の鍛錬してたぜ」
「えっ、父さんってば見掛けによらず意外と硬派!?」
「失礼なヤツだな、父ちゃんはいつでも硬派で誠実だぞ。まぁそん中で、母ちゃんは何故か最初から気に掛かってたんだよなぁ」
「おぉっ、そうなんだね」
「で、ブルフィア王国までの旅の最中さ、母ちゃんずっと申し訳なさそうにしてんだよ。でも顔を合わせると笑ってさ。自分の出来ることはしたり、手伝えることは率先してやってくれたよ。辛いのは自分なのに心配を掛けさせないようにしてくれてるのが一目で分かって、ここで父ちゃんの心は一気に母ちゃんに傾いたな」

 あっ、先に好きになったの父さんだった!

「母ちゃんとの旅は、言葉が分からなくても楽しくてさ。表情を見ると、お互い何となく言いたいことが分かったんだよなぁ」

 えっ、もう既に相性の良さが出始めてた!?

「そんなこんなであっという間に水の国に着いちまってさ。スイジン邸に行ってスミレに事情を説明すると、アイツは言葉と文字が分かるようになるっていうクッッソ不味そうな黒色の液体を母ちゃんに飲ませたんだ」
「……あぁ、イカ墨ドリンク! ソレ私も飲んだけど、アレは本当にもう絶対飲みたくないよ……。クッッソ不味い以上のシロモノだよ……。考えただけでウェッてなるよ……。飲んだ後の頭痛もガンガンで死にそうなくらいヒドかったし、高熱も数日出るしで散々だったよ……」
「うっわ、そりゃ……。スミレから聞いてたけど、やっぱり事実だったのか……。大変だったな、柚月……。父ちゃんも見た目と匂いだけでもうウェッてなってダメだったわ。でも母ちゃんは文句も言わずに頭を下げた後、ニコニコしながら一気に飲み干してさ。んで、この世界で最初に言った言葉が『なかなかイケるお味でした。ごちそうさまでした』だよ。その後も頭痛や熱もなくケロリとしてたし、何だコイツすげーっ! って心底思ったね」

 か、母さん無敵説……!!

「で、母ちゃんは父ちゃんのもとに真っ先に来て頭を下げてさ。『助けてくれて本当にありがとうございます。ここで最初に出会ったのがあなたで良かった』って、超可愛い笑顔で言われてさ。これでもう完全ノックダウンだ。その場で母ちゃんに好きだ、オレと付き合ってくれって言って、母ちゃんは寝耳に水って感じで驚きながらも頷いてくれてさ。コイツを絶対に守るって決意したら、いつの間にか《聖騎士》になってたし」
「えぇっ!? まさかの初めての出会いからたった数日でのスピード交際っ!?」
「母ちゃんを他の男に取られたくなかったしな。“善は急げ”っていうじゃん?」
「おぉ……。父さんの迅速な決断力には感服だよ……」
「はっはっは、だろー? 惚れたろー?」
「父さんが母さんにね?」
「おっ、そう返してきたかー。やるじゃねぇか」


 ……きっと母さんは、父さんの勢いと迫力に押されて思わず頷いちゃったんだろうな……。
 でも、少なからず母さんも父さんに好意は抱いてたと思う。そうでなきゃ、母さんの場合そのまま父さんと付き合わないと思うから。
 母さんの性格上、好きじゃない人と付き合うのは相手に失礼だし申し訳なく思って、すぐに訂正して謝ると思うんだ。

 だから……脈があって本当に良かったね、父さん。



 
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