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21.命を賭けて守るべき者
しおりを挟む先程のことは頭の隅に無理矢理追いやって、仮眠から目覚めたら、何だか身体がスッキリしています。
あの湖のお蔭でしょうか? 足の怪我やアザもちゃんと治っていたし、恐るべし神秘の湖!
けれどあそこはきっと……いえ、絶対に人には知られてはいけない場所です。普段は隠されている場所ですから。
欲望に塗れた者に使われないように、あの場所は見なかったことにしておきましょう。
イシュリーズさんはというと、いつもの爽やかで星舞う彼に戻っていました。
先に起きていた彼は、続いて目を覚ました私に、そのキラキラな笑顔を向けてきて……。
ぐっ、寝起きにその眩しさは刺激が強過ぎる……っ。
そんな彼に、あの妖艶な雰囲気はどこにも見当たりません。
あれは一体何だったのでしょうか……。夢か現か幻か?
けれどあの出来事を決して忘れてはいけないということを、この身を持って理解させられたのは確かです……。
――さて、旅を再開する前に、こちらの状況が変わったので今後の話し合いをします。
……そして私は、イシュリーズさんの膝の上に座っています。
もちろん、念の為伝えておきますが、私が望んで座ったわけじゃないですよ? 話し合いをしようとしたら、イシュリーズさんの腕の中に捕まってしまい、こんな状況に……。
逃げようとしても、お腹に回された腕にガッチリホールドされているので身動きが出来ません!
ウインさんに助けを求めると、
『……まぁ、支障が無いならそのままでいいんじゃないか?』
とのお返事が……。
イケメン効果発動で心臓バックバクの手汗が止まらず支障が出まくっているから助けを求めたのにーーっ!!
そろりと見上げると、上機嫌のイシュリーズさんがニコリと微笑み返してきました。
「…………」
もう何も言えなくなった私は、このまま話し合いを進めることを決めました。
もってくれ、私の心臓よ……。
「あっ……そう言えば、あの中ボスはやっつけられたんですか?」
『中ボス? あぁ、あの大きな魔物の事か。なかなか素早い上に皮膚が固くてな。イシュリーズの剣が折れた時は危機だったが』
「えっ、それこそ絶体絶命のピンチじゃないですか!」
『あぁ、私も駄目かと思った。だが、直後にイシュリーズが《聖騎士》に戻れたんだよ。同時に、《風の聖騎士》の気配を察した、私の半身であり相棒である“剣”がこの男の手元に戻ってきてな。【聖なる武器】があれば、あの程度の魔物は楽勝だ』
「へぇ……。持ち主の元へ自力で戻ってくる相棒さん、凄過ぎですね! お二人ともご無事で本当に良かったです。でも、イシュリーズさんはどうやって《聖騎士》に戻れたのですか? もしかして、また守る相手が見つかったとか?」
改めてイシュリーズさんを見上げると、灰青色の髪にエメラルド色の神秘的な瞳……更にキラキラ度とイケメン度が増しています。
目が合うと、イシュリーズさんは優しい笑みを返してくれました。
ぐぅっ、色んな所が光り輝いています……! 眩し過ぎて心臓と両目が痛いっ!
『あぁ、そうらしい。この男が言うには、自分の命より大事な――命を賭けて守るべき相手だそうだ』
「へえぇ~! イシュリーズさんも、そんな相手がいたのなら紹介してくれれば良かったのに、水臭いですね~もう! 今度私にも紹介して下さいって伝えておいて下さいね?」
『…………ユヅキ。君は、それを本気の本気で言ってるのか? 本人に聞かれなくて良かったぞ、全く』
心底呆れたように、ウインさんがイシュリーズさんに聞こえないように私にだけ訊いてきて、「ん?」となります。
「はい? 本気ですけど……。何かおかしいですか?」
『はぁ、こうも鈍感だとは……。やれやれだな。――君だよ』
「へ?」
『自分の命より大切な、命を懸けて守るべき相手は、君だよ、ユヅキ』
「…………へ?」
私はキョトンとし、ウインさんを見た後、今度はイシュリーズさんを見上げます。
「…………私?」
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