59 / 134
59.『壁ドン』は乙女の夢……でした
しおりを挟むリュウレイさんから何枚か下着の替えを戴き、(理由は聞かないでいてくれたリュウレイさん……お優しい……)部屋に戻った私は、先にサッとシャワーを浴びました。
鏡を見ると、首筋にいくつもの赤い痕が見事についています……。
それに首筋だけではなく、身体全体のあちこちにも……? えっ、こんなところにも!? そっ、そんなところにも!? いつの間にかとんでもないところにつけてるなイシュリーズさんっ!?
しかしこれはさすがに多過ぎでは!? 見られたのがホムラさんだけで良かったぁ!
しょうがない、首についているのに関しては髪下ろしたままで行きますか……。
身体と頭を拭き、ワンピースを着ると、旅の間に着ていた服を洗います。
この世界は洗濯機がないので、基本は石けんを使って、手でゴシゴシッと洗うそうです。
安心したのは、トイレが水洗だったこと。上下水道の設備がちゃんとあって良かったー!
――よし、洗濯終わりっと。これを部屋に乾かして……。
うーん……、イシュリーズさんのお母さんから借りた服、すごく動きやすかったから着ていきたいんだけど、すぐには乾かないよね……。
……あっ、そうだ! 乾かすには風を当てるのが一番だから、イシュリーズさん、何かそういう風技持ってないかな? ちょっと訊きに行ってこよう!
そう思いつき、足を一歩踏み出したところで、扉からノックの音が聞こえてきました。
「柚月、俺です。入っていいですか?」
ナイスタイミング! イシュリーズさんです!
「はい、どうぞ!」
タイミングの良さに、私は上機嫌で返事をすると、扉を開けてイシュリーズさんが入ってきました。彼はまだ支度を始めていないのか、朝の時の軽装のままです。
「イシュリーズさん、丁度良かったです。お訊きしたいことがありまして……」
「俺も貴女に伺いたい事があるんです」
そう言って薄く微笑みながら、イシュリーズさんは私に向かって歩いてきます。
え、何か圧力がすごい? 押し潰されそうな気迫が!?
思わず私は少しずつ後退りし、いつの間にか壁まで追い詰められていました。
イシュリーズさんは微笑したまま私を上から覗き込み、顔の両隣の壁に手を付き、私を逃げられないようにして……?
――って、えぇっ!? こ、これって俗に言う『壁ドン』なるものではっ!? 女子が一度はされてみたいシチュエーション上位に入る、あの伝説のっ!?
……えぇ、えぇ。
私も若かりし頃はもちろん憧れましたよ『壁ドン』。彼氏にされたら絶対にドキドキするんだろうなって。
けれど今の状況は全く甘くなく、むしろ逆! 微笑みの下に静かな怒りを感じるイシュリーズさんに、違う意味でドキドキします……!
「い、イシュリーズさん……?」
「ホムラに頬以外、どこを触られましたか?」
「へっ?」
さ、触られた!? それは首筋のことを言ってるんでしょうか。でもイシュリーズさん、その場にいなかったですよね? 何で分かったんでしょうか……。
……あっ! もしかして、私がビックリして叫んだのが聞こえてた!?
「あの、イシュ――」
「貴女は無防備過ぎです。男がいる家に行く事を簡単に承諾して、俺以外の男に触られるのを簡単に許して。そんな無防備な貴女には、少し『お仕置き』が必要みたいですね?」
「お、おし……っ!?」
「貴女は……俺がどれだけ貴女を想っているのか分かっていない。狂おしいほど貴女だけを愛しているのに……。宝石箱に閉じ込めて、俺だけの愛しい宝石にしたくて堪らないのに――」
切なげに眉間を寄せ、独り言のように言葉を紡いだイシュリーズさんの唇が、私の唇を塞ぎます……。
……って、待って待って!? 最後何かとんでもないこと言われたっ!?
驚きで開いていた私の口内に、すぐさまイシュリーズさんの舌が入ってきて、奥に逃げた私の舌を強引に引っ張り出して絡めてきました……!
「……っ、んんっ」
逃げようとするも、その度に顔の角度を変えて何度も唇を貪られ、わざと湿った音も出して私の羞恥を呼び起こしてきます。
激しいその攻めに息が苦しくなり、飲み込み切れない唾液が、私の顎を幾度も伝っていきます……。
「……はぁっ」
ようやく唇が離れてくれました! 呼吸を整える前に急いでその場から離れようとしましたが、素早く私の両手を壁に押し付けられてしまいます。
「あっ……」
「“消毒”をするまで逃しませんよ」
「しょうどく……?」
イシュリーズさんは両目をスッと細めると、顎を伝う私の唾液を舐め、顔中にキスを散らせてきました。
「ん、くすぐった……っ」
顔をふるふると振っても止めてくれません。特に頬の辺りがしつこいです。何度も舐められて甘噛みされて、しまいには指で頬をぐにーっと引っ張られ……え?
「へ……っ?」
視界の隅で、私の伸びるほっぺを見つめるエメラルドの瞳が少年のように輝き、感動したように呟きます。
「本当だ、よく伸びる……。まるで餅のようだ……」
――って、ホムラさんがやってるのを見て気になってたんかーーいっ!
そしてこの世界でもお餅はあるのね!? ちなみに私はあんこ派です!
……ん? ホムラさん……。
そう言えば、さっきからホムラさんが触った場所を中心に舐められている……。
“消毒”ってそういうこと!?
「……さて、次はどこを“消毒”しましょうか? 奴が触った場所を言わないようなら、全身を“消毒”させて頂きますね。身体の隅々まで、奥の方も……ね」
ヒィッ! イシュリーズさんの目が本気だ! 絶対に有言実行される!
てか“奥の方”ってどこーーっ!?
「あっ、あの、首筋です! 痕がついている方の……。私全然気付かなくて、ついてるよって教えてくれたんです。そ、それだけですっ! ホントですっ!」
「……なるほど」
私の両手を抑えている力がフッと弱くなりました。
わ、分かってくれたのでしょうか?
「奴への牽制の為に付けたのに、あまり効果が無かったな……。数が足りなかったか? もっと沢山付けて……」
独り言のようですが、バッチリ聞こえちゃっていますよーーっ!?
恐ろしい内容の独り言がっ!!
「……柚月」
「はっ、はいぃっ!」
「首筋を“消毒”します。少しチクリとしますが、すぐに治まりますから。良い子だから、少しの間我慢して下さいね?」
「うぐ……っ」
それ、病院の先生が子供に注射をする時に言う台詞ーーっ!!
……こうして私は、首筋の痕を更に増やすことになったのでした……。
あとでリュウレイさんのところにストール借りにいこう……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,758
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる