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22.未知なる王国へ
しおりを挟む自分を指差して首を傾げると、余程間抜けな顔をしていたのでしょう。イシュリーズさんはプッと吹き出して頷くと、私の額にチュ、とキスをしてきました。
私の顔が瞬間湯沸かし器になり、頭からプシューッと湯気が出ます。
「……え、ええぇぇっ!? ちょっと待って待って、何で私なんですか!? ユーナちゃんなら十分過ぎるほど理解出来ますよ!? めちゃくちゃ可愛いし、良い子だし! だけど何で私なんかがっ!?」
『それは直接本人から訊くんだな』
「で、でもっ、本当にありえないです!! イシュリーズさんには涙と鼻水だらけのグチャグチャな顔見られたし、プヨプヨの締まりのない裸も見られたし、盛大なイビキも聞かれたみたいだし!」
『…………。あぁ……それはまぁ、女性として恥ずかしい事だとは思うが……。それでもいいと思ったんだろう……? 恐らく……多分……、きっと……な』
何で徐々に自信を無くしていくんですかウインさんっ!? いえ私も信じられないですけどっ!
「と、とにかく……。私は、イシュリーズさんに守って貰えるような女じゃないんですよ……」
だって、日本じゃ引きこもりで、人の目が怖くて、仕事も未だに出来ない……。
こんな駄目駄目な奴が、この世界で国を守る《風の聖騎士》であるイシュリーズさんに守って貰う相手だなんて、おこがまし過ぎます……。
両膝を抱え、そこに顔を埋めた私を、イシュリーズさんが優しく抱きしめてきました。
『ユヅキ。言葉が話せるようになったら、君の抱えてる想いを正直にこの男に話してみろ。人は話し合って、理解し合える生き物だろう? 心に秘めたままでは何も解決しない』
「ウインさん……。はい……」
私は滲み出た涙を拭って顔を上げると、心配そうに見つめているイシュリーズさんと目が合いました。
本当に優しい人だな、イシュリーズさんは……。
その上イケメンだし強いし家事も出来て料理も出来て……。何も出来ない私には全然釣り合わない、雲の上の存在のような人だよ……。
私は心配させないように、大丈夫ですよ、とニコリと微笑みます。
イシュリーズさんもホッとしたように小さく笑うと、またナチュラルに頬や額にチュ、とキスをしてきました。
もう自然過ぎてすんなり受け入れている自分が怖い……!
……あ、そう言えばウインさんに訊きたいことがあったんでした。
「あの、ウインさん。今からする話はイシュリーズさんに聞かれないようにして欲しいのですが……。この世界は、こういう……その、頬や額にちゅー……は、一般的な挨拶なんですか?」
人前で「キス」が平気で言えない人間です、私。チューでさえも恥ずかしい!
家族で一緒に恋愛ドラマなんて見れないタイプです……。
『いや、違うぞ。他の王国は知らないが、グリーヴァ王国では愛情表現だ。挨拶ではないな』
「えっ? じゃあ、くっ、口にするのは……?」
『まぁ、普通は恋人や夫婦がするものだな』
「えぇっ!?じゃ、じゃあ、ユーナちゃんには普段こんなこと……?」
『しているのは見た事無かったぞ。せいぜい頭を撫でるか、たまに抱きしめるくらいだな』
「ええぇっ!? じゃ、じゃあっ、く、口に、し、し舌……を、い、入れるのはっ?」
『……神聖な【聖なる武器】である私に、そんな質問をする君はある意味すごいな……。まぁ、余程愛していないと出来ない事じゃないか?』
「あっ、愛し……っ!?」
『この男の本気具合、少しは分かったか? こういう事を私の前で平気でする奴では無かったから、結構……いやかなり驚いているぞ』
「そ、そうなんですか……」
今のウインさんの返答は、ちゃんとイシュリーズさんには聞かせないでくれたようです。後ろから私を抱きしめ、ウインさんと喋っているのを微笑みながら見ています。
あんなに沢山失態を見られていて、何故イシュリーズさんが私に好意を持つのか、全くもって見当もつきません……。
『さて、次の話に移るぞ。イシュリーズが《風の聖騎士》に戻った事によって、“翼”が使えるようになった。だから、ここからは“翼”でブルフィア王国まで一気に飛んで行こう。飛べばすぐに到着するからな』
おぉっ、それはいいですね!
でも、一つ問題が……。
「あの、私はどうすれば……?」
『勿論イシュリーズが抱えていくぞ』
やっぱりそうなりますかーっ!?
そうなると、心臓が十個くらい必要なんですが!
その前に、今からダイエットは間に合うでしょうか!?
『あと、私の相棒が無事に戻ってきた訳だが、勿論、城から相棒の姿は無くなっている。あの外道《勇者》がそれを放っておくはずがない』
確かに、自慢のコレクションにしていたなら、「なくなった! 盗まれた!」と騒ぎ立てそうです……。
「あの下劣《勇者》のことだから、『僕の宝物が《風の聖騎士》によって盗まれた! その罪はかなり深い、よって死刑だ! ヤツをさっさと殺せ~!!』とか平気で言いそうですよねぇ」
『……あぁ、それは確かに十分ありえるな』
ウインさんがイシュリーズさんに、私が言ったことを伝えると、神妙な表情で頷き、ハァと溜め息をつきました。
えっ、半分冗談だったんですが、十分にありえるんですか……。
『用心するに越した事はないな。気を抜くなよ。――よし、準備が終わったら出発するか、ブルフィア王国に』
「はい……!」
ついに近づいてきました、ブルフィア王国に。
《水の聖騎士》は一体どんなお方なのでしょう。会えるのが不安でもあり、少し楽しみでもあります。
――さぁ、いざブルフィア王国へ!
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