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102.今度こそ、守り通す

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「ってて……。まだ頬の腫れひかねーわ。お前の一撃、ルザードよりすごかったぜ? 格闘家になれるんじゃね?」
「なるつもりは全くないし、セクハラスケベオヤジ発言する父さんが悪いっ!!」
「それはホント悪かったって。機嫌直してくれよ。な? このとーり」
「もう……しょうがないなぁ……」
「おぉ、さっすが父ちゃんと母ちゃんの娘だ。優しさは誰にも負けねぇなぁ」
「全く、調子いいんだから……」

 再び空の旅が始まっています。今日も天気は良好です!
 私が殴った父さんの頬は、見事なほど赤くなっているので、申し訳なさもあるし、ここら辺で許すことにしましょう……。

「このまま行けば、昼前にはイーファス王国に着きそうだな」
「もう? やっぱり飛ぶと早いんだね。でも無理しないで飛んでね、父さん」
「おぅ。――なぁ柚月」
「ん、何?」
「お前、昨日の話し合いで、『“覚悟”がないまま《聖騎士》になった』って言ってたが」
「あ……」

 父さんも、それはいけないことだって思ってるのかな……。
 あからさまにシュンとなった私に、

「あぁ、違う違う! そんな顔すんなって! お前を責めてるんじゃなくてさ」

 と、父さんは若干慌てつつも即座に否定しました。

「オレはそれでいいと思うぜ。オレだって“覚悟”なんてないまま《聖騎士》になったんだ。ただ、大切な人を守りたいってだけでな。お前と同じだよ。んなこと言ったら、またルザードのヤツにぶん殴られそうだけどよ」

 笑って、父さんは言葉を続けます。

「ぶっちゃげ言っちまうとな、オレは、お前と母ちゃんと自国のヤツらを守るついでに、他のヤツらも守ってたって感じだ。お前達と他のヤツらに同時に危険が迫ったら、オレは迷わずお前達を助ける。てか迷う意味が分かんねぇ。――こんな父ちゃん、軽蔑するか?」
「えっ? そんな――そんなことないよ!」
「はは、ありがとな。だからさ、色んな考えの《聖騎士》がいてもいいと思うぜ。お前は、父ちゃんを守る為に《聖騎士》になってくれたんだろ? あの坊主も、ってのがムカつくけどな。……あー、あの澄ました顔思い出したら腹立ってきた!」
「あはは……」

 顔を思い切りしかめて舌打ちしている父さんを、私は乾いた笑いで受け流します。
 こういう時の父さんは、イシュリーズさんをフォローすればするだけ怒っちゃうから……。
 二人はお互い仲が悪いと思ってるみたいだけど、傍から見ると、仲良く喧嘩風漫才をしているようにしか見えないんだよね。

 そんなこと二人に言ったら、また喧嘩風漫才が始まっちゃうから口には出さないけど。

「あー……ともかくさ、それがすっげー嬉しかったってことを伝えたかったんだ」
「父さん……」

 ……そうだ。私、父さんに訊きたいことがあったんだ。

「……ねぇ、父さんはまだ《聖騎士》を続けていたかった? 私、父さんに何も聞かないで《聖騎士》になっちゃって……。まぁあの時は父さん【闇堕ち】してたから、聞けない状況でもあったんだけど……。もしまだ《聖騎士》でいたいなら、今からでも返すから――」
「いや、いらないぜ?」
「へっ?」

 私の問いに対する父さんの答えは、とてもあっけらかんとしたものでした。

「オレは別に『《聖騎士》でありたい』なんて固執してねぇしな。ただ、オレの大切なヤツらを守れればそれでいい。《聖騎士》の力がなくとも、オレには騎士時代に極めた剣術がある。自分の持っている最大限の力で守っていくだけさ。ま、結局今も《聖騎士》の技使えてんだけどなぁ」

 そう言って笑う父さんを眩しく感じて、私は無意識に両目を細めていました。

「……何か今、父さんがカッコ良く見えた……」
「おっ、何だ、やっと気付いたのか? 惚れ直したろ?」
「へっ? いやいや、そこは言葉の使い方が違うと思うよ……。“惚れ直した”は、惚れてることを前提とした言葉だよ父さん……」
「あぁ、そっか。じゃ、惚れたろ? か」
「いやいやいや、それこそ父さんに惚れてどうするの……」
「ん? 父ちゃんのこと、この世で一番大好きなんだろ? バッチリ惚れてんじゃん。安心しろ、父ちゃんもお前が大好きだからな?」
「この世で一番!? 勝手に言葉を追加しないで!? ていうかやっぱり聞かれてた恥ずかしい……! バッチリ惚れてないし、安心しろの意味が全く分からない! しかもサラッと大好き言ってるし!! よ、よくもそんなこと、恥ずかし気もなくスラッと言えるね!? そんな顔に似合わず素直な父さんが私羨ましいよ!?」
「……く、ははっ! おま、ツッコミ多過ぎだろー? つーか顔に似合わずは余計だっつーの」
「父さんがボケまくるからいけないんだよ!」
「そっか、はははっ!」
「……ふふっ」

 どちらともなく笑い合い、それが落ち着くと、急に父さんは真面目な表情になって私を見つめてきました。

「……だから、さ。オレは……今度こそ、絶対にお前と母ちゃんを守り通してみせる。もう、あんなことは決して繰り返しはしない。絶対に――」
「……父さん……」

 父さんは一瞬泣きそうな表情になったけど、それを誤魔化すように口の端を上げ、私の額にキスをしてきました。

「……っと、しまった、また外でやっちまったわ。お前を見てると、昔の習慣が蘇って無意識に出ちまうな。まぁ周りは誰もいねぇしセーフだろ」
「…………」

 そう言って笑う父さんの端正な顔立ちを、私は真顔で無言のまま見つめると……おもむろに顔を伏せ、両手で覆います。


 …………な、慣れないっ!
 チューの挨拶慣れないぃーっ!
 しかも、こういうのは眉間にシワを作ってすっごく嫌そうな顔で「ダレがんなコトするかよ」って一蹴しそうな風貌の父さんからの頻繁なアイサツっ!
 そのギャップに悶え死ぬ!

 それに、挨拶されたら私も返した方がいいの? 言葉でならするけど! 口はムリムリっ!

 ……あれ? でも、ちょっと待って?
 前、ウインさんに頬や額のキスのこと訊いたら、『愛情表現で、挨拶ではしない』って言ってたよね。
 あっ、『他の王国は知らないが』ってつけてたかな……。リュウレイさんやホムラさんも、初めて会った時普通に言葉で挨拶してたし、スミレさんやファイさんが近くにいても、お二人はチューでの挨拶はしていなかったな……。

 てことは……もしかして、これってイーファス王国だけのしきたりってこと?
 なんということでしょう……!!


 そんなしきたり今からなくしちゃってぇーーっ!!



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