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96.予想外の展開

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「……柚月が神に会っていたのも驚きだが、そういう方法があったなんてな……。すごいじゃないか、柚月」
「ホントホント、神サマに会えるなんて、この世界には最上位の神官とか極僅かしかいないんだよ? 柚月ちゃん、やるじゃーん!」
「えっ、いやいやそんなっ」

 拙いながらも何とか話し終えると、リュウレイさんとホムラさんが感激したように褒めてくれて、私は照れ臭くなり両手がもげるくらい左右に振ります。

「……なるほど、それは良い提案だな。神が説明なさったとなればその内容は事実だろうし、自分は賛成だ。そうなると、四つの国の王に会うのは必須になってくるな」

 えっ!? ルザードさんが褒めて認めてくれた!? そ、空耳ですか!?
 呆然として、思わず手を当ててしまった私の耳に、セイラさんの優しい声が入ってきます。

「柚月ちゃん、いい提案をありがとう。私も賛成よ、反対する理由がどこにもないわ」
「私ももちろん賛成ですわよ?」
「僕も大賛成さ」

 セイラさんに続いて、スミレさんとファイさんも微笑みながら肯定してくれました。嬉しくて、私はほっと安堵の息が漏れます。
 そして、再びセイラさんが口を開きました。

「じゃ、やっぱり証拠集めも同時にしなきゃ時間のロスね。私とルザードは自国の王の謁見と二十年前の件を内密に探るから、イシュリーズ、あなたにユーナちゃんの件を任せるわ。もう一度、あなた達の住んでいた家の中や周りを確認してみて。あなたにしか分からない、見落としているものがあるかもしれないから」
「……分かりました。けれど俺は、“世界を滅亡させようとしている元《雷の聖騎士》の討伐”の名目で国を追い出されています。それと事情があり、《勇者》と《聖女》には俺が死亡していると思わせている状態です。この状態のまま、自国に帰っていいものでしょうか?」
「なら、自分達……先代の《聖騎士》達がシデンの討伐を遂行した事にすればいい。事実、世界の破滅は免れたのだからな。お前はこのまま死亡したと思わせている方がいい。その方がお前も色々と動きやすいだろう?」


 うん、確かに……。
 元に戻った父さんは、世界を壊す欲求はもうないわけだから、討伐の“目的”は達成されたわけだよね。
 それに、このまま《勇者》にイシュリーズさんが死亡していると思わせておけば、監視や兵士もつかないから、お城以外での証拠を探しやすくなるし……。

 ウインさんの相棒の“剣”がなくなっていることに、今も気付いていませんように……!


「シデンを討伐した事にして、【闇堕ち】から元に戻った事は、今は《勇者》達には伏せておく。後々気付かれる話だが、今遂行する“計画”の為、不用意に混乱を招きたくない。自分達が討伐の件を王と《勇者》に伝えておくから、お前はユーナの件に集中しろ」
「……はい、父上」

 イシュリーズさんは真剣な顔つきで首を縦に振りました。

「では私とリュウレイは、ここの国の王に会ってきますわね。私達の王は清水の如く心が澄んでお優しい方だから、これまでの《勇者》の所業に胸を痛めておりましたの。ですのですぐに許可が戴けるでしょう。その後、二十年前の魔物襲撃事件の全貌を、もう一度洗い出してみますわ」
「じゃあ僕とホムラは火の国に戻って、王と謁見だねぇ。僕らの王は水の国の王とは逆で、火のように熱く正義感に燃える人でねぇ。《勇者》のことも、度々僕らに苦言を呈して、何も出来ない自分をもどかしんでいたんだよ。だからこちらもすぐに許可が貰えるはずさ。終わったら皆を手伝いに行くよ~」


 皆さん、本当に頼もしい! じゃあ雷の国には、父さんが行くことになるよね?
 そう思って父さんを見上げると、何故か放心したようにポカン顔で私を見ていました。
 もしかして、さっきからずっと同じ顔をしていたのかな? そうだよね、今回私が提案したのは――


「……父さーん? 大丈夫? 強面コワモテがマヌケ顔になってるよ?」
「柚月……」

 父さんは両目をギュッときつく瞑ったかと思うと、私をまた強く抱きしめてきました。

「……ありがとな……」

 耳元で聞こえた消え入るような呟きに、私はクスリと微笑みます。

「絶対、成功させようね。父さんも雷の国の王様の謁見、頑張ってね」

 私はグッと握り拳を作り、父さんに笑い掛けます。


 ――さて、と。私はどうしようかな?
 例え父さんについて行っても話下手な私は足手まといになるだけだし、やっぱりイシュリーズさんとウインさんと一緒にユーナちゃんのことを調べよう!

