【R18】《用無し》と放り出された私と、過保護な元《聖騎士》様の旅路

望月 或

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12.距離が近いのはデフォルトですか?

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 イシュリーズさんが作ってくれた朝ご飯を美味しく戴いた後は、旅の支度を始めます。

 ……それにしても、料理も家事も出来るイケメンって何なんですか。
 長期間家を空けるから、傷んでしまう野菜等の生物を使って即席で料理を作れるなんて……。
 しかも美味しいんですこれが。
 私より料理上手ってどういうことですか。
 全てにおいて勝ち目がないじゃないですか……!

 ……誰か、少しでいいから胸を貸して下さい……グスッ。

 
 ……気を取り直して。
 私は、動き易い服装とブーツをイシュリーズさんのお母さんからお借りし、髪は後ろにクルクルと巻いてまとめ、フードを深く被ります。
 黒髪は〈忌み嫌われる証〉だから、イシュリーズさんのご迷惑にならないよう、なるべく隠さないとですからね。

 家の中を簡単に片付けて、あるだけの携帯食や保存食と、数日分の着替えをリュックサックの中に入れ、背負います。
 ショルダーバッグも忘れずに持ちましょう。
 野宿用の大きな荷物は、イシュリーズさんが持ってくれるそうです。
 こういう時、男の人がいてくれると本当に助かります。
 こっちに転移してきて、不幸ばかりだと思ったけど、イシュリーズさんとウインさんに出会えたことは、本当に幸運です。

 もちろん、ユーナちゃんに出会えたことも……。


 出発の前に、ユーナちゃんのお墓にお参りをさせて貰いました。
 お墓の前で膝を付き、イシュリーズさんと並んで手を合わせます。

(ユーナちゃん、必ず会いに行くからね。その時は元気な姿を見せてね……)

 気付かない内に、瞳から涙が滲み出ていたようです……。イシュリーズさんが労るように優しく頭を撫でてきて、私は「大丈夫ですよ」の意味を込めて笑い返します。
 すると、イシュリーズさんは一瞬苦しそうな表情をし、私をギュッと抱きしめてきました。
 その温もりに、堪えていた涙が次々と零れ出てきます……。イシュリーズさんは私が落ち着くまで抱きしめ、頭をずっと撫でてくれました。

 本当に……本当にイケメン過ぎて……後で平伏させて下さい……うぅっ。


 その後、イシュリーズさんがなかなか離してくれないハプニング(?)はあったけれど、無事にお参りも済ませて、いざ出発です!
 私、日本ではもっぱらインドア派で、登山とかキャンプとか一切したことないんですが、大丈夫でしょうか……。
 体力もないし、不安で不安で仕方ないけど、足を引っ張ることだけはしないように頑張らなくては!

 玄関の入口には、昨夜の兵士さんが変わらず立っています。
 もしかして、寝ずに一晩中立っていたんでしょうか?
 そうだとしたら、本当にお疲れ様です。今日はゆっくり眠れるといいですね……。


 家を離れる時、一人の兵士さんが、こちらに向かって呟くように何かを言いました。

『「達者でな」、だと。恐らくあ奴が、ユーナに布を掛けてくれたんだろう』

 ウインさんがそう教えてくれ、私は感謝の気持を込めて、兵士さんにペコリと頭を下げ、お礼をしました。
 兵士さんはそれを見て、戸惑いながらも小さく手を上げてくれたのです。

 あぁ、あの兵士さん良い人だ……。
 あの人は、イシュリーズさんがユーナちゃんを殺したとは信じていないのでしょう。
 願わくば、外道《勇者》の部下なんて辞めて、もっと良い上司さんの下で働けますように。


 照れながらにも見て取れる、兵士さんの手を上げる姿を思い出しニヤニヤしていると、唐突に空いている手をギュッと握られました。
 横を見ると、いつの間にかイシュリーズさんがいて、私の手を掴んでいます。
 真顔でこちらを見下ろしている彼に、私は頭上にハテナマークを浮かべました。

「……どうしたんですか?」
『何だか色々と心配だから、手を繋いで行くそうだ。すっかり子供扱いだな、ユヅキ』

 私の腰に付けられているウインさんが、笑いを含みながら言いました。
 ちなみにイシュリーズさんは、家に置いてあったスペアの剣を腰に差しています。

「えぇ~……」

 色々って何ですか、色々って! この年ではぐれたり迷子になるって言うんですか? 全く失礼な!
 思わずプクーッと顔を膨らませると、イシュリーズさんは小さく吹き出して、改めて私の手に指を絡ませてきました。

 ……え? ……あの、これって、こ、恋人繋ぎってヤツでは……?
 こちらの世界じゃこれが当たり前の繋ぎ方なんですか? そうなんですか? 誰か教えて下さ~い!

 ……なんてそんな恥ずかしいことは訊けず、結局そのまま出発しましたよ……。
 歩いている時も、距離が近いです。近いですってば!
 腕と腕がくっつきそうです。ただでさえ恋人繋ぎの上にイケメンの隣で脈拍が上がってるのに、更に上昇させてどうするんですか!?

『イシュリーズ、お前ユヅキと近くないか?』

 ウインさんも気付いて指摘しましたが、イシュリーズさんは何処吹く風で歩いています。

『……まぁ、支障が無いならいいか』


 ちょっ、ウインさんっ!? 私、思いっ切り支障出てますよ!?
 イケメン効果で心臓ドックンドックン煩くて動悸激しいですよっ!?
 手汗も酷いですよっ!?

 これが支障とは言わず何て言うんですかっ!?


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