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58.人の忠告は聞きましょう
しおりを挟む「と、取り敢えず、父の様子を見てみたいです。きっと早い方がいいと思うんです。何だか嫌な予感がするんです……」
父さんのことを考えると、何故か胸騒ぎが収まりません……。
「そうだな、分かった。では皆の準備が出来次第、シデン殿がいる旧闘技場に向かうとしよう」
おや? 何やら新しい単語が出てきましたよ。
「旧闘技場?」
「あぁ。私達の祖父母より前の時代に、ここから少し離れた山の頂上に闘技場が建てられてな。そこで各王国の騎士同士を戦わせて、どちらが勝つか金品を賭けるという娯楽があったんだが、命を失う騎士もいて、騎士の親達や一部の反対を受けて廃止になったんだ。その旧闘技場にシデン殿を封印していた。今は封印は解けてしまったが、外に出ないように結界を張って、私達の親が見張っているのが現状だ」
「へぇ、そうなんですね……」
「そうと決まれば、善は急げでさっさと準備して向かおう~。イシュちゃんもそれでいいよね? さっきから全然口開いてないけど~」
そうです! そう言えば、イシュリーズさんの声をしばらく聞いていません。
隣にいるイシュリーズさんの方を見ると、顔を伏せていた彼がこちらを向きました。
その表情は穏やかに微笑んでる……ように見えますが……?
「いいですよ。急いで準備しましょう。俺はホムラに用があるので、柚月は先に部屋に戻って下さいね」
「あ、はい……?」
「え、ボクに? なになに~?」
『も~、ホント学習しないね~ホムラは。一回見逃してくれたの分かってるのかな~?』
『やれやれ……』
『……やれやれ、だね』
「行こうか柚月」
「リュウレイさん?」
リュウレイさんに促され、私は彼女と一緒に部屋を出ます。
「ま、“忠告”を聞かなかったんだ。自業自得だな」
『……アホだね』
「こら、うーさん。本人のいない所で悪く言うのは陰口になって卑怯だから、本人のいる所で言うんだぞ」
『……あ、そうだね、分かった』
リュウレイさんとうーさんの会話は、しっかり者の姉と素直な妹って感じで萌えであります!
……って、“忠告”? そんなのありましたっけ?
私が首を傾げリュウレイさんを見上げると、彼女は小さく苦笑しました。
「うーさんから聞いたんだが、イシュリーズが、『柚月には緊急時以外は触れるな』ってホムラに言ったんだろ? それだよ。その後すぐホムラが柚月の頭を撫でていたけど、それは見逃してくれたみたいだな。けど、先程のは流石に見逃せなかったようだ」
「…………あぁっ!」
確かに言ってました……! あれって本気だったんですね!?
「イシュリーズはな、昔から感情が表に出なかったんだ。いつも無表情で、怒ったり笑いもしなくて、何を考えてるのかサッパリ分からなくてな。それに、誰に対しても敬語を使うだろ? 全てにおいて、周りから一線を引いていたんだ」
「え、イシュリーズさんが?」
あんなに表情豊かなイシュリーズさんが……。考えても想像できません……。
「ユーナと一緒に暮らし始めてからは、少し表情が出てきたが、何だろう……。申し訳無さというか、後ろめたさみたいなものが一緒に出ていたな」
「申し訳なさと後ろめたさ……?」
イシュリーズさんが、どうしてユーナちゃんにそんな気持ちを持ったのでしょうか? それもサッパリです……。
「けど、今は違う。感情を素直に表に出すようになった。笑ったり、悲しんだり、酷く怒ったり……あんなイシュリーズは初めてだよ。それに、こんな風に今の《聖騎士》が全員集まって話をする事も滅多に無かったんだ。奴が意図的に避けていたからな」
「え? どうして……?」
「恐らく、私達を見ると柚月を思い出してしまって、辛い気持ちになったからだと思う。でも、今はお前が目の前にいる。だから、イシュリーズは抵抗なく私に会いに来たんだな。奴が変わったのも、今の《聖騎士》が揃って話が出来るのも、みんなお前のお蔭だ。……生きていてくれてありがとう、柚月」
「……リュウレイさん……っ」
優しく微笑むリュウレイさんに、私の涙腺がブワッと緩み、思わず彼女に抱きついていました。
リュウレイさんも、笑ってそっと抱きしめ返してくれました。
……傍から見たら感動のシーンですが、私が心の中で、
良い匂いがする! 柔らかい! 胸おっきい! フッカフカ! この温もりに包まれて眠りたい!!
……なんて、鼻穴を大きくさせて思っていたことは絶対に、絶対にナイショです……。
……はい、ヘンタイですみません!
ホムラさんのこと言える立場じゃありませんでしたー!!
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