【R18】《用無し》と放り出された私と、過保護な元《聖騎士》様の旅路

望月 或

文字の大きさ
上 下
81 / 134

81.Ishreeze Side 9

しおりを挟む



  彼女がシャワーを浴びたいと言うので、仕舞ってある母セイラの服の場所を《ウインドブレイド》から彼女へ伝えてもらい、その背中を見送る。

「…………」

 しばらくして、おもむろにイシュリーズは席を立った。

「あの子にタオルを渡すのを忘れていたので、脱衣所に置いてきますね」
『あぁ、分かった』

 ……嘘だ。
 本当は最初から分かっていたが、わざと渡さなかった。浴室へ行く用事を作り、彼女の腹部を見たかったのだ。
 もし彼女が“あの子”なら、貫かれた腹部に、何かしらの傷や痣があるはず……。

「…………」

 脱衣所まで来て、イシュリーズは今更ながら自分の行動に激しく嫌悪を持ち、己を思い切り殴りたい衝動を堪え深く息を吐いた。

(……本当に、何をやっているんだ俺は。腹部を確かめるには、彼女の裸を見る事になる。それは余りにも無礼じゃないか。……“あの子”はもういないと頭では分かっているはずなのに。彼女に“あの子”の部分を見つける度、縋りつくように“あの子”であって欲しいだなんて……。――馬鹿だな、俺は。本当に……大馬鹿だ……)

 己の愚劣さに血が滲むほど唇をきつく噛み締め、タオルを置いて足早に立ち去ろうとした時、突然浴室の扉が開き、女性が姿を現した。

「…………!」

 イシュリーズは、意図せず彼女の裸をバッチリと見てしまった。

 艷やかに濡れた長い黒髪。茶色の瞳を大きくさせ、唖然としている上気した表情。小振りだが張りと弾力がある乳房。ピンと上を向いた桃色の乳首。そして――

 腹部にある、大きな丸い痣。

 その下にあるのは――

「…………っ!!」

 慌てて目を逸らそうとした瞬間視界に入ってしまい、ボッとイシュリーズの顔が朱に染まる。
 熱くなる顔を手で隠し、呆けている女性に急いでタオルを手渡すと、その場を足早に立ち去った。

 下半身が酷く反応している。ズキズキと痛みを感じるほどに。イシュリーズは大きく息を吐き、心と頭を落ち着かせる。
 何度か深呼吸をすると、大きく勃ち上がっていた自身も徐々に落ち着いてきた。


(――あった。本当にあった。腹部に、痣が。こんな……こんな偶然があるのか? 彼女は本当に……“あの子”なのか……?)


 フラフラとおぼつかない足取りで居間に行き、ソファにドサリと深く座り込む。
 次々と見つかる女性と“あの子”の同一点に呆然としていると、シャワーから戻ってきた彼女がおずおずと姿を見せた。
 イシュリーズはすぐに立ち上がり、裸を見てしまったことに対して真摯に謝罪をする。
 彼女が一生懸命首を横に振る姿を見て、イシュリーズは自分でも知らずにクス、と笑みをこぼした。

(ここは当然怒ってもいいところなのに。優しいな……この子は。本当に……“あの子”のように……)

 今後の話し合いをすることになり、イシュリーズは女性の手を引いてソファに座らせた。
 カサカサでマメのある彼女の手を、労るように優しく擦る。
 ……この子は、棒を振るっているのだろうか……。

 …………。


 ――あと二つ、この子のことが分かれば確信が持てる。
 この子が“あの子”だという確信が――



********



 話し合いは進み、黒髪の女性と共に旅をすることになった。
 そして最後に、イシュリーズはずっと気になっていた第一の質問を《ウインドブレイド》を通して訊いてみる。それは、彼女の名前だ。


 ――彼女は、自分の名を“ユヅキ”と言った。


(……あぁ……)


 イシュリーズはギュッと固く両目を瞑る。心に様々な感情が入り交じり、急激に高揚感が増していく。
 もう一つ、念の為に年齢も訊いたが、分かり易く伝えようとしてくれたのか可愛くジェスチャーしてくれ、愛らしくて可笑しくて思わず吹き出してしまった。
 ――年齢も、予想した通りだった。


 ……あぁ、この子は、“あの子”だ。
 同じ名で別人なんかじゃ決してない。“あの子”だ。
 いないと分かっていても、もう会えないと分かっていても、大人になっても、忘れることなくずっと胸の中で恋焦がれていた“あの子”――柚月、だ。

 柚月が生きていたなんて……。
 しかも、こんなに可愛い女の子に成長して……。
 こんな……素晴らしい奇跡が起こるなんて――!!


 イシュリーズは、無意識の内に彼女を強く抱きしめていた。
 懐かしい匂いと温かさを強く感じ、自然と目尻に涙が滲み出たが、唇を噛み締めグッと堪える。


「また、この世界で逢えるなんて……。あの時からずっと……ずっと、大好きな……愛しい貴女に逢いたくて逢いたくて……堪らなかった……!!」


 彼女しか聴こえないように耳元で囁くと、その首筋に顔を埋め、彼女の甘い匂いを堪能する。

 《ウインドブレイド》から聞いたが、彼女は異世界で母親と二人で暮らしていたらしい。その母親の名は訊かなくても分かる。蕾さんだ。
 蕾さんも生きていて、今は異世界で生活をしている……。本当に、何という最高の奇跡だろう……!


 イシュリーズは、生まれて初めて神に深く感謝をしたのだった――



しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道

Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道 周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。 女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。 ※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...