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25.恋人繋ぎはデフォルトで決定ですね?

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 険しい顔でイシュリーズさんの首元に槍の切っ先を向けるリュウレイさんと、少しだけ眉間を寄せ、微塵も動かず彼女を見つめるイシュリーズさんの二人を、私はハラハラオロオロしながら様子を伺います。
 二人はそのままの体勢で向き合いながら、何か会話をしているようです。

「ウインさん、一体どういう状況なんですか? 《水の聖騎士》さんは味方ですよね?」

 そっとウインさんに話し掛けると、

『あぁ。グリーヴァ王国での出来事が、彼女の耳にも入ったようだ。それは真実かとイシュリーズに訊いている』
「……っ! ユーナちゃんのこと……!」
『大丈夫だ。彼女はただ確認しているだけだ。事実をイシュリーズ本人に訊きたいだけだろう』

 二人は何度か言葉を投げ合った後、リュウレイさんが顔を伏せ、ゆっくりと槍を下げました。

「! 分かってくれたんですか?」
『取り敢えず、詳しい話は彼女の家でする事になった』
「そうですか……」

 私がホッと息をついた時、頭の中に鈴を転がすような女の子の声が響いてきました。


『……《ウインドブレイド》、久しぶり。会わない内に、何だか大変なことになってるね』
『《ウォータースピア》か。元気そうで何よりだ。イシュリーズからも話があると思うが、君達の力を貸して欲しいのだ』
『……元《雷の聖騎士》のこと? そうだね、あれは何とかしなきゃいけないかな』


 この可愛らしい女の子の声が、リュウレイさんの持つ【聖なる武器】ですか……!
 女の子の声とは意外でした!

「いやぁ、ホント可愛い声だな~。ユーナちゃんみたいに癒やされる……」

 思わず口から漏れてしまっていたようで、ピタリと【聖なる武器】同士の会話が止まります。

『……ねぇ《ウインドブレイド》、この子、私の声が聞こえてるのかな? 気の所為?』
『……そうか、君の声もユヅキには聞こえるのか。いや、気の所為ではない。不思議な事に私達の声が聞こえるし、お互い言語が違うが会話も出来るぞ』
『……へぇ、面白い子。前にどこかで会ったことある?』
「あ、ありがとうございます……? いえ、今回初めてお会いしましたよ。ここに来たのは初めてですから」

 多分褒められたんだと認識して、お礼の言葉を言います。

『……そう。わたしの記憶違いかな。……ユヅキ、っていうの? わたし、《ウォータースピア》。リュウレイからは《うーさん》って呼ばれてる。でも好きに呼んでくれて構わない』
「うーさん……とても可愛い呼び方です。私もそう呼ばせて頂きますね。私は光河柚月と申しまして、異世界よりやって参りました。こちらの言葉が分からず、ウインさんにずっと助けられてきたんです。うーさんとも話すことが出来て嬉しいです!」
『……そっか。今まで大変だったね』

 私がうーさんに向かって、こちらの世界では聞き取れない言葉を長々と発してペコリと頭を下げたので、リュウレイさんは驚いて一歩下がってました。
 うーさんは、私にしか聞こえないように話したようです。
 これは……変な人と思われたでしょうか。
 あ、あの引きつり顔は変な人認定確定ですね。美人にそう思われると少し傷付きます……。

『……リュウレイ。あのね、あの子、異世界の子。こっちの言葉分からないけど、わたしの声が聞こえる。《ウインドブレイド》の声も聞こえる。そしてわたし達と話せるよ。いい子だから、警戒しなくて大丈夫』

 うーさんが、リュウレイさんに私のこと説明してくれました! いい子だなんて……ありがとうございます、うーさん!
 リュウレイさんは私を見て軽く目を瞠ると、こちらに向かって歩いてきます。
 ふと目の前に影ができ、不思議に思って見上げると、イシュリーズさんが真剣な表情で私の前に庇うように立っていました。
 リュウレイさんが、得体の知れない私を攻撃すると思ったのでしょうか。

 そんなことないですよ! ちゃんとうーさんが説明してくれたから大丈夫ですよ~!
 
 私はその意味を込めて、イシュリーズさんの腕を引っ張り、首を横に振って両腕を広げて上下にブンブン振ります。
 その動きが可笑しかったのでしょうか。イシュリーズさんがブッと吹き出し、笑い始めました。
 こ、これの何が可笑しいのですか? 人が一生懸命訴えてるのに!

 リュウレイさんはそんなイシュリーズさんを見て、呆気に取られているようでした。

『《ウォータースピア》、お願いがあるのだが、ユヅキがこの世界の言語を理解して話せる事が出来るよう、リュウレイに頼んではくれないか』
『……うん、いいよ』

 うーさんがリュウレイさんに伝えると、彼女はこちらを見た後、手をクイッと街の方に振りました。
 そして門番達に何かを言って、一人で先に歩き出します。

『……門番に、あなた達の入国許可を伝えたよ。この国は、門番か《水の聖騎士》の許可がないと入れないの。これからリュウレイのお家に行くから付いてきて』
「は、はいっ。ありがとうございます!」

 私は駆け出そうとしましたが、イシュリーズさんにグイッと手を引っ張られます。
 彼の方を見ると、捕まえている私の手を握り締め、ニッコリと笑っています。

 ……手を繋いで行こう、ということですね……? 街の中でもですか……? うぅっ、女性達の視線がグサグサ突き刺さりそう……!

 一向に私の手を離す気配がなかったので、フードを深く被り直すと覚悟を決め、イシュリーズさんの隣に並んで歩き出しました。


 ……ぐぅっ、相変わらず近い……というかくっついてる! しかもまた恋人繋ぎ! もうこれはデフォルトで決定ですね?
 しかも目が合う度に星が舞い散る爽やかな笑顔を向けないで下さい~! 眩し過ぎて日傘が欲しい!
 あぁ……チラチラとこちらを見るリュウレイさんの視線が痛いです……。
 やっぱり街の女性達の視線もチクチクと突き刺さる! イケメンの隣で恋人繋ぎで歩いているのは、フードを被った怪しいヤツですもんね? どうしてあんな女が! って思いますよねっ?
 でもまぁ、グサグサの方じゃなくて良かったと、無理矢理前向きに考えます。


 その視線に懸命に耐え、暫く街の中を歩いていきます。
 ようやくリュウレイさんは、少し外れた場所にある、一軒の大きな屋敷の前で止まりました。
 その屋敷には門があって、リュウレイさんの姿を捉えると、脇に立っていた門番が即座に門を開き、彼女を迎え入れます。
 入ると目の前に庭があって、ちゃんと隅々まで整備されており、噴水に小さな池まであります。

「うわぁ、とても立派な場所ですねぇ」
『国を守る《聖騎士》の家だからな。他の《聖騎士》達も良い所に住んでいるぞ』
「えっ、でもイシュリーズさんのお家は普通でしたよね?」
『あそこは、ユーナの為にイシュリーズが借りた家だ。質素な生活がいいとユーナが譲らなくてな。フウジン家は別にあるぞ。このような立派な屋敷がな』
「へぇ、そうなんですね……」

 それにしてもユーナちゃん、小さいのに謙虚で立派だったんだなぁ……。
 生まれ変わってもその性格なら、とても素敵なお嫁さんになれそうですね!
 そのことをウインさんに嬉々として言うと、

『まるで親バカだな』

 と笑われてしまいました……。


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