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19.月の光に狂わされて ※
しおりを挟む髪は灰青色、瞳はエメラルド色に変わっていましたが、確かにイシュリーズさんです。
イシュリーズさんが何かを呟くと、何と背中の翼がパッと消えました!
手品を見ているような感覚に、ただただ呆然としていると、イシュリーズさんが私の目の前まで来て、片膝を地面に突き目線を合わせてきました。
ボロボロな私の状態を見て、イシュリーズさんはグッと唇を噛み締めると大きく息を吐き、身体をきつく抱きしめられます。
……心配、させてしまったようです。
私はイシュリーズさんの小刻みに震える背中に手を回し、大丈夫ですよの意味を込めてポンポン叩くと、彼は更に強く抱きしめてきました。
……ぐ、これはちょい苦しい……。
と思ったら両肩を掴まれイシュリーズさんから離されると、彼が怒鳴り声を上げて私に何かを言っています。
「え、えっ……?」
初めてイシュリーズさんに怒りの表情で怒鳴られ、私の心はパニック状態です。
『……よさないか、イシュリーズ。ユヅキが酷く怯えている。怖がらせるのはお前の本意ではないだろう?』
腰に差してあるウインさんの落ち着いた声に、イシュリーズさんはハッと口を閉ざします。
そして、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた後、固く両目を瞑り俯きました。
『ユヅキ、無事で本当に良かった』
「ウインさん……」
『イシュリーズの命を助けてくれた事、心から礼を言う。この男も後ろの魔物に気付いていなかったからな。あのまま気付かなかったら、この男はあの魔物に殺されていただろう。だが、もうあんな無茶は止めてくれ。君は自分の命とイシュリーズの命を天秤に掛け、この男を選んだが、君の命も失ってはならない大切なものだという事を忘れないでくれ。この男はそれで思わず怒鳴ってしまったんだ』
「はい……。ごめんなさい」
ウインさんの言葉が、とても厳しく、とても温かく胸に響きます……。
イシュリーズさんに、謝罪の意を込めて頭を深く下げると、彼は目を閉じたまま首を左右に振り、同じく頭を下げてきました。
怒鳴って悪かった、ということでしょうか?
私も頭を左右に振ってそれに答えました。
「ウインさん、イシュリーズさんは――」
ウインさんにイシュリーズさんの姿のことを訊こうとした時、イシュリーズさんが何かを言いながら、持っていた剣をウインさんに仕舞うと、腰から外して地面に置きました。
そして、私の身体がフワリと浮いたかと思うと、何と彼にお姫様抱っこされていました!
「えっ、なに? えぇっ!?」
状況が分からずアタフタしていると、
『ユヅキ、ここは普段は隠された場所だ。今日が満月だから姿を現したんだろう。この湖は、古き時代から長い間月光を浴び続けて神秘的なものに変わっている。傷口をその水に浸せば、徐々に治ってくるだろう。その傷だらけの足では辛いだろうから、イシュリーズと一緒に湖に入ってくるといい』
確かに、ワンピースで隠れているけど、膝や太腿は、転んだり躓いたりで傷や痣だらけです……。
あ、でもちょっと待って下さい。
私、泳げないんですけど――
それを伝える前に、イシュリーズさんは私を抱えたままズンズンと湖の中に入っていきます。
ぎゃあぁっ! 全く躊躇なしですかぁっ!?
イシュリーズさんは歩きながら真剣な表情で何かを言っていますが、私にはやっぱり聞き取れません……。
ウインさんも一緒だったら通訳してくれたのに置いてきてしまったし……。
水に濡れない為にだと思うけど……。
あっという間に湖の水がイシュリーズさんの腰の辺りまできて、私は怖さで咄嗟に彼の首にしがみつきます。
イシュリーズさんは、そんな私を目を細めて見つめ、また何かを言いました。そして最後に、
「ユヅキ」
と呼ばれ、反射的に顔を向けると、鼻と鼻の先に、イシュリーズさんの端正な顔があります。
フッと妖艶に笑ったかと思うと、そのまま私の唇がイシュリーズさんの唇で塞がれ、同時にその場に降ろされてしまいました。
「んんっ……」
パシャリと水飛沫が弾け、お腹の辺りまで水が迫ってきます。
足が地面につかない恐怖で、私はキスをされたまま必死に彼の首に腕を絡ませました。
湖の水は冷たいと思っていたけど、意外にもぬるま湯で丁度良い温度です。
イシュリーズさんは、私の腰に片腕を回して更に引き寄せた後、少し開いていた私の口に、自分の舌を滑り込ませてきて……?
