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105.イーファス城突撃開始
しおりを挟む「ねぇ、父さん。ナルミさんに預けていたものって、父さん達の大切な想い出の品やお金?」
「おっ、正解。よく分かったな。新しく家を建て直すことを決めてから、ナルミん家に預けてたんだよ」
「うちの金庫に保管してあるから安心しなよ。いつでも取りに来ていいからね」
「ホント助かるわ、ナルミ。落ち着いたら必ず取りに行くからさ。オレ達、今からあのタヌキ野郎のとこに行ってくっから」
父さんが鋭い目つきでキラキラ光る城を見上げると、ナルミさんは深い息をつきました。
「あぁ、街の状況を見たんだね……。あの王ときたら、シデンさんがいなくなってから益々やりたい放題でさ。納税額も年々どんどんと上がってきてるし。宰相様が頑張って王の横暴を止めてるんだけど、やっぱり一人じゃキツイらしくて。あの様子じゃ休みもろくに取れていないと思うし、宰相様のお身体が心配になってくるよ……」
「やっぱりそんなこったろうと思ったぜ。センのヤツにも苦労掛けさせちまったな。あのタヌキ野郎には謁見許可申請なんていらねぇ。問答無用の土足で踏みこんでやるぜ」
「ふふっ、いいねぇ。行ってきなよ。皆には、シデンさんが元に戻って帰ってきたこと伝えとくからさ。あのタヌキ王をちょちょいっと懲らしめてきておくれ」
「おぅ、了解した。行くぜ、柚月」
「う、うん……?」
どうやら、目的が“王の謁見”から“王を懲らしめる”に変わったみたいです。
え、いいのそれ?
父さんが黒い翼を出してもナルミさんは動じず、私に声を掛けてきました。
「柚月ちゃん、あんたも無事で本当に良かった。落ち着いたら、またこの国に帰っておいで」
「は、はいっ。ありがとうございます……!」
優しい言い方と眼差しに、私は無意識に大きく返事をしていました。
「今度は蕾も一緒に戻ってくるからさ、歓迎の準備しといて待っててくれよ」
「あははっ、了解したよ」
お互いニヤリと笑い合うと、父さんは地面を蹴り、空中へと飛び出します。
……はぁ……。結局、最後までお姫様抱っこのままだったな……。
ナルミさん、どう思っただろう……。親バカ子バカと思われたかな……。あぁ……。
ふっと空を見上げながら遠い目をしていると、父さんが話し掛けてきました。
「なぁ柚月。ナルミ、いいヤツだったろ?」
「あ、うん。とっても素敵な人だった」
「街のヤツらは、ナルミみたいに誰もがいいヤツなんだ。アイツらの子供も、アイツらが育てたんならきっといいヤツらだ。だから柚月、お前自身の目でアイツらを見てみてくれ。そして、《雷の聖騎士》として自国の民を守るか守らないかは、お前が判断してくれ」
「……無理矢理守らなくていいってこと?」
「あぁ。お前だって、守りたくないヤツを強制的に守らなきゃいけないなんてイヤだろ? お前には、なるべくイヤな思いをさせたくないんだ。だから、誰を守るのかはお前が決めていい。イヤなら放棄すればいい。文句言ってくるヤツがいたら、父ちゃんがそいつをぶっ飛ばしてやるから安心しろ。な?」
「父さん……」
私は太陽のように笑う父さんを見上げます。私を想う父さんの心に気持ちが向上して――
気付けば私は首を伸ばし、父さんの頬に自分から唇を寄せていました。
「ありがとう、父さ――」
間近にあるビックリした顔の父さんに言葉が途切れ、自分が今やったことが脳裏に再生されます。
「……あれっ? えっ? いや、今のはその――」
慌てて顔を逸らしたけど、視界の隅で嬉しそうに顔を緩める父さんを見てしまって……。
「……なぁ、柚月。もう一回やってくれ。な?」
「こ、断るっ!!」
「ははっ、そう言わずにさ? お前の方からしてくれて、父ちゃんすっげー嬉しかったんだぜ?」
「わ、忘れて! 今すぐに! 即刻消去してっ! デリートキー押してっ!!」
「くはっ! 顔と耳が茹でダコだぜ? あー、ホンットかわいーなぁうちの愛娘は。よしよし、今度は父ちゃんからしてやろうか?」
「ぐぅ……っ。ライさーん、父さんがまたイジめてくる! どうにかしてっ!」
『……全く、俺様はお前らのお守りじゃねぇぞ……。シデン、気持ちは分かるがユヅキをからかうのもいい加減にしろ。もう城に着くぜ。気を引き締めろよ』
「くくっ、悪ぃ悪ぃ。分かってるって。お蔭でヤル気ゲージが満タンだ。盛大に暴れてやるぜ」
ライさんの言った通り、いつの間にか金ピカのお城が目の前に見えていました。
――さぁ、いよいよ問題の王様とご対面です!
本当に問答無用の土足で乗り込む気満々の父さんに、さっきからイヤな予感がしまくりなのですが……。
……逃げてもいいでしょうか……。はあぁ……。
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