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53.悲しみに満ちた夜
しおりを挟む「…………っ!」
目を開けると、またもや真っ暗な世界でした。
でもさっきと違って、身体を温もりが包んでいます。
馴染みのある温もり……イシュリーズさん?
私は、イシュリーズさんの腕の中にいるようでした。顔をそっと上げると、間近でイシュリーズさんが目を瞑り、寝息を立てて眠っています。
部屋の電気は点いていません。暗いということは、まだ夜なのでしょう。
私は顔を伏せ、小さく息をつきました。そして、先程見た想い出達を反芻します。
……母さんは、ずっと、ずっと待ってたんだ。父さんが自分を呼んでくれるのを。
でも父さんは【闇堕ち】して、我を失ってしまって。
そして、封印されてしまって……。
母さんはそれを知らないまま、ずっと……二十年間ずっと……これからも待ち続けて……。
あのお爺さん……《神様》も母に言えなかったのでしょう。
『お主の夫は【闇堕ち】し、自我を失くしているから、お主が呼ばれる事はないじゃろう』
……なんて……。
母さんが、とても……とても不憫で……。
……母さん……。
一体どんな気持ちで父さんを二十年間待ち続けていたんだろう……。
二十年は決して短くなんてない。
きっと私では計り知れない悲しみや辛さが沢山あったよね……。
……ねぇ、母さん。
私の存在は、少しでも……母さんの救いになれていたかなぁ……?
知らない内に、私の瞳から涙が流れ出ていました。
慌てて泣き止もうとしても、一度出てしまった涙は、なかなか止まってくれません。
止まれ止まれっ、イシュリーズさんに気付かれるな……!
しゃくり上げようとする口を必死で抑えてると、背中にあった逞しい腕が、私の身体をギュッと強く抱きしめてきました。
「…………っ?」
「……一人で泣かないで下さい、柚月」
頭上から、低い囁き声が私の耳に聞こえてきました。
「い、イシュ――」
「……思い出したのですね?」
私はその問いに、小さくコクリと頷きます。
「……そう……」
イシュリーズさんはそれだけ言うと、私の目尻に溜まる涙を唇で拭い、頬に流れたそれも舌で舐め取ります。
「好きなだけ泣いて下さい。貴女の気が済むまで……。俺の胸なら、いくらでも貸しますから」
私の後頭部を撫でながら、イシュリーズさんは優しくそう言ってくれました。
「……っ。……あ、の」
「ん?」
「は、はなみずが……」
「ははっ。気にしませんよ、そんなの。後でちゃんと拭きますから安心して下さい」
「……ふふっ。ありがとう……ございます……」
イシュリーズさんが可笑しそうに笑い、私も泣き笑いをすると、彼の胸に顔を埋めました。
「……朝になったら、きっと元気になっていますから。だから、今は……。今、だけ――」
「……大丈夫。我慢しないで、柚月」
「……は、い……っ」
私はイシュリーズさんの温もりを感じながら、泣き疲れて眠るまで、ずっと涙を流し続けていました。
悲しみや切なさも、一緒に流れていくことを願って――
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