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61.いざ、旧闘技場へ

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「ホムラさん! その鳥はっ?」


 私がホムラさんに駆け寄ると、彼は火の鳥を撫でていた手を止め、こちらを振り向きニコリと笑いました。

「やっ、柚月ちゃん♪」
「――って、どうしたんですかその頭!? 包帯がグルグルと……」
「あぁ、これね~。いやぁ、危うく頭が潰されそうになったよ~♪」
『ホムラってば、ユヅちゃんに色々ちょっかい出しちゃったから、イシュに頭グリグリの刑にされたんだよね~』
「違うよブーちゃん、『グリグリ』ってレベルじゃない、『ゴリゴリブシュッ』ってレベルだったよ~♪」

 お、音がリアルで光景が想像出来るのが嫌だ……。

「……でもホムラさん、何か……心から嬉しいって感じに見えます」
「へ? あぁ、そう見える? ……あはっ、柚月ちゃん、意外にちゃんと人を見てるねぇ♪」

 “意外に”は一言余計です!

「そうだねぇ、イシュちゃんがボクを意識して向かってくるのが新鮮でね~。今までのイシュちゃんは、何に対しても興味持たなくて、まるで人形のようだったからさぁ。さっきのあのゴミクズを見るような絶対零度の冷たい眼差し……。はぁ……思い出しただけでゾクゾクしちゃうよ♪」
「へ、へぇ……」

 そんな眼差し向けられて嬉しいの!? ……やっぱりこの人、Mだ。

『だからと言って、わざとユヅちゃんにちょっかい出して~。いつか殺されるよ~?』
「そうならないように上手くやるって♪」
『全くも~、まだやる気なんだから。ホント殺されても知らないからね? ユヅちゃん、コイツの半径五メートル以内に入っちゃダメだよ!』
「それはヒドイっ! 可愛い女の子に抱きつくのもボクの生き甲斐なのに!」
『うわっヘンタイ! この人チョーヘンタイ!! 誰か衛兵呼んできてー!!』


 ……ん? ちょっと待って、わざと……?
 ということは、首筋を触って私に声を出させたのも、ほっぺをツンツンぶにーってしてきたのも、イシュリーズさんを怒らす為にわざとやったってこと?


 ……ホムラさん……あなたはMじゃない、ドがつくMだっ!!
 それにあなたの所為で私までとばっちりを受けたんだから! どう責任取って貰おうかっ!!


 ……っと、危ない危ない。ホムラさんの所為で話がズレ過ぎてしまった……。今はそんな争いをしている場合じゃないんだ、冷静になろう……深呼吸、深呼吸……。

「えっと、ホムラさん、この鳥はなんですか? まるで不死鳥フェニックスのような……」
「あぁ、コレ? ボクの技で出した、移動用の鳥だよ。本物の火で出来てるから、ボクとリュウちゃん以外の人が触ったら一瞬で燃えちゃうよ~。気をつけてねぇ」
「は、はい……。リュウレイさんは大丈夫なんですか?」
「うん、リュウちゃんは元から火の耐性があって、水技で身体に水の膜を張れるから、火の影響を全く受けないんだ。ボク達はコレに乗ってくから、柚月ちゃんはイシュちゃんと来てね~」

 えぇっ、いいなぁ! 私も火の鳥に乗ってみたかったなぁ!

「柚月、すごく瞳を輝かせてるが、少しでも触れたら火だるまになるから気を付けろよ」

 玄関から、リュウレイさんが苦笑しながら歩いてきました。
 その後ろにイシュリーズさんもいます。二人共、鎧を着て《聖騎士》の姿になっています。
 ちなみにホムラさんは鎧を着ずに軽装姿です。
 彼は素早く移動をし、跳躍も使って瞬時に弓矢を放ち敵を葬るスタイルなので、重たい鎧は邪魔になるそうですよ。

「リュウレイ、《勇者》の部下の兵士達を乗せた馬車は、今頃城へ着いているでしょうか?」
「そうだな。早馬にしたから、もう城に着いて、《勇者》にお前の髪と“剣”を献上していると思うぞ」
「それなら安心です。ありがとうございます」
「あぁ、なるほど。《勇者》に渡す前に“剣”を呼び出したら、計画が無意味になるものな」

 リュウレイさんは納得して頷いてますが、すぐに“剣”を呼び出す事態がくるということでしょうか……。

「さて皆、準備は良いな。では行くか。私とホムラは火の鳥で旧闘技場へ向かう。柚月はイシュリーズと向かってくれ。空から行くと、ここから三十分程度で着く筈だ。旧闘技場の外れに、私達の親がテントを張っている。まずはそこに行って状況を確認しよう」
「はい、分かりました」
「了解~♪」
「うーさん、水の膜を張るぞ」
『……うん、分かった』

 皆それぞれ頷いたり返事をし、ホムラさんとリュウレイさんはヒョイと華麗に火の鳥に乗ります。

「柚月」

 イシュリーズさんが、微笑みながら軽く手を広げています。
 私はとことこと歩いていくと、素直に彼の腕に包まれました。

「ん、今回は素直ですね?」
「抵抗しても竜巻を出してって言っても、イシュリーズさんは無理矢理私を連れて行くでしょう?」
「ふふ、正解。俺を分かってきましたね。嬉しいですよ」

 イシュリーズさんは目を細めて笑うと、私の額に唇をチュッと寄せます。
 ヒィッ、だから人前では止めてーーっ!

「じゃあいっくよ~」

 火の鳥が大きく羽ばたき、空中に浮かびます。
 イシュリーズさんも背中から翼を出すと、私を抱えてバサリと大空へと飛び上がりました。


 ……さぁ、父に会えるまで、あと少しです……!


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