「んんっ!?」
初めての衝撃にパチッと瞼を開けると、エメラルド色に輝く瞳とバッチリ目が合います。
青と緑が混在した、神秘的な色です。
その中に、何だか妖しい光も交じっていて……?
その瞳に吸い込まれそうな感覚になり、慌ててギュッと目を瞑りました。
そう焦っている間にも、イシュリーズさんの舌が私の口内を舐め回り、逃げて奥に隠れていた私の舌を探し出され、強引に絡めてきます。
ジュルッと音を立てて唾液を吸われ、思わず耳を塞ぎたくなる衝動に駆られます……。
「んっ、はぁ……っ」
口が半開きになっているので、飲み込みきれない唾液が私の顎を伝っていくと、イシュリーズさんは一旦唇を離してそれをペロリと舐め、すぐにまた噛みつくように唇を塞がれます。
まるで、私の唾液を一滴も逃さないというように――
何度も何度も深く口付けされて舌を吸われ、私の呼吸と唾液が涸れそうです……。
知らずに涙も出てきて、それもすぐにイシュリーズさんは丁寧に舐め取ります。
……さっきから感じていたんですけど、今、確信しました。
イシュリーズさん、ずっと目を開けてる!
私のキスされる顔ずっーと見られてるーー!!
はっ、恥ずかし過ぎるーー!!
キスする時はお互い目を閉じるのがマナーじゃないんですか!?
それともこの世界では開けっ放しでするものなんですか!?
今だけでも日本に習ってお願いだからっ!!
「ん……っ。も、もう止め……あっ」
濃厚な口付けの所為で身体に力が入らず、イシュリーズさんに腰を支えられているけど湖に落ちそうな錯角に何度も陥り、その度にイシュリーズさんの首に必死になって腕を回します。
少しだけ目を開けると、イシュリーズさんがそんな私を見て何故か嬉しそうに口の端を上げ、首に唇を落としてきました。
首筋を舐められ、そこを強く吸われて痛みが一瞬走ります。
(え……? ま、まさか痕を……?)
何度も首や鎖骨を強く吸われ、時折耳朶も噛まれて。彼の空いている手は、ワンピースの上から私のお尻をイヤらしく揉んでいて……。
時々お尻の割れ目からイシュリーズさんの長い指が喰い込んできて、そこをなぞられる度、私の悲鳴と共に身体がビクリと大きく跳ね上がります。
……もうそこで、イシュリーズさんがいつもの精神状態じゃないことが分かりました。
無意識にイヤイヤをし、安定を求めてイシュリーズさんの肩に顎を乗せると、即座に耳の穴に舌を差し込まれ、それが妖しく耳の中で蠢きます。間近に聞こえるピチャピチャという音とくすぐったさで、ゾクゾクと身体が震えてきました。
「やっ……んんっ」
耐え切れず顔をイシュリーズさんの方に向けて逃れても、すぐにその美麗な顔が迫り、唇が塞がれて深い口付けが襲いかかります。その繰り返しです……。
………………。
…………。
もうどれくらいの時間が経ったんでしょう……。
いつの間にか頭上にあの大きな月がいなくなり、空が少しずつ明るくなってきます。
私は半分以上意識を失ってイシュリーズさんにぐったりと寄り掛かっていましたが、彼は私を抱きしめ、時々何かを呟きながら、飽きずに顔や唇、首筋に口付けと舐めるを繰り返しています。
きっと、首のあちこちに沢山の痕が付けられて……。
私の口内の唾液は、とっくの昔に搾り取られてしまいました……。唇も構われ過ぎてぷっくりと腫れて――
って、どんだけですかぁ……。
タラコ唇には……なりたく……ない……。
……あぁ、ツッコミする気力もない……。
もうこのまま寝ていいですか……。
というか寝かせて下さい……。
そして、イシュリーズさんの不可思議な行動は、ウインさんの、
『いつまで浸かってるんだ!? いい加減上がって来い! 待ちくたびれたぞ!!』
と、頭に響く怒声で、ハッと我に返ったのかすぐに止めてくれました……。
いつものイシュリーズさんに戻った……?
良かった……。
けど……。
な、長かっ……た……。
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