 ユーナちゃんの無念を絶対に晴らしてやるんだから!


「イシュリーズさん、一緒に――」

 私が駆け寄ろうとしたのに気付いたイシュリーズさんは、優しく微笑むと手を差し伸べてくれました。


「――ちょっと待った、柚月。お前は父ちゃんと一緒に雷の国に来い」
「えっ!?」
「は?」


 父さんに後ろからガッシリと手首を掴まれ、私とイシュリーズさんの素っ頓狂な声が同時に重なります。

「な、何で……? 私が行っても邪魔になるだけだよ? 私、さっきのように上手く喋れないし、何も出来ないし……」

 私が戸惑いながら尋ねると、父さんは軽く首を左右に振って答えます。

「いや、今の《雷の聖騎士》はお前だ。だから、お前が王に謁見すべきだ。それに、父ちゃんはあのタヌキ野郎――じゃなく、王と仲がすっげぇ悪くてな……。話は父ちゃんがするが、お前が間に入ってくれた方が助かる」
「でも……」

 そうなると、イシュリーズさんとしばらく離れ離れに……。
 イシュリーズさんの方を振り返ると、彼は親に置いていかれた子供のような顔をしていました。
 その表情に、私の胸がキュッと苦しくなります……。

「……なら、俺も一緒に行きます。俺はもう、柚月と離れたくは……っ」
「我儘を言うんじゃない、イシュリーズ。お前にはお前の今すべき事があるだろう。柚月君には柚月君の今すべき事がある。それでお前達が離れる事になっても、必ず遂行させなくてはいけない。お前ならその重大さが分かっているだろう?」
「…………っ」

 ルザードさんの、諭すように紡がれる言葉に、イシュリーズさんが強く唇を噛み締めています……。

「坊主、安心しろ。オレが傍にいる限り、柚月には誰にも手を出させねぇよ」
「……一番傍にいて危険な人物が何言ってるんですか……」
「んだとぉっ!? 人が気ぃ遣ってやったのに、その生意気な言い草っ! やっぱお前ムカつく! お前なんかに娘はぜーってぇやらねぇからな!! もちろん他の野郎共にもやらねーけど!!」

 と、父さん!? 話が違う方向に行ってますけど!?

「はいはい、シデン君ストップね~。方向性もまとまったことだし、これで解散しようか。僕とホムラは部屋に戻って、支度を整えてから自国に戻るよ。時間が惜しいからね」
「私達も、これから王の謁見許可申請を出してきますわ。善は急げ、ですものね」
「自分達も、支度が終わり次第出発しようと思う。セイラ、イシュリーズ、それでいいな?」

 ルザードさんの問い掛けに、イシュリーズさんは顔を伏せたまま反応しませんでしたが、代わりにセイラさんが答えました。

「ね、あなた。私、ちょっとこの国で買いたい物があるの。それが終わってからでもいい?」
「構わないが、なるべく早く済ませてくれ」
「えぇ、善処するわ」

 その時、セイラさんがこちらを見て、周りに気付かれないように軽くウインクをしてきたのですが、私は意味が分からず、キョトンとした表情を返してしまいました……。

 皆がそれぞれの部屋に向かう中、ホムラさんがニコニコと笑みを浮かべながら私の方へ歩いてきました。


「あれ、どうしました? ホムラさん」
「うん、あのさぁ。さっきの“作戦”で、ちょっとイイコト思いついたから追加して欲しくってさぁ♪」
『僕もさっきホムラから聞いたけど、面白そうって思ったよ! ユヅちゃん、絶対に追加してよ!』


 ブーちゃんの楽しげで興奮気味な声が頭に響きます。

「え、えぇ? 可愛いブーちゃんのお願いなら、私に出来ることだったら何だって聞きたいけど……」
『わーいっ! でもそこは「カッコいい」って言っておくれよー!』
「ちょっとちょっと柚月ちゃん、そこはボクの名前も入れておくれよ~。まずは内容を聞いてから判断していいからさ♪」
「いいですよ。私も気になりますし……」


 そして私は、ホムラさんの言葉に耳を傾けたのでした――



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