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110.さぁ、“制裁”を始めましょう
しおりを挟む「ったく、何だ騒々しい。人が優雅に飯を食べている最中に……」
突然食事中に乱入してきた不法侵入者に、不機嫌そうにクチャクチャと口元から不快な音を出しながら、王様がゆっくりと顔を上げました。
そして、瞬時に身体がビシリと固まります。
「お、お、お前は……っ! や、【闇堕ち】した……っ!?」
「そうそう、【闇堕ち】した元《雷の聖騎士》、シデン・ライジンだ。よぅ王サマ。相変わらず意地汚ねぇ食べ方で見てて吐き気がするわ。子供にゃ決して見せらんねぇなぁ。――柚月、良い子は絶対真似しちゃダメだぜ?」
「しっ、しないよあんな……」
「……きっ、貴様ら! 何をボケッとしている!? あの【闇堕ち】をさっさと殺さないか!!」
王様が両隣に立っている騎士達に声を荒らげて命令すると、彼らは今までの騎士達と同じく、私達に怯みながらも剣を振り上げ襲いかかってきました。
「……はぁ……。おせーよ」
父さんが溜め息混じりにボソリと呟き、騎士達は黒い稲妻を受けバタバタッと倒れていきます。
「うぐっ! こ、この黒い悪魔めッ!! ここに何をしに来た!? ワシを殺しに来たのかッ!?」
「……まぁ、オレとしてはそうしてぇのは山々なんだがなぁ……」
「……は、ハハハッ! できるものならやってみるがいい! そうすれば貴様は世界中から悪者にされ、確実に〈処刑〉行きだ! それに貴様の家は、そのまま残していても【闇堕ち】同様呪われそうだったからな、綺麗サッパリ取り壊してやったわ。だから貴様にはこの世界のどこにも居場所はないんだよ! 〈処刑〉が嫌だったら、また大人しく旧闘技場に封印されたらどうだ? あの今にも崩れそうなボロボロの廃墟、貴様が住むにはピッタリじゃないか。ハッハッハッ!!」
王様の不快感満載な言葉と耳障りな高笑いに、父さんは顔をしかめると、髪をガシガシと掻き回して盛大に溜め息をつきました。
湧き上がる殺意を、息を吐くことによって逃している……そんな風に感じられます……。
……それにしても、王様……。私も思いっ切り目の前にいるのに気付いていないようです。父さんの登場が衝撃過ぎたようで……。
センさんの時と同じく、黒色だから父さんと同化してしまっているのでしょうか、私……。
「……あのぉ~、王様。この人に半殺しにされる前に、不正や横領の事実を認めて、王を退位して下さいません? ただニ言、『認める、退位する』って仰って下さるだけでいいんで……。ちなみにちゃんと証拠もありますよ?」
センさんが不機嫌オーラを漂わせる父さんの後ろからひょっこりと顔を覗かせ、王様に言葉を促します。
「……はあぁ? 何を馬鹿な事を言っているんだ? こんな裕福な生活の出来る王の座を自ら降りるわけがないだろう! その不正や横領の事実も証拠も全部デタラメだ。ワシは一切知らん! センよ、貴様の今の言葉はワシに対する名誉毀損に当たるぞ。今すぐ断罪されたくなかったら、その【闇堕ち】をこの場で殺せ! 〈処刑〉の言葉に怯んで何の攻撃もしてこない今がチャンスだぞ!」
「はぁ……頭わいてますね。ダメだこりゃ」というセンさんの呟きを聞きながら、私は王様が言った“ある言葉”を反芻していました。
……“裕福”? “裕福”ですって……?
貧しさで住む家も食べ物も失い、無念に命を散らせている人がいるのに。
着る服もなく、寒さに凍えながら両膝を抱きしめて死んでいく人もいるのに。
自分の子供を守れず、嘆き悲しんで逝く母親もいるのに……!
自分だけ、こんな食べ切れない程の料理をテーブルに並べて。こんな暖かい場所で食事をして。
自分だけが“裕福”でいいと思っているのか、この人は。
税金を上げ続け、国民のことをただの“お金生産機”だと思っているのか……!!
――そんなの、赦されない!
赦さない、絶対にっ!!
「……ライさん。私が思い描く、新しい技ってすぐに作れる?」
『ん? そんなこと訊いてきたのはお前が初めてだぜ。そうだな……感受性の強いお前だったら出来ると思うぞ。どういう技にしたいか頭に強く思い浮かべて、その技を発動させるんだ。けど必ず“雷”に関係するモンじゃないとダメだぜ』
「うん、分かった。ライさん、ありがと。――父さん」
「……何か考えがあるんだな? 分かった、父ちゃんは何もしないから、お前の好きにしていい。けど、絶対に無茶はすんな。それが約束だ」
「……うん。ありがとう」
私は瞳を閉じると、静かに息を吐きます。
あの人に真の恐怖と後悔を抱かせる、無情の《冷酷な女》に、私は今からなる。
――ビジョンを強く思い浮かべるんだ。
目つきは氷のように鋭く。
口元には絶えず嘲笑を浮かべて。
口調は丁寧だけど、人を見下しているような言い方で――
そして――皆さん、どうか力を貸して下さい!!
『――あら、ふふっ。じゃあ少しだけ手を貸してあげるわよ?』
その時、頭の中に若い女性の声が響き、私の身体に何かが入ってくるような感覚がありました。
「…………」
私はスッと瞼を開けるとライさんを手に取り、同時に黄金の翼を出して父さんの腕から飛び立ちます。
視界の隅で、父さんのひどく驚いた表情と、センさんが顔を真っ赤にして目と口を真ん丸くさせているのがチラリと見えました。
「――ねぇ、オウサマ。私が見えるかしら?」
空中で腕と脚を組み、口元に薄く笑みを湛えながら王に声を掛けると、それに気付いた彼は心底驚愕した顔つきになり、口をアングリと開けて私を見上げています。
「……て、天使……!? いや、女神様……っ!?」
「ふふっ、頭の中まで食物が詰まって馬鹿になったのかしら? ま、アナタには自己紹介する価値も無いから、好きに捉えてくれても構わないけど」
「なっ……」
私は絶句する王に目を細めると、半円を描く自分の唇に、そっと人差し指を置きました。
王の顔が、そんな私を見て赤く染まります。
「そんなお馬鹿で愚かなオウサマには、アナタの言う、“女神”からの罰を与えましょう」
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