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124.召喚士の告白

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「もう一つ、二十年前の魔物襲撃事件ですが――あぁ、丁度良かった」

 イシュリーズさんが不意に空を仰いだので、私もつられて見上げると、そこには華麗に羽ばたく火の鳥さんがいました!
 そこからリュウレイさんが飛び降りてきて、これまた華麗にスタッと着地します。
 うわぁ、見事に決まった! 相変わらずリュウレイさんカッコいい~! 痺れるぅ、憧れるぅ~っ!
 ……あれ、誰かをお姫様抱っこしてる……?

「待たせたな。二十年前の襲撃事件の証人を連れてきたぞ」

 リュウレイさんがフードを被っている人物を地面に降ろすと、灰城戒が驚いたように目を大きく見開きました。

「お前っ、探してたんだぞ!? 今までどこに――」
「……あの方達に、両親共に保護して頂いていたんです。そして、あなたに罪を認めて貰いたくて、罰を受けて貰いたくて参上しました。もちろん、ぼくの罪も……」

 フードの人は、小刻みに震える身体でそう呟くと、思い切ったように顔を上げます。
 フードの中はまだ三十代に見える、童顔で可愛い顔立ちの男の人でした。


「みっ、皆さん、聞いて下さい! ぼくは、二十年前にこの広場であった魔物襲撃に大きく関わっています。魔物を召喚したのは、このぼくです! それを指示したのは、目の前にいるこの《勇者》です! ぼくの両親を人質に取られ、召喚しなければ両親を殺すって脅されて、仕方なく……。でも、仕方ないで済まされないことをしてしまいました。《雷の聖騎士》様を【闇堕ち】させてしまって、そのご家族も不幸に……。本当に、本当に何てお詫びしたらいいのか……今もずっと……ずっーと考えていて……」


 話しながら、召喚士さんはポロポロと大粒の涙を零します。住民の皆さんのざわめきが、より一層大きくなりました。


 ――あぁ、この人も被害者なんだ……。
 父さん、見てるよね? この人もすごく苦しんでいる。自分を責めて、責めて……。
 こうやって二十年間、数え切れない程の涙を流したのだろう。ご両親を人質に取られながら、灰城戒の言葉に怯えながら、ずっと罪悪感と自己嫌悪に苛まれて――

 この件が終わったら、「あなたは悪くないよ」って言ってあげたい……。


「お前、もう喋るなッ!!」

 灰城戒が召喚士さんに向かって駆け出そうとしたけど、一足早くリュウレイさんが水の縄を作り、彼の手足を縛って止めてくれました。

「ぐぁっ!」

 バランスが崩れた彼は、勢い良く地面に倒れ込みます。


「あ……あと、最近起こったブルフィア王国での魔物襲撃も、ぼくが召喚しました……。兵士達がまだ戦ってるのに良いのかと聞いたら、『そこで魔物に殺されるのなら、それだけの価値だっただけだ。そんな弱い奴は僕の部下にいらない、さっさと死ねばいい』って笑って……。こ、この人は、《勇者》の皮を被った悪魔です……っ!」


「黙れと言ってるだろーがこのゴミクズがッッ!!」


 倒れたまま叫んだ灰城戒の鋭い一喝に、辺りは一斉にシンと静まり返りました。
 彼は、自分が今しでかしたことに気付いて顔を歪ませたけれど、もう遅いです……。

「……ねぇ、灰城戒さん。いい加減、罪を認めたらどうかしら? アナタの本性はここにいる皆様に露見されてしまったわ。だからもう隠していても仕方ないわよね?」
「…………」
「ねぇ、分かっているのかしら? アナタはしてはいけないコトを沢山してしまったのよ。アナタの中に罪悪感というものはないの?」

 イシュリーズさんの腕に包まれたまま、私が静かに問いかけると、灰城戒は突然狂ったように笑い出しました。
 唐突な彼の奇行に誰も声が掛けられず、ただ笑いが収まるのを待つしかありません……。


「は、ははっ……。あー、おかし……。罪悪感? そんなもん微塵にもあるわけねーだろーが。人を殺そうが誰が苦しもうが、僕が楽しければそれでいいんだよ。退屈な日々なんてつまんねーだろ? こちとら贅沢で刺激的な生活を求めてるんだよ」
「……ホンット最低ね、アナタ……」
「何とでも言うがいいさ。心のキレイなキレイな《聖女》サマ? あぁもう面倒だから、全部罪を認めてやるよ。そうなると、僕は牢獄行きかい? 別にいいけどさ、心も姿も美しい君をこの手で犯せなかったのが心残りだな。僕の下で、君の可愛い鳴き声が枯れ果てるまで……乱れ狂って僕を求めてくるまで虐めてあげたかったのに。……まぁ、まだチャンスはあるけどさ」
「…………っ」


 下卑た笑みと言葉で上から下までジッと見つめられ、私の全身にブワワッと鳥肌が立ちます。
 イシュリーズさんはひどく不快を露わにした表情で、私を深く抱きしめて灰城戒から見えなくしてくれました。

 その時、バキッ! と何かがぶつかる音がし、灰城戒の身体が勢い良く横にぶっ飛び……!?


「……あー……。さっきからすっげームカつくわ、コイツ。オレの許可なく娘の腰を触りまくったり、気っっ色悪ぃこと言ったりしてさぁ。身体中サブイボ立ちまくって腸煮えまくってんだけど、どうしてくれんだよ。今はかなり手加減したけどさ、もう罪を全部認めたんなら、コイツマジで殺していいか? もうズッタズタに斬り裂いてもいいよなぁ?」


 そこには、指の関節をバキボキ鳴らしながら、半目になりものすごい怒りの形相で灰城戒を睨みつける、父さんの姿がありました……。



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