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116.捕われた《風の聖騎士》
しおりを挟む「えっ!?」
私はホムラさんの言葉に耳を疑い、彼を見上げます。
その表情は至極真面目で、嘘や冗談をついているようには決して見えません。
「ど、どうして……?」
カタカタと震える唇で、それだけ呟くのがやっとでした。
「……ホンット、あの《勇者》には参っちゃうよ。〈詐欺罪〉に関しては、これはもうカンペキ言いがかりだよねぇ。イシュちゃんが死んだコトにしておいても、《勇者》にはなーんの被害も受けてないんだから。ただ騙されていたコトに対する自分本位の怒りで罪を作ってるよねぇ」
「はぁ!? ――ったく、怒りを通り越して呆れてくるな……」
「ホントにねぇ。〈窃盗罪〉に関しては、【聖剣】がなくなっているコトに運悪く《勇者》が気付いちゃったみたい。可能性としてイシュちゃんが生きていると考えた《勇者》は、ブルフィア王国に一緒に連れて行った兵士達を尋問したんだけど、全員『分からない』『知らない』の一点張り。イシュちゃんのお願いをちゃんと守ってくれてたんだね。埒が明かなくて業を煮やした《勇者》は、イシュちゃんとユーナちゃんの住んでた家を別の兵士に見張らせたんだって。そして家から出てきたイシュちゃんを強制連行した、って話さ」
「……そんな……」
「イシュちゃんのご両親が必死に弁明してるけど、《勇者》の方が地位が高いから聞く耳持たずって感じだって」
溜め息をつきながら苦々しく話すホムラさんに、私は何とか喉の奥から言葉を絞り出します。
「ど、どうしようホムラさん……。あの《勇者》のことだから、二度も【聖剣】を取られた屈辱と怒りで、イシュリーズさんを〈死刑〉にするかもしれない! ――ううん、あの人なら絶対そうするに決まってる! 何かしら〈死刑〉になる理由をつけて、『大罪だ』とか言って……! そ、そんなことになったら、私、わたし……っ」
「落ち着け、柚月。イシュの坊主は大丈夫だ。……お前の言う通り、ヤツのことだ……何だかんだ屁理屈をこねてイシュ坊を〈死刑〉にする可能性が高い。けどもし王の間で〈死刑〉を宣告しても、ヤツはその場ですぐは施行しないだろう。あのクサレ外道野郎は、プライドだけはものすっげぇ高ぇからな。世間の目もあるし、一応法に則った〈死刑〉の流れにするはずだ。その期間の間に坊主を助け出せばいい」
父さんは、小刻みに震えている私の両肩に手を置き、励ましてくれました。
「そうだよ、柚月ちゃん。それにイシュちゃんは、《勇者》なんか比べ物にならないほど強いんだから、心配しなくても大丈夫さ~。ボクはこれからグリーヴァ王国に行って、最新の情報を探ってくるよ。柚月ちゃんは身体をしっかりと休めるコト。いいね?」
『ユヅちゃん、ダイジョーブだよ! イシュには《ウインド》のおじちゃんもついてるんだからさ、心配ないよ! 《ライトニング》の兄ちゃん、ユヅちゃんを励ましてやってね』
『おぉ。お前も気を付けろよ、《ブレイズ》の坊や』
「ホムラさん、ブーちゃん……。ありがとう――」
「ん、じゃあ行ってくるね~」
ホムラさんはへらりといつもの笑みを見せて、私の頭をポンと軽く叩くと、センさんに挨拶をして部屋を出ていきました。
「ホムラ坊の言う通りだ。お前の今すべきことは、休息と体力の回復だ。万全の体制で、イシュ坊を助けに行こうぜ」
「父さん……。うん――」
「そうと決まれば、柚月さんに消化の良い料理を御用意しますね。ご飯もしっかり召し上がって、早く元気になって下さいね」
「センさん、ありがとうございます……」
「いえ、お礼を言うのは私の方ですよ。前王を制裁し、この国の民を救って下さり、本当にありがとうございました」
「いっ、いえ、そんな……! 頭を上げて下さい、センさん!」
深く頭を下げてくるセンさんに、私は慌てて両手を左右に振ると、彼は顔を上げ優しく微笑みました。
皆さんの心遣いがとても嬉しくて、いつの間にか身体の震えも止まり、代わりに胸の奥からポカポカと温かいものが溢れ出してきます……。
私はそっと胸に両手を置き――
「あ」
ふとそこで、眠っていた期間も含めて、一週間も身体を洗っていないことに気付きました。
……うん、そうだ。塞ぎ込んでも泣いても喚いても事態は変わらないんだ。まずは身体をキレイにさせて、気持ちを切り替えよう!
皆の言う通り、イシュリーズさんはとても強いんだもの。
絶対に、絶対に大丈夫だ……!
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