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109.ブ……王様登場
しおりを挟む「えっ、娘……? ――うわっ、いたんですか! 同じ黒色だから気が付きませんでした!」
起き上がったセンさんは、私を見て心底ビックリしています。
お、同じ黒色だから……? センさんの中で、私は父さんと同化してたのね……。
「娘さん、生きてらっしゃったんですか! 良かった良かった! 改めて拝見すると蕾さんソックリじゃないですか!? うーん可愛らしい!」
「当たり前だ、オレと蕾の子だからな。言っとくが、娘はお前にやらねぇぞ。おととい来やがれ」
「ちょっと! 『娘さんを下さい』とか、そんなこと私一言も言ってないじゃないですか! いきなり牽制しないで下さいよ親バカですか――って昔から親バカでしたね失礼しました! しかも二十年ぶりに感動の再会をしたのに、会って数分で『おととい来やがれ』って酷過ぎません!? 私泣いちゃいますよ? オジサンが泣いてる姿見たいですか? それに私には現在進行形で愛する妻と息子がちゃーんといますから! 全く、あれから二十年も経っているんですよ? 私もこうして年を重ねて――って、シデンさんはあの頃のまま全然変わりませんね!? 黒髪と黒目以外は! 私はもう老眼鏡のお世話になりかけてるのに! このっ、何て羨ましいっ!」
「……お前のその次から次へとポンポン無限かってくらい出てくる喋りは健在だな……。相変わらず圧倒されるぜ……。それはそうと、タヌキ野郎は今どこにいるんだ?」
センさんの壮絶なマシンガントークに苦笑した父さんは、表情を引き締めると王様の居場所を訊きます。
「この時間帯は、優雅に昼食を召し上がっていますよ。大好きなご飯に集中して、この騒ぎにも気付いていないでしょうね。乗り込んじゃいます?」
「もちろんだ。街のヤツに懲らしめてくれって頼まれてるからな。約束はキチンと守らねぇと。そんでもって、凝らしめついでに王を辞めてもらうぜ」
……えっ!? 王様辞めさせるの!? それも聞いてないよ!?
ホント父さんはこうと決めたら即実行だな!?
私が驚愕している横で父さんがニヤリと笑い、胸の前で握り拳をギュッと作ると、センさんは父さんの言うことが分かっていたかのように微笑んで大きく頷きました。
「了解いたしました。こんな日の為に、こっそりコツコツと作成した王の不正や横領の事実と証拠をまとめた書類がありましてですね。それを元に不正の事実を認めて頂き、退位を促しましょう。私一人では無理でしたが、シデンさんと一緒なら怖いものナシですよ。王が自ら退位を口にし、貴族会議で半数以上の承認が取れれば、その時点で王の退位が確定となりますし」
「貴族達の承認はもらえそうか?」
「はい。ご存知の通り、彼等貴族は、国民よりかなり多くの税を国に払っています。年々増えていく納税額に、彼等は皆不満を露わにしていましたから問題ないでしょう」
「よっしゃ。さっさとあのタヌキ野郎には退場してもらおうぜ。んで、次の王はお前な」
「はい、さっさと退場して貰って、次の王はこの私――って、ええぇぇっ!? 何を大馬鹿な事を仰ってるんですかっ!? 【闇堕ち】して気でも触れたんですかっ!?」
センさんは父さんの発言に目玉が飛び出すほど大きく瞳を見開いて、素っ頓狂な声を上げます。
「オレは正気だって言っただろうが。だってお前、王族の血が入ってるだろ? あのタヌキ野郎には兄弟や子供がいねぇから、現王退位後の特例の措置として、『王族の血が入っている者の即位』が認められるぜ。それに、次王の適任者は性格と能力を含め、この国ではお前しかいない。今まで王の業務を肩代わりしてきたんだから、仕事内容に変わりはねぇしさ。むしろ宰相の仕事がなくなる分楽になるぜ?」
「えぇ~……。確かに私は少ーしだけ王族の血が入ってますが、貴族達がそれを許しますかねぇ……」
「貴族共にイヤとは言わせねぇよ。お前に口だけギャーギャー出して、タヌキ野郎の愚かな行動には一切傍観を決めてきたアイツらにはな。何か言ってきたらオレが全員ぶっ飛ばしてやる。反省するまでな」
「……それって“恐怖政治“になりません? 夜、外を出歩けなくなるのは嫌ですよ……」
ジト目でセンさんに睨まれた父さんは、声を出して笑いました。
「バカ言うなよ。お前、この国じゃオレの次に強ぇだろーが。それにもしアイツらがお前に何かしてきたら、もう二度とそんな気が起きないように、それ以上の恐怖をアイツらに与えてやればいいだけだ。心配すんな、お前はオレがちゃんとフォローすっから」
お、おぉ……。父さんがサラリと恐ろしいことを言ってる……。
「それに、お前はその性格柄、昔から国民に好かれてるんだぜ? さっきもさ、街で古いダチに会ったんだが、お前の身体のこと心配してたぜ。ちゃんと休んでるのかって。お前は国民に好かれる良き王になるさ。オレが保証するよ」
「シデンさん……」
センさんの瞳に、感動からかウルウルと涙が溜まっていきます。
父さんの、こういう親身になって人の良い部分を素直に口に出せるところが、皆に慕われる所以でもあるんだね。
「よし、そうと決まればさっさとタヌキ野郎のもとに行こうじゃねぇか。柚月、また走るぜ。父ちゃんの首にしがみつきな」
「う、うん」
センさんと話している間は父さんの首から腕を離していたので、有無を言わさない声音に再びギュッとしがみつくと、父さんは間近にある私の顔を見て何故か満足そうに口の端を持ち上げます。それと同時に、疾風の如く駆け出し王の間を出ました。慌ててセンさんも後ろから付いてきます。
食堂の前を警備していた騎士達も難なく気絶させ、父さんはまたもやその扉を、私を抱えたまま勢い良く蹴り倒しました!
センさんがすぐ後ろで「ちょっと! 修理代追加ですよ!! ちゃんと計算しておきますからね!」と叫んでいます。
いやホントすみません……。うちの父、かなり足癖悪くて……。
ていうか父さんのスピードに遅れずについてきたセンさんもすごいな!?
食堂の中に入ると、暖かな空気と美味しそうな匂いが部屋中に漂っていて、長方形型のテーブルには手の込んだ料理が「こんなに食べられるの!?」というほど敷き詰められるように沢山並べられています。
そのテーブルの奥にある立派な椅子に、それらを口一杯に頬張って意地汚く食べている初老の男性がいました。
見るからにブクブク太って、お腹はパンパン、豪勢な服が今にもはち切れそうなその男性が、この国の王様でした……。
……えっと、一つ……いいですか。
この、姿……。どこからどうみても……。
タヌキじゃなくて、思いっきり大ブタじゃないですかぁーーっっ!?
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