【R18】《用無し》と放り出された私と、過保護な元《聖騎士》様の旅路

望月 或

文字の大きさ
上 下
128 / 134

127.愚かな男の末路

しおりを挟む



 灰城戒はいじょうかいは、気が付くと真っ暗な空間の中にいた。
 その暗闇の空間に、飾り気の無い、大きな両開きの扉が淡い光をたたえ、ポツンと佇んでいる。


「……何だここは……?」
「おっ、来たね。〈バーラウズ〉の神に見放された者よ。待ってたよ」


 戒が無意識に呟くと同時に横から男の声が聞こえ、彼は反射的に飛び退く。
 そこには小さなテーブルとお洒落な椅子が一つずつあって、そこに一人の若い男が頬杖をつき、ニヤつきながら座っていた。
 若い男の髪は紫だが毛先は緑色、瞳は様々な色が入り交じり、何とも珍しい風貌をしている。
 男とテーブル一式も、扉と同じ薄い光で包まれていた。

「何だお前は……」
「ん~? 礼儀がなってないねぇ。人のコトを訊く前に、まずは自分から名乗るもんでしょ。ま、聞かなくとも俺はアンタのコト知ってるけどさ。ねぇ、“灰城戒”クン?」
「…………!?」

 男の瞳の奥が鋭く光り、それを見て戒の頭の中で警戒心が一気に上がった。
 自然と足が危険を避けるように後退していく。

「ははっ、そんなに怯えなくても大丈夫。何もしないからさ。簡単に自己紹介すると、俺はここの案内人兼管理人。ここは様々な世界から裁き切れない大罪を犯した者が来る、んー……そうだな、まぁ監獄所みたいな場所さ」
「監獄所だと……? 僕は元の世界に戻ったんじゃないのか!?」

 思わず叫んでしまった戒に、男はニヤニヤ顔を崩さずに答えた。

「その世界で起きた罪は、その世界で罰することが通常のルールなんだけど、大罪を犯し、反省や改心の色が全く見られない者は、その世界の神が直接ここに連れてくるんだよ。けどアンタ、《勇者》交代されたろ? その時、アンタの行き先がココに指定されていたのさ。この場所は、各世界の神か、長く生を過ごすエルフくらいしか知らない場所だから、〈バーラウズ〉の神が特例で人間に教えたんだろうね」
「なっ?」
「さて、改めまして。ここはアンタがこれまでの罪を償う場所さ。そしてここに入ったヤツらは全員、最終的に自分のしでかした罪を深く嘆いたり悔いたりするという、被害者にとってアリガターイ場所でもある」
「はぁ?」

 戒は胡散臭そうに男を見たが、彼は含み笑いをし、少しだけ声のトーンを高くして言葉を投げた。

「にしてもアンタ、結構ヒドイコトしてるねぇ~。魔物をけしかけたり、可愛い女のコを殺したり。ただ気に食わないとか腹が立ったってだけで、兵士も何人か殺してるね。命乞いをムシして、笑いながら何度も剣を突き立ててさ。魔物にやられたって理由で処理してたみたいだけど。他にも色々……うわっ、こりゃ口に出来ないわ。結構じゃなく相当ヒッドイね~。しかもソレらに対し、反省も罪悪感も微塵もナシ、と。うん、ここに来てダイセイカーイだな」
「…………! 何故そこまで――」

 戒の瞳が驚愕に見開かれるのを見て、男は瞳を細めてケラケラと笑う。

「俺の目は千里眼みたいなもんだからさ。アンタの胸の内も見れるし、こっから様々な世界も覗けるんだよ。眺めてると飽きないんだよな~。人間ウォッチっていうの? どうしようもないクズがいたら、自ら俺が出向いてここに入れてるよ。そんなクズは、どこの世界にもいらないゴミだからね。ちなみにアンタもそのクズの分類だなぁ。しかも上位のクズだ。アンタをここに送る判断をした人間に感謝しなくちゃね。こんなきったないゴミクズを見逃さずに済んだし」
「なっ……!?」

 ひとしきり笑うと、男はおもむろに椅子から立ち上がり、戒に近付いてきた。

「さて、ムダ話はもう終わりだ。そろそろ行こうか。ちなみにこの扉に入ったら、罪を心から悔い改心するまで出られないよ。――あ、そうだ。中に入ったヤツラが全員口を揃えて言うコトバ、教えてあげるよ。餞別に、ね」

 男はニイと口の端を大きく持ち上げると、戒の耳に唇を寄せ、囁いた。


「『もう死にたい、自分が悪かったから、頼むから死なせてくれ』、ってさ。“命乞い”と反対のコト言ってんの。言葉を作るとしたら、“死に乞い”かな? ははっ、笑っちゃうよねぇ。ま、そう言われても簡単には死なせてあげないけどね? カンペキに悔い改めるまでは、ね。だからアンタも、〈バーラウズ〉の神に願った【衰えない肉体】、だっけ? をこっちに来てもそのまま継続させといたよ。これでアンタは永遠にあの中にいられるわけだ。ははっ、良かったねぇ。地獄以上の苦しみと痛みを末永く味わえて」


 口調は軽快だが、男の酷く冷たい瞳と声音に、戒の全身が大きく震える。

「そんじゃ行こうか。お一人サマご案内~♪ ってね」
「まっ……!」

 そして扉は音を立てて開かれ、そこから無数の青白い手がニュッと伸びてきた。

「ひっ!!」

 逃げようとする戒だったが、その青白い手は彼の逃亡を許す筈が無く――
 彼の身体を難なく捕まえると、満足したように中に戻っていく。
 彼をその手で捉えたまま。

「あっ、そうそう。入った瞬間から地獄が待ってるよ。程なくして地獄以上の苦痛と絶望がアンタを襲う。アンタの“死に乞い”はいつ聞けるかな? ってもアンタ、根性なさそうだから即行言いそうだけどね。でもま、その望みは叶えてあげられないから。アンタが心の底からカンペキに改心するまではさ。あはっ、ゴメンね~?」


「ギャアアァァッッ!!」


 戎の悲鳴を残し、扉は何事もなかったかのように、ゆっくりと静かに閉まっていったのだったーー



しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道

Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道 周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。 女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。 ※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...