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40.《火の聖騎士》登場

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「ちょっとイシュちゃん、剣を仕舞ってよ、危ないって~。てか、こんなに怒ってるイシュちゃん初めて見たな~。いつもは超無表情じゃん?」
「えっ!?」

 私はホムラさんのその言葉にビックリです。
 そうなんですか? イシュリーズさん、結構表情筋豊かですよ?

 イシュリーズさんはハッとしたように目を瞠ると、顔に手を当て首を軽く振りました。
 
「そう、ですね……。柚月を助けてくれてありがとうございます、ホムラ。魔物を一掃してくれた事も感謝します。けれど、柚月には緊急時以外、指一本も触れないで下さい。それを見ただけで、俺は怒りで理性が飛んでしまう……」

 イシュリーズさんは、自分を落ち着かせるように大きく息をつくと、“剣”をウインさんに仕舞います。


 ……ん?
 …………んんっ? もしかして、イシュリーズさん……嫉妬して下さってる……?


 その考えに至った私は、顔が熱くなっていくのが自分でも分かりました。

「ふ~ん……。イシュちゃんがそんなに怒るってコトは、この子は“あの”柚月ちゃんで間違いないのか~。不思議なコトってあるもんだね~」

 ……リュウレイさんといいホムラさんといい、“あの”って何なんですか……。他に“この”とか“その”もいるんでしょうか。
 ……え、もしかして……私ってば量産型ロボットだった!?
 不思議なポケットなんて持っていませんよ!?


 ――あっ、そうです! ドタバタしてて忘れてましたが、ホムラさん! 私のことはともかく、母のことまで知っているようでした。
 一体どこで会ったのでしょうか……?

 …………!
 もしかして日本でっ!?
 もし……もしホムラさんが日本に行ったことがあるのなら、日本に帰れる方法が分かります!
 手掛かりがすぐそこにっ! やったぁ!!
 ……ですが今は訊くタイミングではないので、この騒動が片付いたらホムラさんに伺ってみましょう!


「柚月っ!」


 すると、イシュリーズさんが私の名を呼び、駆け寄ってきました。

「イシュリーズさん、無事で良かった――」
「また貴女はっ! 俺を助ける為に無茶をして……っ! 俺は自分の命より、貴女の方がずっと……ずっと大切なのに! もう二度と貴女を失いたくないのにっ!! 何故それを分かってくれないんですかっ!?」

 イシュリーズさんが声を荒くし、切なそうに眉間に皺を寄せると、私をきつく抱きしめてきました。
 “もう二度と”……? その意味がよく分かりませんが、イシュリーズさんがすごく悲しんでいることは分かります……。
 私は彼の背中に手を回し、正直に自分の気持ちを言いました。

「あの……ごめんなさい、約束を破ってしまって……。でも私も、イシュリーズさんがいなくなるのは嫌なんです。怪我もして欲しくないんです。私も、自分の命よりあなたの命の方が大切なんです。沢山の人を守ってくれるあなたを……ヒーローのようなあなたを……守りたかったんです……」
「……っ! ――柚月、貴女は……それを……」

 イシュリーズさんは言葉を詰まらせると、瞼をきつく閉じて更に強く私を抱きしめます。

「……ありがとう、柚月……。その言葉、すごく……すごく嬉しいです……。俺もすみません、大声を出してしまって。無事で本当に良かった……。今度からは貴女を一時も離さないようにしますから。貴女をすぐ近くで守れるように」


 えっ、あの……とても嬉しいお言葉で恐縮ですが、トイレとお風呂と就寝の時は離れて頂けるとありがたいです。


「柚月……顔をよく見せて?」


 イシュリーズさんが私の頭を撫でながら顔を覗き込みます。
 そっと顔を上げると、頬に手を添えられ、イシュリーズさんの美麗な顔が段々と近付いていって――って、ちょっと待って、このままチューですか!?

 外野、そこに外野がいるからーーっ! 何かすっごくニヤニヤッとしてこっち見てる赤毛の人がいるからーーっ!!

 私は慌てて、イシュリーズさんの口に自分の掌を当てます。
 イシュリーズさんは、途端ブスッとした顔になりました。やっぱりチューでしたか! 危なかったっ!

「…………柚月?」
「……や、だって、ここ外、だから……。それに、外野が……」

 モゴモゴと言い訳してると、ブハッとホムラさんが吹き出しました。

「何これ、恋愛劇の次は喜劇見せられてんの~? てかイシュちゃん、キャラ変わった? あんなに喜怒哀楽が無かったのにさ~。けどこっちの方が人間味があってボク、大好きよ~」

 ケラケラと笑うホムラさんは、きっと笑い上戸ですね……。
 ――あっ! そう言えばリュウレイさんは!?

「リュウレイさんはご無事ですか!?」
「――私の事なら心配無用だ。兵士達は、水の縄で全員縛ってきた。後は彼らをどうするかだが……。その前に、――ホムラ」

 リュウレイさんがこちらに歩いてくると、ホムラさんをギッと睨みつけました。

「リュウちゃん♪ 久し振り――」
「貴様はまた許可なく女性に抱きついて! 止めろと何度も言ってるだろうがっ!!」
「あ、いててっ、リュウちゃん、痛いぃ……♪」
「気色悪い声を出すなこの変態がっ!」

 リュウレイさんに頭をグリグリされているホムラさんは、何だか嬉しそうです。
 もしかしなくとも、ホムラさんはMですか!?

「全く……。しかし、助かったよホムラ。だが何故ここに? お前はイーファス王国にいるはずでは……」
「イーファス王国?」

 聞き慣れない王国の名前に思わず聞き返すと、イシュリーズさんが説明をしてくれました。

「元《雷の聖騎士》が住んでいた、雷の国の名です。今は《雷の聖騎士》が不在なので、リュウレイとホムラが協力して、自国と兼任でイーファス王国を守っているんですよ。普段ホムラは、火の国・レドナイト王国に住んでいます」
「なるほど……」


 そうか、元《雷の聖騎士》であるシデンさんの妻子は殺されてしまったとウインさんが言っていたから、跡を継ぐ人がいないんですね……。


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