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35.空気読んでよ《勇者》サマ
しおりを挟む私が必死になって思考している中、イシュリーズさんが扉の鍵を掛け――
「入るぞ、柚月さん」
女性の声がしたと同時にガチャッとそれが開き、何とリュウレイさんが顔を出しました!
リュウレイさんは、すぐ目の前にいるイシュリーズさんに目を見開きビクッとしています。
私は慌てて起き上がり、急いで胸元とスカートを整えました。
イシュリーズさんが前にいたので、リュウレイさんからは私が見えない位置にいたようです。
よ、良かった……。今度は睨み合いだけじゃ済まなかったかも……。
「な……何だ、イシュリーズか。まだここにいたのか。戻るところだったか?」
イシュリーズさんは暫く無言で棒立ちになった後、顔を背けてチッ、と微かに舌打ちをしました。
――って、舌打ちぃ!?
い、いえ、本当に一瞬だったし、リュウレイさんも気付いていないみたいだし、見間違いと空耳でしょうか……? だってあのイシュリーズさんが舌打ちだなんて……。
「……いえ。何か御用でしょうか?」
ほら、微笑むいつものイシュリーズさんだ。アレはきっと見間違いですね、うん。
でも心なしか目が笑っていないような……。
リュウレイさんはそれに気付かずに話を進めます。
「お前もいて丁度良かった。柚月さんとお前が良ければ、今後の事を談議しようと思ってな」
「……そうですね……。柚月は今食事中ですので、それが終わってからでもいいですか?」
「あぁ、構わない。スープは……もうすぐ食べ終わりそうだな。じゃあここで待たせて貰うぞ」
「…………」
「どうした? イシュリーズ」
「……いえ、何でもありません」
イシュリーズさん、やっぱり目が笑っていない!?
でも、何とか危機? は免れたようです……。
今後また流されてしまわないよう、早急にイシュリーズさんとの話し合いの場を設けなければ……。
スープを全て美味しく戴いた私は、ウインさんとうーさんも入れて、今後について相談することになりました。
あっ、そうそう、リュウレイさんに切っ先を向けられることになった原因である、グリーヴァ王国で起こった出来事については、私が寝込んでいる間に彼女に詳しく説明したそうです。
リュウレイさんも分かってくれたそうで、誤解が解けて本当に良かったです。
「お前達はこれから、《勇者》の命で、元《雷の聖騎士》のシデン殿の討伐に行くのだろう? それに私も協力しろ、と」
「はい、そうです。お願いできますか、リュウレイ?」
「それは勿論構わない。シデン殿を何とかしなければ、この世界は滅亡の危機に晒されるからな。人数は多い方がいい。ただ……。――なぁ、イシュリーズ」
不意に、リュウレイさんがイシュリーズさんに真剣な表情を向けます。
「お前は、その……。柚月さんが、“あの”柚月だと思っているのか?」
え、私? 私が何か……?
イシュリーズさんを見ると、彼も真面目な顔つきでリュウレイさんを見返します。
「『思っている』ではなく、彼女は“柚月”です。俺の生涯愛しい女です」
「……そうか。やっぱり“あの”柚月か……」
え、え? 私の話なのに、私抜きで話が進んでますよ!?
それにイシュリーズさん、サラリと私の前でとんでもないこと言った!?
でもツッコめる雰囲気じゃない! ああぁっ、顔が熱いぃっ!
「なら、出発する前に、柚月には“真実”を知って貰い、“判断”をして貰わなければならないぞ。彼女は忘れているみたいだからな」
「えぇ、そうですね……。ですが……」
「あぁ、言いたい事は分かる……」
私が悶えている間も、二人はすごく深刻そうな顔をして話しています。
私が一体何を忘れてるんでしょうか。さっぱり分かりません……。
その時です。コンコン、と扉のノックの音が鳴り、リュウレイさんが返事をすると、「失礼いたします」と、あの老執事さんが扉を開けて入ってきました。
「どうした?」
「門番より、急ぎのご報告です。《勇者》と《聖女》が兵士十数人を引き連れてやってきて、正門の前で『極悪人を出せ!』と騒いでいるとの事です」
ギャーッ、本当にやってきたぁ!!
『どっちが《極悪人》だ。愚かな《勇者》だな』
『……ひねりつぶす?』
ウインさんが溜め息交じりに言い、うーさんが――って、うーさん可愛い声で何気に怖いこと言ってるー!!
「分かった、すぐに行くと伝えろ。……やれやれ、話の続きはこの騒動が解決してからだな」
「支度してすぐに向かいましょう。正門は閉じてあると思いますが、民衆に被害が及ばないか確認しないと」
「そうだな」
こうして私達は、《勇者》達のいる正門へ急ぐことになったのでした。
何だか嫌な予感がしまくります……。
――って、リュウレイさんの話の続きが気になるんですけどーーっ!
外道《勇者》よ、お前ちょっとは空気読めっ!!
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