115 / 134
114.お姐サマのプレゼント
しおりを挟む「ちょっ、父さん! 何でホムラさん達がいるってすぐに教えてくれなかったの!? 私の行動止めてよっ! わっ、私、皆の前で父さんに抱きついちゃって! そっ、それに、父さんの、あっ……“アレ”を見られ……っ」
「ん? 何でそんなに動揺しまくってんだ? つーか父ちゃんの”アレ”ってなんだよ……。意味深にヘンな言い方すんなよな。オレ達親子なんだし、別に挨拶のキスぐらい見られても構わねぇだろ? まぁ通常は屋内でするから他人には見られねぇけど、父ちゃんは別に気にしねぇなぁ。外でも普通にできるぜ?」
いやいやいやっ、十分気にしてお願いだからっ!!
「それに珍しく甘えてくるお前可愛かったし、あんなん止めらんねぇよなぁ。――あぁそっか、また照れてんのか? 見事に出来たての茹でダコになってるしな、ははっ。やっと起きたと思ったら、泣いたり怒ったり照れたり……ホンットうちの愛娘は見てて飽きねぇわ」
ニヤニヤとしながら今度は乱暴に頭を撫でられ、私は両腕を突っ張って、父さんの胸をグイグイと押して何とか離れようと試みます。
あぁ、駄目だ……! 父さんの感覚は私の感覚と違い過ぎる! 日本人と外国人の価値観の違いみたいな……。今まで住んでた世界が違うから仕方ないのかもだけど……。
私はどんな目的のチューであれ、人前でなんて考えられないのに! 誰に見られても構わなくないのに!
あっ……そうなると、イシュリーズさんも父さん側のタイプだ! 彼の場合は、挨拶のチューではなくて、恋人にするチューを自分のご両親の前でしたというとんでもないツワモノだけど! あの時は目元にだったけど、彼なら親の前で口にも平気でしそうな気が……。普通にご両親の目の前で抱きしめてくるし……。
ある意味父さんよりツワモノだなイシュリーズさん……。
……早く会いたいな……。
――っと、(心の中で)話がズレてしまった……。
「も、いいから離れてっ!」
「ははっ、そう言うなって。まぁ落ちつけよ。ほら、水だ。水分取ってないから喉乾いたろ? ゆっくりでいいからちゃんと飲めよ」
差し出された水の入ったコップを見て、喉がひどく乾いていたことに気付いた私は、素直に父さんから受け取ると一気に飲み干しました。
冷たい水が喉から身体中を廻って潤していく感じが気持ち良く、おかわりをしてもう一杯飲みます。
……ぷはーっ、何だか生き返った気分!
――って、今更だけどここは一体どこ……?
動きを止めて辺りを見回すと、ここはどうやらお城の一室のようでした。
ダブル並の大きさの豪華なベッドに私は寝ていたらしく、服は動きやすい清楚なワンピースに変わっています。
そしてベッドの端に座り、水を飲んでいる最中も私を腕の中に閉じ込めてなかなか離してくれない父さんと、三人も座れるようなふかふかソファに腰をスッポリと下ろしているホムラさんとセンさん……。
「ここはイーファス城の賓客の間ですよ。そうそう、着替えは侍女にさせていたのでご安心下さいね。でも本当、目が覚めて良かったですよ。あれから五日間も眠っていたので、皆心配していたんですよ。貴女を診て頂いた城の医師に、『身体に異常は無い、ただ眠っているだけだから直に起きる』、なんて言われても、そんなに眠り続けたら気が気じゃなかったですしね」
「……あっ、やっぱりお城だったんですね、ここ。侍女さんに後でお礼を言わなくては……。五日間私のお世話をして大変でしたでしょうに――って、いっ五日間っ!? 私、五日間も眠ってたんですかっ!?」
センさんの信じ難い言葉に、私はタイミングが遅れて心臓が飛び出るほどビックリしました……。
『ユヅキ、お前さ、初めて自分の“技”を作っただろ? 今まで前例がなかったから知らなかったけど、“技”を作るのに膨大な精神力が必要だったんだよ。しかもお前は初めての“技”を、いきなり二つも作った。それにお前、国民一人の魂を身体に入れてただろ。本来相容れないお前の身体に入れてたこともあって、肉体と精神に過度な負担が掛かったんだろうな。身体が莫大な休息を望んでたからこうなったってワケさ』
父さんの腰に差してあったライさんが、頭の中で丁寧に教えてくれます。
「……なぁ、柚月? 父ちゃんは最初に『無茶はするな』って約束させたはずだが? 約束を守らなかった悪~~いコは一体ダレなんだろうなぁ?」
「ぐっ……。ご、ごめんなさい……私です……」
ライさんの話を聞きつつも、父さんから逃れようとめげずに目の前にある胸をグイグイ押していた私は、意地悪い声音で頭上から降ってきた言葉に観念し、抜け出すのを諦めたのでした……。
「いやぁ~、それにしても柚月さんの“あの姿”! 前王の言葉を借りるわけではないですが、まさに女神のように美しかったですよ! 黄金にキラキラと輝く髪の毛は膝ぐらいまで長くなって、表情は妖艶で不敵な笑みが似合う黄金色の瞳が魅力的な美女で! 《雷の聖騎士》になると、姿や性格まで変わるなんて初めて聞きましたよ!」
「へぇ~そうなの? そんなコト言われたらかなり気になっちゃうなぁ。ボクも見たかったな~柚月ちゃんのその姿! 今度絶対見せてね~♪」
――あ、センさんとホムラさん。興奮しているところ悪いのですが、それは私の中に入ってきた、娼婦のお姐サマのお蔭です……。
そしてお姐サマは、私の身体にとあるプレゼントを二つ残していきました。
一つは《雷の聖騎士》になった時に、また“あの姿”と口調になれるお姐サマの〈記憶〉と。
あと一つは、お姐サマが娼婦の時培ってきた、男性を悦ばせる“方法”です……。
………………。
…………。
お、お姐サマあぁ~~っ!? 最後のヤツ! こんなん残していかれましても!! 私は一体どうすればいいんですかぁっ!?
しかも私のこと“奥手”って言ってたし! さては私の中に入った時心情を読んだな!?
それをイシュリーズさんに試せと!? そ、そんなんしたら、あの絶倫な彼のことだから、朝まで……いや最悪ヘタすりゃお昼までコースの可能性大アリじゃないですかぁっ!?
ダメダメッ! 無理ムリむりぃーーっ!!
……最後のヤツは、“時”が来るまで封印しておこう、そうしよう……。
その“時”がいつ来るのかは……神のみぞ知る――
『いやワシも知らんわ』
――神様の呆れた声が、脳裏に聞こえた気がしました……。
6
お気に入りに追加
1,813
あなたにおすすめの小説
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道
Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道
周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。
女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。
※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる