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39.台風警報発令中
しおりを挟む……あぁ、ムカデ達が一斉にこっちを見ています。そして丸腰の私の方に向かって来て……。
(……まだだ……。まだ諦めるなっ!)
私は弱気になる自分を叱咤し、何とか逃げようと走り出します。けれどムカデへの恐怖からか、なかなか足が上手く動いてくれません。
「…………っ!」
足がもつれ何度か転びつつもすぐに起き上がり、懸命に足を動かします。けれどムカデ達は着実に私に近付いていて……。
(動いて、私の足っ! お願いっ!!)
ムカデ達が私に気を取られたので、イシュリーズさん達が奴らを倒すスピードが上がったのですが、何匹かはこっちにやってくるでしょう。……きっと間に合いません。
……ごめんなさい、イシュリーズさん。
また、ユーナちゃんの時のような思いをさせてしまうかもしれません……。
でも絶対にまた、あなたが守りたいと思う人が現れますよ。
だって、ユーナちゃんは生まれ変わって、この世界のどこかにいるんですから。
――あぁ、でも嫌だなぁ……。
もう二度とイシュリーズさんに会えないなんて……。
そんなの……嫌、だなぁ……。
逃げる私の目に、じわりと涙が滲み出ます。
突然、前がフッと暗くなりました。
「…………っ!!」
いつの間にか、目の前にムカデの足が……!
ぎゃあぁぁっ!! ムカデの裏っ! キモイ、キモ過ぎる……っ!!
あまりの気持ち悪さに、私はそこで足が竦んで動かなくなってしまいました。
ムカデの足が、こちらに向かって伸びてきます……。
私はそれを、為す術もなく見つめ――
ボゥッ!!
突然足が、炎を出して燃えました。
ゴオオォォォッ!!
続いて身体も、燃えました。
パチパチパチパチ――
灰に、なっていきます。
ヒュウウゥゥ――
灰が、散っていきました。
…………。
なんだこれ……。
私はその場にへたり込み、目の前の光景を呆然として眺めます。
一体、何が起きたんでしょう……?
「大丈夫かい~? 危ないところだったねぇ」
すると頭上から声がし、上を見ると、一人の男の人が空から飛び降りて来ました。
「よ、っと。着地成功~。勇敢だねぇお嬢さん。ボク惚れちゃいそうになったよ~」
燃えるような赤い髪をポニーテールのように後ろに結び、同じくルビーのような真紅の瞳を輝かせ、少し垂れ目のイケメンの男の人は私に向かってへら、と笑います。
手には美しい装飾の入った、赤い弓を持っていました。
この人は、もしかしなくても――
「……《火の聖騎士》さん!?」
「おっ、せいか~い。ボク、ホムラ・カジンっていうよ。よろしくね、勇敢な黒髪のお嬢さん――って君、蕾さんによく似てるね~。まぁ他人の空似だろうけど~」
えっ!? 今、母さんの名前を言った!?
「蕾を……母を知っているんですか!?」
「へっ、母ぁ? ……もしかして君、柚月ちゃんだったりして?」
「えっ!? はっ、はい、そうですけど……?」
私のことも知ってる……? どうして!?
私の返事に、ホムラさんは首を大きく傾げます。
「んん~? これはどういうこと~? 分かんないけど、取り敢えずあの魔物達を倒すのが先だよね。ってなワケで、よろしくぅ~、ブーちゃん♪」
『だからぁ、その呼び方止めてよね! まったくもー!』
幼い男の子の声が頭に響きます。
ホムラさんの【聖なる武器】である、あの弓の声ですね! まだ声変わりする前の、可愛らしい男の子の声です。
「んじゃいっくよ~、っと」
そう言ってホムラさんは大きく跳び上がると、空中で弓を構えます。
と同時に、ホムラさんの手の中に、炎が宿る弓矢が何本も出てきました!
「秘技、炎の乱れ撃ち~、ってね」
ホムラさんは素早く何度も炎の弓矢を放ち、それらは残っている巨大ムカデ達に次々と突き刺さります。
瞬間、激しい炎がムカデ達の身体を包み込み、それらはやがて、全て灰になって風に飛ばされていきました。
「はい、一丁上がり~♪」
ホムラさんは華麗に降り立つと、弓を背に仕舞って、座り込む私に手を伸ばしてきました。
「立てる~?」
「あ、ありがとうございます……」
私はお礼を言って、ホムラさんの手を握ると、そのまま引き寄せられ、何とギュッと抱きしめられました!
ホムラさんの身長はイシュリーズさんより少し高く、その胸にすっぽりと包まれます。
「んん~、思った通り、やっぱりプニプニだった♪ 女の子はこのくらいプニプニの方が抱き心地いいよね~♪ あ~、プニプニ最高~。うわ、ほっぺもプニプニだぁ~。ん~、プニプニ万歳~」
「え、ええぇ……?」
ホムラさんが屈んだと思ったら、頬に頬を擦り寄せられ、私の身体は固まり、頭は大混乱です。
な、何なんですかいきなり!? プニプニプニプニって! 私が太ってるって言いたいんですか? 失礼な人ですね! いや間違いじゃないんですけどね! プニプニがお好きなら、私のお腹の脂肪を触らせたらますます喜びそう……いや絶対に触らせませんけどね!?
「あ、超巨大級な殺気」
ホムラさんはいきなりそう呟くと、私から音もなくシュッと跳んで離れます。
と同時に、今までホムラさんがいた所に、突然剣先が現れました――って、ヒィェェッ!?
「あっぶないな~。何だよも~、イシュちゃ~ん。彼女の命の恩人に向かってさぁ」
横を見ると、そこには、いつの間にかやってきたイシュリーズさんが、“剣”の切っ先をホムラさんに向けて立っていました。
腰にはちゃんとウインさんが差さっています。
良かった、無事に拾ってくれたんですね……。
――って、イシュリーズさんの顔! めちゃくちゃ怒ってる!! 青筋立ててる!? 全身から強大な怒気を放ってらっしゃる!!
こんなに怒りを表したイシュリーズさん、初めて見ました……。
背後に荒れ狂う台風並みの暴風が見えますよ!?
瞬時にバビューンッと吹き飛ばされそうな勢いですよ!?
……だ、誰か避難指示を出して下さ~い!!
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