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13.下劣外道鬼畜馬鹿野郎
しおりを挟む私の心の必死な叫び声が聞こえるはずもなく、ウインさんは続けます。
『まず最初は、《水の聖騎士》のいるブルフィア王国に向かおうと思う。ここからだと、歩いて一週間と少しくらいか』
「一週間!? そんなに!?」
『あぁ、馬車や馬を借りる手もあるが、イシュリーズはこのグリーヴァ王国で“重罪人”となってしまったから、どこも貸してはくれないだろう』
「そう、それですよ! 何の証拠もないのに“重罪人”なんて! 《勇者》の言葉だけで決めていいんですか!?」
日本でそんなことをしたら、一斉に非難の的ですよ!
『《勇者》は、《王》と《聖騎士》に続いて発言力が高いんだ。それに、こちらも“殺してない”証拠が無いからな。残念ながら強く出られないんだよ』
「そんな……」
『だが、必ず無実を証明してまた戻ってこよう。その前にやるべき事を済ませなくてはな。道のりは長いが頑張ろう。この男が飛べれば、ブルフィア王国まであっという間だったんだが』
……ん? 何やら“人間”には似つかわしくない言葉が出てきましたよ?
「あの、飛べれば、って……?」
『あぁ、“空”に関係のある《風の聖騎士》と《雷の聖騎士》は、特殊能力である“翼”を持っていてな、空を飛ぶ事が出来るんだよ。今この男は《聖騎士》の能力を失っているから、“翼”を出す事が出来ないのさ』
「う、うわぁ~。便利な能力があるんですねぇ」
イケメンが純白の翼ではためく姿……。
うん、それはめちゃくちゃ絵になりますね。その光景を涙を流しながら拝んでしまいそうです。ついでに涎も垂らしそ……。
――ゴホン! とにかく、ブルフィア王国に行くんですね。
あ、でも……。
「ウインさんの半身である“剣”は取り返さなくてもいいんですか?」
取り返すのだったら、ここから離れる前にお城にそっと忍び込んで……って、厳しいか……。
『それは大丈夫だ。私と“剣”は常に意識が繋がっていてな、今は壊されたり等の酷い目には遭っていないようだ。あの下劣外道馬鹿《勇者》は、洒落た物や光り物、容姿端麗な物を集めるのが趣味らしい。だから城のどこかに大事に飾ってあるだろう。そのままにしておいた方が、こちらも動きやすいからな』
「そうなんですね……」
私は納得して頷くと、《勇者》に関して気になったことを訊いてみました。
「《勇者》はこちらに召喚された時から、あんな下劣外道鬼畜馬鹿野郎だったんですか?」
あら、ウインさんの毒舌が移ってしまいました。
イシュリーズさんが言葉分からなくて良かったです。さすがにこれ以上私の印象下げたくない……。
『いや、二十五年前に召喚された時は、そんなでもなかったぞ。しかし、面倒臭がりではあったな。こちらの世界の常識と教養と剣の使い方を覚えるのに、一年で終わらせるものを、三年掛かってやっと終わらせたからな』
「あらら。何でそんな人が《勇者》に選ばれてしまったんでしょうかね?」
『それは神の意向だから、私からは何とも言えないな……。二十五年前の話になるが、大陸の外れで大きな地震があってな。その影響で、魔界に繋がる穴が開いてしまったんだ』
「魔界……っ!?」
この世界には魔界もあるんですか!?
魔界ということは、魔物がいるってことですよね? ヒィッ、怖っ!
『その穴を塞ぐ為、当時の火水雷風の四人の《聖騎士》が向かう事になったんだが、そのパーティーをまとめるリーダーが必要だろうという話になってな。相手の国を優位に立たせたくない四つの国の王達は、別の世界からリーダーを呼ぶ事で一致し、召喚の出来る風の国の魔術師を使って、《勇者》を呼んだという訳だ』
う~ん……。偉い人の思惑は、どこの世界でも同じなんですね……。
『召喚から三年経って、ようやく魔界に繋がる穴を塞ぎに出発したんだが、その旅でも《勇者》は影に隠れて、自分を守れだの疲れたからおぶれだの命令するだけで、特に何の役にも立たなかったな。勿論、穴から出てきた魔物は《聖騎士》達が全て倒していたぞ』
《勇者》の人選、確実に失敗していますよ神様ぁっ!?
『魔界に繋がる穴を塞ぎ、二年掛かってこの世界にいる全ての魔物を《聖騎士》達が倒して城に帰った後も、《勇者》は娯楽場を作れだの自分の像を金で作って各国に立てろだの我儘言い放題でな。それを先代の《風の聖騎士》……イシュリーズの父親が諌め、イシュリーズが《風の聖騎士》になった後は、この男が《勇者》を諌めていたんだよ』
はぁ……。もう呆れて言葉が出ません……。
『その恨みが積み重なっていったんだろうな。計画を企て、《風の聖騎士》であるイシュリーズに罪を着せて国から追放し、邪魔者を排除した。伝説の《聖女》役を召喚し、国での高い地位を確立し、《王》からも誰からも文句を言わせないようにした。このままだと、《勇者》と《聖女》の所為で、グリーヴァ王国が潰れるのは時間の問題だろう』
「そんな……!」
『勿論グリーヴァ王国を救うのも大事だが、今は先にシデンを何とかしないといけない。こちらの方は、放っておくと世界が滅びてしまうからな。優先度はこちらの方が高い』
で、ですよね! 世界が滅んだら、王国も何もあったもんじゃないですから!
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