【R18】《用無し》と放り出された私と、過保護な元《聖騎士》様の旅路

望月 或

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39.台風警報発令中

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 ……あぁ、ムカデ達が一斉にこっちを見ています。そして丸腰の私の方に向かって来て……。

(……まだだ……。まだ諦めるなっ!)

 私は弱気になる自分を叱咤し、何とか逃げようと走り出します。けれどムカデへの恐怖からか、なかなか足が上手く動いてくれません。

「…………っ!」

 足がもつれ何度か転びつつもすぐに起き上がり、懸命に足を動かします。けれどムカデ達は着実に私に近付いていて……。

(動いて、私の足っ! お願いっ!!)

 ムカデ達が私に気を取られたので、イシュリーズさん達が奴らを倒すスピードが上がったのですが、何匹かはこっちにやってくるでしょう。……きっと間に合いません。


 ……ごめんなさい、イシュリーズさん。
 また、ユーナちゃんの時のような思いをさせてしまうかもしれません……。
 でも絶対にまた、あなたが守りたいと思う人が現れますよ。
 だって、ユーナちゃんは生まれ変わって、この世界のどこかにいるんですから。


 ――あぁ、でも嫌だなぁ……。
 もう二度とイシュリーズさんに会えないなんて……。
 そんなの……嫌、だなぁ……。


 逃げる私の目に、じわりと涙が滲み出ます。
 突然、前がフッと暗くなりました。


「…………っ!!」


 いつの間にか、目の前にムカデの足が……!
 ぎゃあぁぁっ!! ムカデの裏っ! キモイ、キモ過ぎる……っ!!

 あまりの気持ち悪さに、私はそこで足が竦んで動かなくなってしまいました。
 ムカデの足が、こちらに向かって伸びてきます……。
 私はそれを、為す術もなく見つめ――



 ボゥッ!!



 突然足が、炎を出して燃えました。


 ゴオオォォォッ!!


 続いて身体も、燃えました。


 パチパチパチパチ――


 灰に、なっていきます。


 ヒュウウゥゥ――


 灰が、散っていきました。


 …………。


 なんだこれ……。



 私はその場にへたり込み、目の前の光景を呆然として眺めます。
 一体、何が起きたんでしょう……?


「大丈夫かい~? 危ないところだったねぇ」


 すると頭上から声がし、上を見ると、一人の男の人が空から飛び降りて来ました。

「よ、っと。着地成功~。勇敢だねぇお嬢さん。ボク惚れちゃいそうになったよ~」

 燃えるような赤い髪をポニーテールのように後ろに結び、同じくルビーのような真紅の瞳を輝かせ、少し垂れ目のイケメンの男の人は私に向かってへら、と笑います。
 手には美しい装飾の入った、赤い弓を持っていました。


 この人は、もしかしなくても――


「……《火の聖騎士》さん!?」
「おっ、せいか~い。ボク、ホムラ・カジンっていうよ。よろしくね、勇敢な黒髪のお嬢さん――って君、蕾さんによく似てるね~。まぁ他人の空似だろうけど~」

 えっ!? 今、母さんの名前を言った!?

「蕾を……母を知っているんですか!?」
「へっ、母ぁ? ……もしかして君、柚月ちゃんだったりして?」
「えっ!? はっ、はい、そうですけど……?」

 私のことも知ってる……? どうして!?
 私の返事に、ホムラさんは首を大きく傾げます。

「んん~? これはどういうこと~? 分かんないけど、取り敢えずあの魔物達を倒すのが先だよね。ってなワケで、よろしくぅ~、ブーちゃん♪」
『だからぁ、その呼び方止めてよね! まったくもー!』

 幼い男の子の声が頭に響きます。
 ホムラさんの【聖なる武器】である、あの弓の声ですね! まだ声変わりする前の、可愛らしい男の子の声です。

「んじゃいっくよ~、っと」

 そう言ってホムラさんは大きく跳び上がると、空中で弓を構えます。
 と同時に、ホムラさんの手の中に、炎が宿る弓矢が何本も出てきました!


「秘技、炎の乱れ撃ち~、ってね」


 ホムラさんは素早く何度も炎の弓矢を放ち、それらは残っている巨大ムカデ達に次々と突き刺さります。
 瞬間、激しい炎がムカデ達の身体を包み込み、それらはやがて、全て灰になって風に飛ばされていきました。

「はい、一丁上がり~♪」

 ホムラさんは華麗に降り立つと、弓を背に仕舞って、座り込む私に手を伸ばしてきました。

「立てる~?」
「あ、ありがとうございます……」

 私はお礼を言って、ホムラさんの手を握ると、そのまま引き寄せられ、何とギュッと抱きしめられました!
 ホムラさんの身長はイシュリーズさんより少し高く、その胸にすっぽりと包まれます。

「んん~、思った通り、やっぱりプニプニだった♪ 女の子はこのくらいプニプニの方が抱き心地いいよね~♪ あ~、プニプニ最高~。うわ、ほっぺもプニプニだぁ~。ん~、プニプニ万歳~」
「え、ええぇ……?」

 ホムラさんが屈んだと思ったら、頬に頬を擦り寄せられ、私の身体は固まり、頭は大混乱です。


 な、何なんですかいきなり!? プニプニプニプニって! 私が太ってるって言いたいんですか? 失礼な人ですね! いや間違いじゃないんですけどね! プニプニがお好きなら、私のお腹の脂肪を触らせたらますます喜びそう……いや絶対に触らせませんけどね!?


「あ、超巨大級な殺気」


 ホムラさんはいきなりそう呟くと、私から音もなくシュッと跳んで離れます。
 と同時に、今までホムラさんがいた所に、突然剣先が現れました――って、ヒィェェッ!?

「あっぶないな~。何だよも~、イシュちゃ~ん。彼女の命の恩人に向かってさぁ」

 横を見ると、そこには、いつの間にかやってきたイシュリーズさんが、“剣”の切っ先をホムラさんに向けて立っていました。
 腰にはちゃんとウインさんが差さっています。
 良かった、無事に拾ってくれたんですね……。


 ――って、イシュリーズさんの顔! めちゃくちゃ怒ってる!! 青筋立ててる!? 全身から強大な怒気を放ってらっしゃる!!
 こんなに怒りを表したイシュリーズさん、初めて見ました……。

 背後に荒れ狂う台風並みの暴風が見えますよ!?
 瞬時にバビューンッと吹き飛ばされそうな勢いですよ!?


 ……だ、誰か避難指示を出して下さ~い!!



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