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115.衝撃的な情報

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「あぁ、オレもすっげぇビックリしたぜ。通常は髪の毛が伸びるのはもちろん、性格や口調もあんなにガラリと変わらないんだが……。一体お前の中で何が起こったんだ? ライの言った、国民の魂を身体に入れてたってことに関係あんのか?」

 ……その魂が“娼婦のお姐サマ”ってことは、何となく父さんに言いづらいな……。親だからこその言いづらさが……。

「うん、まぁ……。ステキなお姐サマが私の中に降臨したっていうか……。《聖騎士》の状態なら、あの姿になることが出来るよ」
「オネエサマがコウリン? ま、詳しい部分を言いたくなきゃ言わなくていいが、あの姿になってお前に負担が掛からなきゃいいぜ」
「それは大丈夫だよ、心配しないで。ところで父さん、お城の方は大丈夫なの? あのブ――王様は?」

 私は話題を変えようと、気になっていたことを訊いてみました。

「ぶはっ! お前、今“ブタ”って言おうとしたろ。いいぞ、言ったれ言ったれ。二十年前よりもブクブク太ってて、マジに大ブタみたいになってたもんなぁ」
「その大ブタ――コホン、前王は正式に王を退位され、犯した様々な大罪により、今は牢獄の中にいますよ。今まで国民の事を無視して、散々豪遊して好き勝手に暮らしていたので、狭くて寒くて臭くて何にも娯楽が無くて薄暗い牢屋の中は、余程窮屈で屈辱で堪らないでしょう。あと、民達が自分に襲い掛かる悪夢を毎晩見ているようで、日に日に目の下のクマが酷くなっていってますね。――はっ、ざまーみろあの薄汚いブタ野郎がッ!」
「せっ、センさん、最後ポロリと本音が……。えっと、じゃあ、今の王様はセンさんに?」

 私の問いに、センさんは照れ臭そうに頭を掻いて答えました。

「はい。恐れ多いですが、一応私がこの国の王になっています。前王の所為で問題が山積みですが、国民を第一と考えて、一つ一つ解決していこうと思っていますよ」
「センさん……。センさんなら絶対に大丈夫ですよ。それにこれからは父もいますから! 二十年間休んでいた分、たっくさんコキ使ってやって下さい!」
「ちょっ、柚月お前、勝手に決めるなよ! オレはフォローだけするって――」
「……ふっ、はははっ。ありがとうございます、柚月さん。では、遠慮なくそうさせて頂きますね! それはもうビシバシガンガンと!!」
「おいおい、マジかよ。勘弁してくれ……」

 拳を作り、鼻息荒く張り切って答えるセンさんと、ガックリ項垂れる父さんの対比が面白くて、つい思わずクスクスと笑ってしまいました。

「センさん、本当に良かったけど、ボクら結局何も出来なくてゴメンね。他国の干渉は王国法で禁止されているから……」

 申し訳なさそうに言葉を出したホムラさんに、センさんは微笑みながら首を振ります。

「謝らないで下さい、ホムラ君。君は自国と兼任で魔物退治を積極的にしてくれたし、君の国の王の指示で、我が国民達に内密に食べ物や毛布を分け与えてくれていたと民から聞いています。君やレドナイト王国の王には感謝しかありませんよ。後日、正式に謝礼の手紙をお出ししますね」
「お、そうだったのか。ホムラの坊主、オレの代わりに魔物退治ありがとな」
「いや~、そう言ってくれると嬉しいし、気持ちが楽になるよ~。ていうかシデンさん、ボクもう坊主じゃないからね~?」
「オレん中では、お前もイシュの坊主も“坊主”のままなんだよ」
「えぇ~? ボク、こーんな立派な紳士なのに~」


 ホムラさんはへら、といつものように笑っています。でも耳朶が何だか赤いような……。ふふ、照れてるのかな?
 こんなに優しいホムラさんがいて、こっそり支援してくれる王様もいて、彼のいるレドナイト王国はとても良い所なんだろうな。
 落ち着いたら一度行ってみたいな……。

