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99.また旅が始まる
しおりを挟むイシュリーズさんをこそっと部屋から送り出し、一息ついてベッドに寝転んだところに、父さんが買った荷物を持って帰ってきました。
うわぁ、ギリギリセーフッ!
「ただいま、っと。何だ、まだ支度してなかったのか? ――あぁ、シャワー浴びてたのか」
「あ……う、うん、そうなの。旅に出る前にサッパリしておこうと思って。さーて、準備しようかな~」
あはは、と笑って、私は顔を逸らしてゴソゴソと支度を始めます。
うん、バレてないバレてない……! 私、嘘つくの昔から苦手だけど、シャワー浴びたのは事実だからね!
「柚月」
不意に後ろから呼び掛けられ、私は支度の手を止め、振り返ろうと首を後ろに回します。
「何、父さ――」
すぐ目の前に、上半身を屈ませ私の顔を覗き込む、少し不貞腐れた感じの父さんの顔がありました。
鼻と鼻がくっつくほどの至近距離に、私は思わず「ひゃっ!」と息を呑み、身体を浮き上がらせてしまいます。
「なっ何、突然っ!? ビックリした――」
「嘘は良くねぇなぁ、柚月? シャワーは本当みてぇだが、また泣いてたろ、お前。目が赤ぇんだよ。さっきのまだ引きずってんのか? もう気にすんなって言ったろ? これ以上気にすんなら父ちゃん怒るからな。怒った時の父ちゃん超怖ぇの、お前知ってんだろ?」
「え、えっ……?」
「――ったく、オレを心配させねぇように誤魔化したんだろうが、いらねぇ気遣いすんじゃねぇよ。泣いたら慰めてやる。それが親である父ちゃんの役目でもあるからな」
父さんは姿勢を直し小さく笑うと、私の額をコツンと拳で軽く叩き、クルリと踵を返しました。
「もう、隠すのや嘘つくの禁止な。父ちゃんにはバレバレだかんな。約束だぞ」
「あ……。うん、ごめんなさい……。その……ありがとう、父さん……」
「おぅ」
……あぁ……。父さんの優しさがジーンと胸に染みる……。そうだよね、私ってばここんとこずっと泣きっぱなしで……。
さっきも……うぐぅっ! 思い出しただけで底なし穴に入りたい!!
またも子供みたいに泣いちゃって、イシュリーズさんに「離れたくないよ~! わ~んっ!」なんて駄々捏ねちゃって……。
迷惑掛けたくないから胸に秘めておこうと思ってたのに、何で言ってしまったのか、あの時の私めっ!
あの後彼に謝ったら、「俺はとても嬉しかったですよ」って、すごい笑顔で言ってくれたけど……。
本当に……今まで見たことがないくらいの、ニッコニコの大天使の笑顔で……。
…………。
……ゴメンね、父さん……。
約束しておいていきなり破っちゃうけど、先程までのイシュリーズさんとのことだけは絶対に言えない!!
バレなくて本当に良かったあぁーーっ!!
「なぁ柚月。ここからイーファス王国までの移動手段のことだが、普通に馬車で行くと三、四日は掛かるんだよなぁ」
「え、そんなにっ!?」
それはかなりのロスになるんじゃ!?
ホムラさんとファイさんは火の鳥さんに乗って帰ると思うし、イシュリーズさん達はセイラさんの結界術ですぐにお家に戻れるだろうし……。
私が翼を出して父さんを抱えて移動する……?
……いやムリ、絶対ムリムリ! まず長身の父さんを抱えられない! こんな筋肉のない贅肉プニプニでヒョロヒョロな腕ではイチミリも浮かせられないって!
「だからな、ライを持ってって外で試してきたんだよ。ちょっと見てろよ」
父さんはそう言うと、ライさんを持ち、私から少し離れた場所に立ちました。
「翼よ、出てこい」
父さんの呟きと共に、その背中からバサリと漆黒の双翼が現れて!?
「えっ……えぇっ!? どうして!? 【聖なる武器】を継承すると、殆どの技が使えなくなるんじゃ!? ウインさんが近くにいても、ルザードさん、一度も翼を出してなかったし……」
「オレもそうライに聞いてたんだけどよ、ものは試しでやってみたら使えたんだよなぁ」
『俺様も驚いたのなんの! 《雷の聖騎士》の技が普通に全部使えるんだぜ? 色は見事に全部黒いけどな~』
こ、これって一体どういうこと?
