【R18】《用無し》と放り出された私と、過保護な元《聖騎士》様の旅路

望月 或

文字の大きさ
上 下
46 / 134

46.告白

しおりを挟む



「…………」

 私は呆然として、ただイシュリーズさんを見つめます。
 そんな私の様子に何かを感じ取ったのか、イシュリーズさんは我に返ったように瞳を瞬かせると、顔を伏せ、小さく頭を振りました。

「……すみません、柚月。言葉が間違っていました。訂正させて下さい」
「は、はい……」

 そ、そうですよね。――びっ、ビックリしたあぁ!
 いきなり、え、え、エッチさせろだなんて、流石にありえませんよね?
 いくらイシュリーズさんでもそんなこと――


「貴女を愛しています、柚月。抱いてもよろしいでしょうか?」


 ヒェッ!? 更に直球来たあぁーーっっ!?

 私の頭はもうグルングルンのグワングワンです。――って、何だその頭の状態は。自分でも何を言ってるのか分かりません。

 ……というか、今、愛の告白もされました!?
 あ、愛してる、って……! 告白の最上級の言葉で!

 え、ちょっと待ってちょっと待って!? 脳が現実に追いつかない! 顔がものすごい熱いっ!


 私の真っ赤な顔と挙動不審な態度で、かなり混乱していると分かったのでしょう。
 イシュリーズさんはクスリと笑うと、私の額にそっと唇を落としました。

「大丈夫ですよ、ゆっくりで……。待ってますから、ずっと。貴女の返事を」

 そう言って、私を優しく抱きしめました。
 私の耳の位置が、丁度イシュリーズさんの心臓の場所にあって、彼の鼓動が聞こえてきます。

 鼓動が、早い……? イシュリーズさんも緊張している?

 それに気付くと、少し気持ちが落ち着いてきました。
 イシュリーズさんは、素直に自分の気持ちを伝えてくれました。それなら私も勇気を出して、自分の気持ちを正直に伝えなくては。


 ……例え彼に嫌われようとも――


「私、は……」
「はい」
「私は日本で、仕事が上手く出来なくて、その仕事を辞めて……家に引きこもっていました。人に会うのが怖くて、人の目が怖くて、顔も合わせられなくて……。母に甘えて、家事だけして、ダラダラと家で過ごしていました」
「……はい」
「今もまだ、人と目を合わせるのが怖いです。特技もないし、長所もない。私はそんな、駄目駄目な人間なんです」
「…………」


 イシュリーズさんの相槌が無くなりました。呆れているんでしょうか。それとも軽蔑したでしょうか。怖くて顔が見れません……。
 それでも私は、下を向いたまま、最後まで自分の気持ちを伝えます。

「イシュリーズさんは、とても立派です。《聖騎士》になって、皆を守って、ヒーローのようで。すごく強くて、優しくて。しかもイケメンで、格好良くて。背が高くて、細いのに意外に力持ちで、料理もかなり上手で、家事も出来て、その上――」
「柚月、――柚月」
「寝て――は、はい?」

 喋りを遮られ、私は思わずイシュリーズさんを見上げてしまいました。
 彼は私から目を逸らし、口に手を当てています。
 その顔全体が赤く染まって……?

「褒め過ぎです。もう……十分ですから、次へ……」

 イシュリーズさん、照れてらっしゃる!
 この後、「寝てる時ヨダレも出さないでイビキも掻かないで白目にもならないで……」って続く予定だったのですが、本人がそう仰るなら仕方ないですね……。

「だから……あの、そんなすごく立派な方と、駄目駄目な私となんかじゃ全然釣り合わないですし、そんな方に守って頂けるのも、大変おこがましいですし」
「柚月」

 またもや言葉を止められてしまいました。
 あの、返事をゆっくり待ってくれるんじゃなかったんですか……。
 イシュリーズさんは、視線を下げていた私の顎を指で持ち上げると、強引に自分の方に向かせます。


「あっ……」
「肝心な事を聞いていません。貴女は、俺の事をどう想っているのですか?」


 綺麗なエメラルド色の瞳が、私の顔を見据えます。
 急いで目を逸らそうとしても、顎に掛かっている指がそれを許してくれません。

 ……仕方ありません。ここまで言ってしまったのなら、これも正直に言いましょう。
 もっと勇気を出せ、私っ! 勇気は私の友達っ!


「……好き、です。――大好きです」
「…………っ!」
「《聖女》があなたのことを恋人にすると言った時、あなたを取られたくないって思ったし、魔物に殺されそうになった時も、あなたにもう会えないなんて嫌だって強く思いました。そんな気持ちは、その人のことを好きじゃないと生まれないと思いますし、私はいつの間にか、あなたのことが好きになってました。でも――」


 あなたと私とじゃ全然釣り合わない、あなたに見合った人が他にきっといるはず――と続けようと動かした唇は、イシュリーズさんの唇によって動きを妨害されてしまいました。
 すぐに舌が入ってきて、濃厚にそれらが絡み合います。

「んん、ふっ……」

 口からの息継ぎを許してくれず、次第に息が苦しくなり、慌ててイシュリーズさんの胸を手でトントン叩くと、ゆっくりと唇が離れました。
 透明な糸が唇同士を繋ぎ、静かに切れていきます。

 こ、この人は何故いつも突然キスをしてくるのか……っ!

 しばらく私の荒い息を吐く音だけが聞こえ、呼吸が落ち着いた頃、イシュリーズさんが静かに口を開きました。


「俺達、両想いですね。とても嬉しいです」


 ……と、ニッコリ笑いながら。


「……え、ええぇっ!? 何故にそうなるっ!? 私の決死の告白聞いてました!? 耳栓なんてしてませんよね!? あなたと私とじゃ全然釣り合わないって! あなたには他に見合った人が……っ!」
「貴女がそれを気にするようなら、俺は《聖騎士》を辞めて、ただのどこにでもいる男になりますよ」


 うええぇっ!?
 それ絶対やっちゃ駄目なやつじゃっ!?
 それにこんな美形イケメンはどこにでもいませんーーっ!!


「い、イシュリーズさんっ!?」
「貴女を手に入れる為なら、俺は何でも捨てられます。貴女に対する俺の気持ち、舐めないで下さいね?」

 そう言って、イシュリーズさんは目を細めて笑います。

「さぁ、観念して俺に抱かれて下さい」

 ……あれ、いつの間にか強制的に……なって……る……?
 あれ、おかしいな、あれれぇ?


「……あ、の」
「はい」
「こんな私で……いいんですか? 本当に……?」
「貴女じゃなければ駄目です。特技や長所がなく、駄目な人間だと貴女は自分を過小評価していますが、俺は貴女の良い所を沢山、沢山知っています。他の誰かではなく、貴女だけがいいんです。生涯、貴女だけが俺に必要なんです」

 知らない内に、私の両目から涙が溢れていました。
 何の涙なのかは、様々な気持ちが交ざっていて、自分でもよく分かりませんでした……。

「……ふ……」
「はい」
「ふ、不束者で恐縮ですが、よ、よろしくお願いいたします……」
「ふふっ。はい、こちらこそ。喜んで」


 イシュリーズさんは嬉しそうに笑うと、私の涙を指で拭き、もう一度キスをしてきたのでした。


しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道

Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道 周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。 女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。 ※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...