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42.騒動の終着
しおりを挟むそんな会話をしている内に、兵士達のいる場所に着きました。
彼らの両手首と両足首には、水で出来た縄で縛られ、逃げられないようになっています。
彼らは皆、すごく意気消沈していました。見ていて、こちらも痛々しい気持ちになるほどに……。
すると、一人の兵士が、イシュリーズさん達に向かって声を上げました。
「上司である《勇者》様の命とはいえ、《聖騎士》様方には大変許し難い事をしてしまいました。魔物達から私達を守ってくれた事も、大変感謝しております。この私の命を捧げますので、どうか他の者達は開放して頂けないでしょうか」
その言葉に、他の兵士達がどっとざわめきます。
「何を言い出すんだお前はっ!?」
「そうだ、そんなこと絶対に許さねぇぞ!」
「いいんだ……。お前ら、俺の分までちゃんと生きなきゃ許さねぇからな」
「お前……っ!」
「この馬鹿野郎が……!」
兵士さん達の悲痛な声が、あちこちから飛んできます……。
……あれ? よく見たらあの発言した人、イシュリーズさんの家の前で見張りをしていた兵士さんです。
去り際、戸惑いながら別れの挨拶をしてくれた――
やっぱり、すごく優しい人だったんですね……。
「……いいえ、そんな事をする必要はありません」
その光景を黙って見ていたイシュリーズさんは、私に少し下がるよう手で合図すると、おもむろに“剣”を抜きました。
そして、頭の後ろで縛っている自分の髪を持ち、何とそれを首筋の辺りからバッサリと切ってしまいました!
「イシュリーズ!?」
「イシュちゃん!?」
《聖騎士》二人の声が重なります。
私は、イシュリーズさんの行動に唖然として声が出ませんでした。
更にイシュリーズさんは、腕の小手を外して肌を出し、そこに剣先をピッとひき、自ら傷を付けました!?
「イシュリーズさんっ!?」
私の裏返った声が辺りに響きます……。
「大丈夫ですよ」
イシュリーズさんは安心させるように私に微笑むと、切った髪を、腕から滴る己の血で染めていきます。
やがて赤く染まった自分の髪と“剣”を、見張りの兵士さんに差し出しました。
「これらを、《勇者》にお渡しなさい。そして、『《風の聖騎士》を討ち取り、黒髪の女も殺した。首や身体は偶然現れた魔物達が食べてしまったので、遺品は《風の聖騎士》のこれしか持ち帰れなかった』と言って下さい。それで、貴方達は死刑から免れます」
「《聖騎士》様……」
「約束して欲しい事は、俺と彼女が生きているという事実を、絶対に《勇者》と《聖女》に悟られないで下さい。今まで通り、《勇者》に仕えて下さい。辛いでしょうが、俺達が元《雷の聖騎士》の件を解決した後、《勇者》達の件も片付けます。それまで何とか耐えて下さい」
「……はい……。はい、分かりました。必ず、必ず約束いたします……! ありがとうございます……!!」
見張りの兵士さんはむせび泣きながら、イシュリーズさんの髪の毛と“剣”をしっかりと受け取ります。
他の兵士さん達も皆、目に涙を浮かべ、次々と力強く頷きました。
グリーヴァ王国行きの馬車を手配し、兵士達を乗せて見送った後、ブルフィア王国の王様に、『魔物が現れたけど全て退治した』との報告を、リュウレイさんが伝えに行きます。
話がややこしくなるので、《勇者》と《聖女》が兵士達を引き連れてやって来た事実は伏せることにしました。
門番さん達にもそのことについて、リュウレイさんから固く口止めをお願いします。
門番さん達は快く頷いてくれました。
そしてこの騒動は、ようやく終わりを迎えたのでした――
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