もしかして、【闇堕ち】からの復活に関係してるとか……?
「ま、考えても分からねぇのは考えなくていいんじゃね? 使えてラッキー♪ ってことでさ」
「え、そんな単純でいいのかな……」
『いいんだよ! 誰にも分かんねぇことは考えるだけムダムダ! もっと気楽に生きていいんだぜ、ユヅキ! 人生は一度きりだ! なぁ、そうだろ?』
「えっ。あ……うん、そうだね? ありがとね、ライさん?」
『おぅ!』
唐突にライさんに励まして貰いました……。
私の号泣事件、うーさんやブーちゃんから伝わっているのかな……。
「ライの言う通りだな。これで、馬車じゃなくて空を飛んで行けるじゃねぇか。けど問題は、オレの技を発動中に、お前が《雷の聖騎士》の技を使えるかどうかだ。なぁ柚月、試しにやってみてくれないか?」
「あ、うん、分かった。ライさん借りるね」
「ん、ほらよ」
私は父さんから手渡されたライさんを右手に持ち、瞼を閉じると翼を出す言葉を呟きます。
「翼よ、我の背に宿れ」
瞬間、私の髪が黄金色に染まり、背中からフワリと黄金の翼が生えてきました。
「あれ、普通にできた?」
「あぁ、普通にできたな」
『…………うわっ、ダメだこれ! どっちでもいいから今すぐに技を解除してくれ! 力がすっげー吸い取られる感じがする!』
「あっ、えっ!? ちょ、ちょっと待って!」
私は慌てて翼を消し、元の黒髪に戻ります。
父さんもライさんから言われてすぐに翼を仕舞いました。
「大丈夫!? ライさん!」
『お、おぉ……。ありゃ初めての感覚だったぜ……。あのまま続けてたら俺様ヤバかったかも……』
「ちっ、やっぱり同時はリスクが大きいか。【聖なる武器】を継承すると、継承した側の人間はホンの少しの簡単な技しか使えなくなるのはその所為だな。高度な技を同時に出すのは、【聖なる武器】の負担が大き過ぎるんだ。コイツらにもキャパシティの限度があるってことだな」
「な、なるほど……」
「オレが技を出す時とお前が《雷の聖騎士》になる時は、同時にならないように注意しなきゃな」
「うん、そうだね」
ライさんにもしものことがあったら大変だもの。
……あ、そうなると……。
「じゃあ、私だけ馬車移動になるのかな?」
「ばっか、何言ってんだ、それこそ時間と金の無駄だ。それにお前一人置いてくなんて絶対しねぇよ。父ちゃんがお前を抱えて飛んでやるさ」
「ええぇっ!?」
また命綱ナシの空の旅ですかー!
この世界に来てから、ただで空中散歩出来る機会が増えて嬉しいなぁ!
……すいません、ただの強がりです! やっぱり怖いです!!
不安になりながらも支度を済ませ、屋敷から外に出ます。
リュウレイさんとスミレさんはお城へ向かい、他の皆さんはもう既にそれぞれの自国へと旅立っていきました。
イシュリーズさんとは、あの時に別れを済ませています。あぁでも、ウインさんと暫しのお別れのご挨拶が出来なかったのが心残りです……。
ふとそこで、セイラさんのウインクを思い出しました。あれはきっと、『私が買い物で時間稼ぎをするから、イシュリーズと二人の時間を過ごしてね』っていう意味だったんだろうなぁ……。
ありがとうございます、セイラさん。
お蔭でかなり濃密な――うぅっ、ちょっとでも思い返すだけで恥ずかしさで死ねる……。
とてもお世話になった、スイジン邸の老紳士のスーパー執事さんに何度もお礼を言い、微笑んでいる彼が見守る中、私は父さんにしっかりとお姫様抱っこされました……。
これはこれでかなり恥ずかしい!
「よし、じゃあ行くぞ。念の為しっかり掴まってろよ」
「う、うん。絶対離さないでね?」
「分かってるって」
父さんがバサリと漆黒の翼を出して羽ばたかせると、地面を強く蹴り、空へと飛び上がります。
目指すは私達が昔住んでいた雷の国、イーファス王国へ!
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