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14.初めての野宿
しおりを挟む……と、ウインさんの話に没頭していたら、いつの間にか大きな森の入口に来ていました。
『ブルフィア王国に行くには、この森を突っ切らなければいけないんだ。今夜はこの森で野宿だな』
森の入口の前で簡単な昼食を取って休憩した後、森の中に入ります。
やっぱりイシュリーズさんは、早々に私の手を取り恋人繋ぎで指を絡めてきます。そして距離感近いです。
これがイシュリーズさんのデフォルトですか。そうなんですか。
いやでも森の中では有り難いです。陽の光があまり入ってこなくて薄暗いし、あちこちからフクロウや虫の声が聞こえてきて、少し怖いですから……。
怯えから、イシュリーズさんの手を強く握ると、彼の表情がふっと緩んだ気がしました。
『たまに、“魔界へ通じる小道”が開かれてな、魔物がこちらの世界に迷い込んで来る事があるんだ。用心はしてくれ』
ヒィッ! そうなんですか!? 誰だか知らないですけど、勝手に開かないで下さいよ!
絶対イシュリーズさんから離れないようにしましょう!
今度は私の方からイシュリーズさんにくっつくと、クスリ、と小さく笑われました。
えぇ、えぇ。自分でも現金だって分かってますよ!
でも平和な世界でずっと生きてきた私にとって、魔物は未知数に怖いんですって!
幸いにもその日は何事も起きず、日も暮れてきたので森の中で野宿をすることになりました。
私は野宿は生まれて初めてなので、やり方は全てイシュリーズさんにお任せです。
お役に立てず本当に申し訳ない!
ここで、晩ご飯用の即席で作れる美味しいスープが披露出来たら良かったんですが、ここら辺の野草の知識が全くなく、調味料も分からないときました。
大人しく携帯食を食べておきます……。
役立たずで本当にすみません……。
木陰で簡単に身体を拭き、歯もしっかりと磨いて。すっかり夜も更けたので、就寝の時間となりました。
見張りは、ウインさんが何かあれば呼んでくれるので、私は地面に布をひき、隣にウインさんを置いて、毛布に包まって眠らせて頂きます。
イシュリーズさんは、木に寄り掛かり、座って眠るそうです。
何かあった時、すぐに対処出来るようにとのことでした。さすが騎士様です、頼りになりますね!
では、おやすみなさい……。
………………。
ゴロゴロ。
…………。
ゴーロゴロ。
……。
……ね、眠れないっ。
今日は今まで生きてきた中で一番と言っていいほど沢山歩いて、身体は疲れ切っているのですが、意識が冴えてしまって眠れません……。
布を下にひいてはいるけど、地面のゴツゴツした固さも邪魔して寝られないのかも……。
どうしましょう、恒例の羊でも数えましょうかね……。
では参ります。
「羊が一匹、羊が二匹、羊が……脱走した! 代わりに山羊が紛れ込んできた! この際山羊でもいいから数え……また脱走!? ――って騒がしくて余計眠れなーーいっ!!」
そう一人ボケツッコミをしていると、
「ユヅキ」
と、誰かに呼ばれた気がして、ガバリと飛び起きました。
「あれ? ウインさん、呼びました?」
『私じゃないぞ』
「え? じゃあ気の所為?」
一応イシュリーズさんの方に振り向くと、こちらを見て、微笑みながら手招きをしています。
え? もしかして、さっき呼んだのってイシュリーズさん?
私の名前、呼べるようになったの!?
驚きながらも毛布を持ってイシュリーズさんの所まで行くと、ぐい、と手を引っ張られ、彼の腕の中に閉じ込められました。
「え? ……え?」
私は訳が分からずイシュリーズさんを見上げます。
イシュリーズさんは自分の毛布を私に巻いてくれて、微笑みながら私を優しく抱きしめています。
『地面が固くて眠れないのを分かっていたようだぞ。そっちの方が寝やすかったらそこで眠るといいだろう』
ウインさんが解説をしてくれました。
え、寝るってここで!? イシュリーズさんが巻いてくれた毛布のお蔭で暖かいですけど……。
た、体勢が恥ずかしくて……!
けれど、毛布の暖かさと、細いけど逞しい腕に包まれる安心感に、急激に眠気が襲ってきました。
でもこのままじゃ、イシュリーズさんが寒いままです……。
私は自分の毛布を広げると、イシュリーズさんごと包み込みました。
イシュリーズさんは私の行動に目を見張ったけど、クスッと笑って、私の身体をギュッと抱きしめます。
「おやすみなさい……」
私は何とかそれだけ言うと、すぐに意識を手放しました。
手放す瞬間、額に柔らかいものが触れたような気がしました。
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