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24.《水の聖騎士》登場

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「…………っ!?」

 突然ギュッと私の両頬を手で挟まれたかと思うと、イシュリーズさんの方に顔をグイッと引き寄せられ、首を傾げた彼に覗き込まれました。
 鼻と鼻がくっつくくらいの、超至近距離で。


 イシュリーズさんの表情は、今も笑顔です。
 でも、ようやく気が付きました。
 目が……笑っていません。
 これは……怒っている目……です。
 静かに……静かに怒っています……ヒィッ!


 イシュリーズさんが笑顔のままで、何かを言います。

『「誰が汗だくでプルプルになるって? 自分の力を舐めないで貰いたい」、だと』
「えぇっ!? ちょ、ウインさんっ!? それも言っちゃったんですか!? 『負担が少なくなる』だけで良かったのにっ!」
『一言一句正確に言わないと、人間の場合、“誤解”が生じる可能性があるだろう?』
「いやいやっ、それよりもイシュリーズさんにヒドい“怒り”が生じちゃってるじゃないですかぁーっ!? ……んっ!?」

 叫んでる途中で、突然口を塞がれました。
 ……イシュリーズさんの口で。

「んーっ! んんーっ!?」

 驚き、咄嗟にイシュリーズさんの胸を両拳で叩いても、全く効果がありません。
 寧ろ腰をグッと引き寄せられ、顔の角度を変えて更に深く唇を重ねられ、舌まで入ってきました……!?
 ワザと音を立てて口の中を舐め回し、私の舌を引っ張り出すと絡ませて吸い上げてきて……。 

「ふぁっ、んんっ……」

 逃れようとしても、後頭部をガッシリと掴まれて固定されてしまい、為す術もありません……。

 な、長い……。激しい……。呼吸が苦しい……。
 ……だめ、意識がボーッとする……。

 足の力が入らなくなってきた頃、ようやく唇が離れます。
 私は、唇と唇の間の透明な糸をぼんやりと眺め――その瞬間ガクッと膝が折れて、イシュリーズさんの胸に寄りかかってしまいました。
 頭上からクスリと笑い声がし、私の背中に腕を回すと、何か言葉を呟きます。
 すると、イシュリーズさんの背中に純白の双翼が現れました!
 翼を一回バサリとはためかせると、地面を蹴り、そのまま上空へと飛びます。


 ――って、えぇっ!?
 ちょっ、待って! 私、心の準備がまだっ!

 もしかしてさっきのキスはわざと!?
 私を抵抗させなくして、問答無用で連れて行くなんて……!


 チラ、と下を見ると、既に地上からかなり離れています。

 ヒィッ、高い高いぃーーっ!
 子供の頃は高い空を飛ぶのが憧れだったけど、実際飛んでみると、命綱がないと危険です! 恐怖です!
 イシュリーズさんの腕二本で、私の生死が決まるんですから!

 私一人だけ落ちるのは仕方ないと思いましたが、それは撤回します。
 落ちるのめちゃくちゃ怖いです! スプラッタにはなりたくありません!
 申し訳ありませんが、強制的に連れて来た責任として、イシュリーズさんには私の重さを我慢して貰います!

 私はイシュリーズさんの首に腕を回し、必死にしがみつきます。

「う、ウインさんっ! イシュリーズさんに『絶対に離さないで下さい!』って伝えて下さい~!」
『問題ないと思うがな』
 
 そう言いつつもウインさんがイシュリーズさんに伝えてくれると、イシュリーズさんは私を見て、蕩けるような甘い微笑みを浮かべながら口を動かしました。


『「嫌だと言っても一生離さないから安心しろ」、だと。……全く、何を言わされてるんだ私は。やれやれだ』


 い……いやいやっ、今はそういう意味で言ってるんじゃないんです~!!
 破壊力抜群な言葉で悶えるんですが!
 直接的な意味で捉えて下さい! 直接的な!
 あと笑顔も破壊力凄過ぎて!
 どれだけ破壊活動したら気が済むんですかぁっ!!

『お前も、私の目の前なのに遠慮が無くなってきたな……。そういう性格だったか? ともかく、所構わずユヅキにあんな事をするのは止めておけよ』

 ウインさんの溜め息混じりのぼやきに、イシュリーズさんはただ笑っただけでした。
 いやそこは頷いて下さいよ! お願いだからっ!

 ……けど、一つだけハッキリしたことがあります。


 イシュリーズさんを怒らせちゃ絶対駄目だ!!


 彼のあの笑顔ではない笑顔を思い出し、ブルブルッとしていると、空の旅も終わりを迎えようとしていました。


『見えたぞ、ブルフィア王国だ』


 ウインさんの言葉にそっと前方を見ると、高い外壁に囲まれた街とお城が見えてきました。
 殆どのお家が水色の壁で、お城も全体が水色や青色で統一されており、あちこちに噴水や池があって、まさに“水”の国って感じです。

「わぁ……とても綺麗な王国ですね」
『あぁ、ここはよく整備されているぞ。住むにも快適な所だ』

 イシュリーズさんは、外壁の門を守っている門番二人には見えない、少し外れた場所に降り立ちました。

『雷と風の《聖騎士》が飛べる事を知らない者達も大勢いるからな。無闇に驚かせたくはないだろう?』

 外れた所に降りた理由を訊くと、ウインさんがそう答えてくれました。

『それにこの姿を見られたら、イシュリーズの場合、女子達が一斉に集まってくるんだ。それで身動きが取れない時があってな……。あれには参った』
「あーー……。はい、容易に想像出来ます……」

 ただでさえキラキラ爽やか系イケメンなのに、オプションが“純白の天使の翼”じゃ、絶対にそうなりますよね……。


 歩いて門番達の所へ行くと、こちらに気付いた門番の一人が、慌てて走ってやってきました。もう一人の門番は、急いで街の方に駆けていきます。
 門番とイシュリーズさんが会話をしています。

『荷物は門番が預かっているようだぞ。後で返すから、門の前で少し待っていて欲しいそうだ』

 ウインさんが、二人の会話を説明してくれました。
 門の前でしばらく待っていると、街の方に走って行った門番が、誰かを連れて戻ってきました。

「うわぁ……」

 すごい美人な女の人です。
 水色のストレートな髪を後ろでまとめ、眉毛は凛々しく吊り上がり、ブルーの瞳は青空の如く綺麗に澄んでいます。
少し怒ったような顔の下は、銀に光る鎧を全身に身に付け、右手には装飾が美しい、水色と銀色の交じった槍を持っています。

 この人は、もしかしなくても……


『《水の聖騎士》、リュウレイ・スイジンだ。わざわざ出迎えとはおかしいな……。まさか』


 ウインさんが言い終わる前に、リュウレイさんは険しい表情のまま、おもむろに槍を動かすと、イシュリーズさんの首元に刃先を向けてきたのでした――


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