 ……ん? そう言えばホムラさんって――


「あの、ホムラさん。ホムラさんはどうしてここへ?」
「あぁ、ボクは伝達係だよ~。自国の王の謁見が終わって許可が下りたから、こうして火の鳥に乗って、皆に情報共有をして回ってるのさ」
「そうだったんですか。お疲れ様ですホムラさん」
「ホムラ坊もさっきここに来たばっかりなんだよな。どうだ? 他のヤツらの首尾の方は」

 父さんがホムラさんに聞くと、彼はふっと真剣な表情になり口を開きました。

「良い情報と悪い情報があるよ。まずは良い情報からね。ブルフィア王国の王の謁見は既に終わり、すんなり許可がもらえたって。同じくグリーヴァ王国も、《勇者》と《聖女》がいない間に王に謁見し、許可が取れたってさ」
「あぁ、良かった……!」
「あと、二十年前の魔物襲撃事件で、魔物を呼び寄せたとされる召喚士の身柄を秘密裏に確保したそうだよ。やっぱり以前ブルフィア王国で魔物を呼んだ召喚士と同一人物だったみたい」
「どうしてその召喚士は《勇者》の言うことを素直に聞いてたんだ? そんなことをしたのがバレたら、重罪になるなんて分かっていただろうに」

 父さんの問いに、ホムラさんは少しだけ顔をしかめると、首を左右に振りました。

「『言う事を聞かないと家族を殺す』って《勇者》に脅されていたらしいよ。その召喚士には、自分の命と同じかそれ以上に大事で尊敬する両親がいてね。彼らの命を人質に取られていたらしい。両親を連れて逃げようと考えたみたいだけど、『逃げても必ず捕まえて殺す』って更に脅されたんだって。彼の両親を《勇者》達に気付かれないように安全な場所に避難させた後、それを召喚士に伝えたら、号泣しながらあっさり白状したみたいよ。両親は、自分が人質に取られていたってコトに全く気付いてなくて、事情を知って、三人共大号泣で大変だったみたい」
「……なんてひどい……!!」


 一体あの《勇者》は、“人”の命を何だと思っているのか!!
 “人”をコマのように扱い、いらなくなったら捨てて。
 “人”を物のように、簡単に脅しの対象にして。
 本当に、《勇者》の中には“人”の血が流れているのか。

 その中身は、もしかしたら心の醜い“バケモノ”なんじゃないだろうか――


「……柚月。気持ちは分かるが唇を噛むな。切れて血が出てるぞ」
「……っ」

 眉間にシワを寄せた父さんに唇を人差し指でなぞられ、その指に赤いものが付着しているのを見て、私は自分の口を強く噛み締めていたことに気が付きました……。


「ムカつくついでにと言ってはなんだけど、《聖女》の現状も伝えておくよ。止める人がいないからワガママし放題で、国のお金で大量のドレスや宝石を買ったり、自分の気に入った男を国のお金で高く買って侍らせて、飽きたら簡単に捨てて、逆に気に入らない侍女には陰湿で最低な嫌がらせをして精神を参らせて辞めさせたりしてるみたい。風の王国のお金が食い潰されちゃうのも時間の問題じゃない?」
「……兄妹揃って超サイアクだな」
「ホントにねぇ」

 ……何と言うか……もう言葉が出ません……。


「……じゃあ、次は悪い情報を伝えるよ。特に柚月ちゃんは、落ち着いて聞いてね」
「え? それってどういう――」

 ホムラさんは大きく息を吐くと、ゆっくりと口を開きます。


「イシュちゃんが捕まって城に連行されたよ。容疑は、《勇者》に“自分は死んだ”と思わせて騙していたコトに対する〈詐欺罪〉と、再び【聖剣】を盗んだコトに対する〈窃盗罪〉――だって」



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