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20.engrave it in your heart ※

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 ようやく湖から上がれた私は、何とか少しだけ意識を取り戻し、濡れた服の着替えをする為に野宿していた場所に戻ったのですが、イシュリーズさんに倒され横たわっているはずの魔物の姿がどこにもありません。
 疑問に思った私は、ウインさんに訊いてみました。

『魔物は魔界の住民だからな。死亡して暫く経つと、その肉体は魔界に還っていくんだよ』

 そうなのですね……。
 もし生まれ変われたら、こちらの世界には足を踏み入れずに、魔界で幸せに暮らして下さい……。


 新しい服に着替えた後、私は疲れと眠気に勝てず、見張りをウインさんに任せて少し仮眠させて頂くことにしました。

 ……イシュリーズさんの胸の中で。

 いえ、あんなことがあった手前、もちろんちゃんと断ったんですよ?
 毛布に包まって寝ようとしたら、イシュリーズさんがおもむろに座って、手招きして「こっちにおいで」って伝えてきたから、「一人で寝ます」の意味で首と両手をブンブン横に振ったんです。
 そしたら、眉尻を下げてあからさまに落ち込んでしまって……。
 頭の上に、弱々しく垂れた犬の耳の幻が見えましたよ……。
 あんな悲しい顔をさせるくらいなら、了承するしか選択肢がなかったんですよ……。


 イシュリーズさんの普段通りの態度から察するに、先程のことは覚えていないようだったので、私も忘れることにしました。
 イシュリーズさんが何故ああなってしまったのかは分かりませんが……。あ、あんな……ハ、ハレンチなことを、色気も何もあったもんじゃない私なんかにしちゃったと知ったら、きっとショックを受けるでしょうし……。
 私も思い出しただけで壮絶に大悶絶しそうなので、彼が覚えてなくて本当に良かったです……。

 イシュリーズさんの傍に行くと、やはり手を引っ張られ、彼の胸の中に閉じ込められました。
 今度はイシュリーズさんも横になって仮眠するそうです。
 魔物をあれだけ倒したので、ここら辺はもう大丈夫だろうとウインさんが言っていたから、警戒レベルを下げても大丈夫だと判断したようですね。
 なので、イシュリーズさんの今の格好は、鎧を外して黒のタートルネックと白のスラックスという楽な服装になっています。

 毛布の中で、私の肩と腰にイシュリーズさんの腕が回され、お互いの身体がピットリとくっつきます……。
 あぁ、私のない胸が再びイシュリーズさんの胸に押しつけられて……。彼は何にも感じないだろうけど、私は恥ずかしさで色んな汗が止まりません!
 
 そして、イシュリーズさんはまた極自然に私の頬や額にチュ、とキスしてきました。


 いやいやっ、さっきあれほどしたやないかーーいっ!!


 ――っと失礼、思わず関西弁でツッコミを入れてしまいました。
 でもそうか、先程のことはイシュリーズさん覚えていないんですもんね……。ならしょうがないか……


 ――ってしょうがなくないねん! イケメンのチューは破壊力抜群でいつされても恥ずか死ぬんやーーっ!!


 心の中でエセ関西弁一人ツッコミをしていると、不意にイシュリーズさんが私の唇に自分の人差し指をちょんと当て、その指を首から下へとスススと這わせます。

「んんっ……?」

 その指が示してるのは、イシュリーズさんが付けた痕があるところでは……?
 くすぐったさに身を捩ると、その指は痕の付いている私の鎖骨を撫で、イシュリーズさんが目をスッと細めて何かを言いました。
 その表情は、何やら妖しい雰囲気が漂っていて……?

「え……?」

 意味が分からなくて首を傾げた私の唇と、イシュリーズさんの唇が重なります。そしてすぐさま舌が入ってきて、私のそれと絡ませて引っ張り出してきて……?

「…………っ?」

 本当に遠慮なく入ってきたので抵抗が出来ませんでした……。まるで舌を入れたのが初めてじゃないのを知っているかのような……?
 舌同士が濃厚に絡みつき、再び恥ずかしい音の出る口付けをされ、私の意識がぼぉっとしてきます……。
 その上、イシュリーズさんの手が、ワンピースの上から私のお尻をさわさわと撫でて、指で割れ目をなぞってきて……?
 思わずビクリと肩が跳ね上がります。

 ……え、これって、まさか……。

 ようやく口が解放され、自然と涙が溜まった私の目尻を、イシュリーズさんの唇と舌が丁寧に舐め取ります。
 私の頬に口付けをしながら、彼の唇は首筋へと移動し、そこをペロリと舐めた後、チクリと痛みが……?

 ……も、もしかして、また痕付けてるっ!? もうこれ以上は……っ!

 私は慌ててイシュリーズさんの胸を両手で押したけど、彼はびくとも動かず、寧ろ脚を絡みつかせて更に密着させてきました!?

 首筋に何度も軽い痛みが走り、それは鎖骨辺りまで幾度も感じられて……。

「い、イシュ……んっ」

 制止の声を出そうとしたけど、イシュリーズさんの口で塞がれ、また舌を差し込まれて口内を貪られます……。
 不意に唇が離れたと思ったら、私の耳の穴に舌を差し込まれ、それが這いずり回る音が脳内に響き渡り……。
 イヤイヤと首を振り、顔を上げるとまた濃厚なキスが襲い掛かります……。

 長いようで短い時間が過ぎ、イシュリーズさんは満足したのか、ようやく唇を離してくれました。
 私の唾液で濡れて半開きになっている唇を人差し指でなぞると、イシュリーズさんはその指をわざとらしく舌を出して舐め、エメラルド色の目を細めてまた何かを言います。
 そして艶めかしく微笑むと、私の後頭部に手を添え、自分の胸に優しく寄り掛からせました。
 その手は、静かに私の髪の毛を梳いています。もう片方の手は、私の腰に回して身体を密着させます。
 寝ていいよ、ということでしょうか……。


 ……今ので、一つだけ分かったことがあります。


 あの湖の中での出来事、イシュリーズさん全部覚えてる!
 私にしたことも……全部……覚えてて……。
 今……その再現を……。

 ………………。

 …………。


 ~~~っっ!!


 私は壮絶に大悶絶したいのを必死に堪えて考えを放棄し、仮眠することに意識を集中させたのでした……。


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