【R18】《用無し》と放り出された私と、過保護な元《聖騎士》様の旅路

望月 或

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114.お姐サマのプレゼント

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「ちょっ、父さん! 何でホムラさん達がいるってすぐに教えてくれなかったの!? 私の行動止めてよっ! わっ、私、皆の前で父さんに抱きついちゃって! そっ、それに、父さんの、あっ……“アレ”を見られ……っ」
「ん? 何でそんなに動揺しまくってんだ? つーか父ちゃんの”アレ”ってなんだよ……。意味深にヘンな言い方すんなよな。オレ達親子なんだし、別に挨拶のキスぐらい見られても構わねぇだろ? まぁ通常は屋内でするから他人には見られねぇけど、父ちゃんは別に気にしねぇなぁ。外でも普通にできるぜ?」

 いやいやいやっ、十分気にしてお願いだからっ!!

「それに珍しく甘えてくるお前可愛かったし、あんなん止めらんねぇよなぁ。――あぁそっか、また照れてんのか? 見事に出来たての茹でダコになってるしな、ははっ。やっと起きたと思ったら、泣いたり怒ったり照れたり……ホンットうちの愛娘は見てて飽きねぇわ」

 ニヤニヤとしながら今度は乱暴に頭を撫でられ、私は両腕を突っ張って、父さんの胸をグイグイと押して何とか離れようと試みます。


 あぁ、駄目だ……! 父さんの感覚は私の感覚と違い過ぎる! 日本人と外国人の価値観の違いみたいな……。今まで住んでた世界が違うから仕方ないのかもだけど……。
 私はどんな目的のチューであれ、人前でなんて考えられないのに! 誰に見られても構わなくないのに!

 あっ……そうなると、イシュリーズさんも父さん側のタイプだ! 彼の場合は、挨拶のチューではなくて、恋人にするチューを自分のご両親の前でしたというとんでもないツワモノだけど! あの時は目元にだったけど、彼なら親の前で口にも平気でしそうな気が……。普通にご両親の目の前で抱きしめてくるし……。

 ある意味父さんよりツワモノだなイシュリーズさん……。
 ……早く会いたいな……。

 ――っと、(心の中で)話がズレてしまった……。


「も、いいから離れてっ!」
「ははっ、そう言うなって。まぁ落ちつけよ。ほら、水だ。水分取ってないから喉乾いたろ? ゆっくりでいいからちゃんと飲めよ」

 差し出された水の入ったコップを見て、喉がひどく乾いていたことに気付いた私は、素直に父さんから受け取ると一気に飲み干しました。
 冷たい水が喉から身体中を廻って潤していく感じが気持ち良く、おかわりをしてもう一杯飲みます。

 ……ぷはーっ、何だか生き返った気分!
 ――って、今更だけどここは一体どこ……?

 動きを止めて辺りを見回すと、ここはどうやらお城の一室のようでした。
 ダブル並の大きさの豪華なベッドに私は寝ていたらしく、服は動きやすい清楚なワンピースに変わっています。
 そしてベッドの端に座り、水を飲んでいる最中も私を腕の中に閉じ込めてなかなか離してくれない父さんと、三人も座れるようなふかふかソファに腰をスッポリと下ろしているホムラさんとセンさん……。

「ここはイーファス城の賓客の間ですよ。そうそう、着替えは侍女にさせていたのでご安心下さいね。でも本当、目が覚めて良かったですよ。あれから五日間も眠っていたので、皆心配していたんですよ。貴女を診て頂いた城の医師に、『身体に異常は無い、ただ眠っているだけだから直に起きる』、なんて言われても、そんなに眠り続けたら気が気じゃなかったですしね」
「……あっ、やっぱりお城だったんですね、ここ。侍女さんに後でお礼を言わなくては……。五日間私のお世話をして大変でしたでしょうに――って、いっ五日間っ!? 私、五日間も眠ってたんですかっ!?」

 センさんの信じ難い言葉に、私はタイミングが遅れて心臓が飛び出るほどビックリしました……。


『ユヅキ、お前さ、初めて自分の“技”を作っただろ? 今まで前例がなかったから知らなかったけど、“技”を作るのに膨大な精神力が必要だったんだよ。しかもお前は初めての“技”を、いきなり二つも作った。それにお前、国民一人の魂を身体に入れてただろ。本来相容れないお前の身体に入れてたこともあって、肉体と精神に過度な負担が掛かったんだろうな。身体が莫大な休息を望んでたからこうなったってワケさ』


 父さんの腰に差してあったライさんが、頭の中で丁寧に教えてくれます。
 
「……なぁ、柚月? 父ちゃんは最初に『無茶はするな』って約束させたはずだが? 約束を守らなかった悪~~いコは一体ダレなんだろうなぁ?」
「ぐっ……。ご、ごめんなさい……私です……」

 ライさんの話を聞きつつも、父さんから逃れようとめげずに目の前にある胸をグイグイ押していた私は、意地悪い声音で頭上から降ってきた言葉に観念し、抜け出すのを諦めたのでした……。

「いやぁ~、それにしても柚月さんの“あの姿”! 前王の言葉を借りるわけではないですが、まさに女神のように美しかったですよ! 黄金にキラキラと輝く髪の毛は膝ぐらいまで長くなって、表情は妖艶で不敵な笑みが似合う黄金色の瞳が魅力的な美女で! 《雷の聖騎士》になると、姿や性格まで変わるなんて初めて聞きましたよ!」
「へぇ~そうなの? そんなコト言われたらかなり気になっちゃうなぁ。ボクも見たかったな~柚月ちゃんのその姿! 今度絶対見せてね~♪」


 ――あ、センさんとホムラさん。興奮しているところ悪いのですが、それは私の中に入ってきた、娼婦のお姐サマのお蔭です……。
 そしてお姐サマは、私の身体にとあるプレゼントを二つ残していきました。
 一つは《雷の聖騎士》になった時に、また“あの姿”と口調になれるお姐サマの〈記憶〉と。

 あと一つは、お姐サマが娼婦の時培ってきた、男性を悦ばせる“方法”です……。

 ………………。
 …………。

 お、お姐サマあぁ~~っ!? 最後のヤツ! こんなん残していかれましても!! 私は一体どうすればいいんですかぁっ!?
 しかも私のこと“奥手”って言ってたし! さては私の中に入った時心情を読んだな!?
 それをイシュリーズさんに試せと!? そ、そんなんしたら、あの絶倫な彼のことだから、朝まで……いや最悪ヘタすりゃお昼までコースの可能性大アリじゃないですかぁっ!?

 ダメダメッ! 無理ムリむりぃーーっ!!


 ……最後のヤツは、“時”が来るまで封印しておこう、そうしよう……。
 その“時”がいつ来るのかは……神のみぞ知る――


『いやワシも知らんわ』


 ――神様の呆れた声が、脳裏に聞こえた気がしました……。




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