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64.元《雷の聖騎士》登場
しおりを挟む「でもね、【闇堕ち】しても、昔の記憶はちゃんと持っているんだ。《聖騎士》のコトも分かるし、僕達のコトは昔の仲間だって分かってるみたいだしね。けれど、蕾さんと柚月ちゃんに関しては、スッポリと頭から抜けてしまっているみたいなんだよ」
「え……?」
「えぇ。封印が解けてからのシデンさんは、会話が出来るようになっていたから、蕾さんと柚月ちゃんのことを言ってみたんですの。そうしたら、『誰だソイツらは。オレは昔から家族なんかいねぇ』って……」
「…………っ!」
スミレさん、父さんの口調をよく掴んでる! お上手!
ってそれよりも、父さんが私達のことを忘れてる?
私はともかく、母さんのことまで!?
……そんな……。
「きっと、目の前で蕾さんと柚月ちゃんが貫かれたショックが大きかったんじゃないかな。シデン君は二人の命が消えた事実を受け入れられず、二人の存在自体を自分の中から消してしまった……って僕は思うよ」
「……あの! そんな状態から、【闇堕ち】する前の元の状態に戻すことは……可能ですか?」
ゴクリと唾を呑み込みながら訊いてみると、皆さんそれぞれ頭を左右に振りました。
「奴の娘である君に言うのは酷な話だが、そんな方法があればすぐにやっている……」
「……ゴメンね、柚月ちゃん。【闇堕ち】した者は、もう元に戻らないと言われているよ……」
「過去にも同じことが何度かあったようだけど、皆、元に戻らず最終的には処刑されたと聞いていますわ……。お役に立てなくてごめんなさい」
「……そう、ですか……」
辺りが重苦しい雰囲気に包まれたその時、旧闘技場の方からものすごい轟音が聞こえてきました。
「っ!!」
「何だいこの音はっ!?」
リュウレイさんとホムラさんが咄嗟に立ち上がり、イシュリーズさんが私の身体を守るようにギュッと抱きしめます。
「くそっ、シデンの奴が起きて暴れ出したか! セイラはいつも通り、自分達を結界の中に通したら急いで安全な場所に避難しろ!」
「えぇ、分かったわ!」
「行くぞ!!」
そう叫ぶと、ルザードさんが真っ先に旧闘技場に向かって走り出しました。皆さんも続けて後を追います。
「イシュリーズさん、あのっ」
私の呼びかけに、イシュリーズさんは分かっているという風に頷くと、私を軽々とお姫様抱っこして走り出しました。
……あっ、いえその、私の手を引っ張って走って下さいって言おうとしたのですが……。
人の話は最後まで聞いて下さーいっ!
「おっ♪ お熱いねぇお二人さん、ヒューヒュー♪」
隣でホムラさんがニヤニヤしながら冷やかしてきます……。
くっ、いつか「この人ドMですっ!」って大声で叫んでやりますからねっ!
……逆に喜ばれそう!?
セイラさんが結界に小さな穴を作ってくれ、そこから旧闘技場の中に入ります。
イシュリーズさんは中に入る前に、“剣”を呼び戻していました。
「“剣”と【本体】が揃ってないと、きっとあの方に敵いませんから……」
真剣な顔つきで、イシュリーズさんは言います。
私は、《勇者》に“剣”がなくなっていることが気付かれませんように、と強く祈ります。
イシュリーズさんと私は死んだと思ってるから、多分大丈夫だとは思いますが……。
そして私が中に入る時、
「止めても行くんでしょう? 十分気を付けてね。危険になったらすぐにここに逃げてくるのよ。もうあなたを危ない目に遭わせたくないの」
と、セイラさんに切実な瞳で言われ、私はしっかりと頷き返しました。
旧闘技場の中は、空から見たよりも、更に崩れて瓦礫が広がっていました。
奥の方は砂煙がモクモクと立ち上っており、よく見えません。
「……あー、寝坊しちまった……。今日は何だか更にムカムカするし、気分悪ぃし。さっさとお前らぶっ殺して、結界ぶっ壊して、この世界も全部ぶっ潰してやる」
不意に砂煙の向こう側から声がし、一人の長身の男性が、首を鳴らしながらゆっくりと歩いてきます。
「…………っ!」
その聞き覚えのある声に、私の心臓が大きくドクンと高鳴ります。
「あぁ……? 何か人数増えてね? まぁ何人増えようがオレには関係ねぇけどな。すぐに殺してやっから」
黒のくせっ毛の髪に、黒の切れ長の瞳。
母さんが父さんの誕生日の時にプレゼントした、年季が入ったファー付きの黒のロングコート。
細いけど、しっかりと引き締まった身体。
髪と瞳の色以外、あの頃と変わらない姿で。
父さんが今、私の目の前にいました――
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