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10.母からの返信

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『さて、まずはお嬢さんの意向を聞かせて貰おうか』
「……はい。あの、私は、元の世界に母がいるんです。心配していると思うし、帰る方法を探す前に、母と何とか連絡を取って無事を知らせたいのですが……」 
『そうか。しかし、それは難しいな。こちらの世界に転移してきた者が、元の世界に帰れたという話は聞いたことがないのだ。連絡手段があるというのも聞いたことがない』

 私はその答えに、ガックリと頭を垂れました。

『元の世界では、他の者とどんな連絡手段を取っていたのだ?』
「それは、携帯っていう機械みたいなもので――あっ、そうだ! スマホはどうなっているでしょうか」

 スマホは確か、ショルダーバッグの中に入れてあったはず……あっ、バッグあった!
 イシュリーズさんの足元に置いてあったので、手を伸ばして掴もうとしたら、私の行動の意図を察した彼が先に取って渡してくれました。
 さすが身も心もイケメン、気遣いもスムーズ!

「ありがとうございます」

 言葉は分からないだろうけど、声に出して礼を言うと、イシュリーズさんはニコリと微笑み返してくれました。

「スマホ、スマホ……。あ、ありましたありました。電源は切れていないけど、さすがに電波は入ってな――って、あれれえぇ!?」

 私の、某名探偵の主人公みたいな素っ頓狂な叫びに、イシュリーズさんは目を見開いて驚きます。

『どうした、お嬢さん?』
「でっ、電波が立っています! 一つだけだけど……。な、何でっ!?」

 小説や漫画では、異世界に来ると電波は繋がらなくなるはず……なのに何で立ってるんですか!?
 ――はっ! ここが風の国だから、風に流れて日本からの電波も流れてきたって――いやいや、そんなバカなっ!?

 でも、理由はどうあれ今がチャンスです! いつ繋がらなくなるか分からないし、今の内に早く母に連絡を!!

「電話は……駄目です、繋がりません……。じゃあラインで!」

 メッセージを急いで打ち込んでいると、隣からヒョイとイシュリーズさんが興味深そうに覗き込んできました。
 ち、近いっ! 頬と頬がくっつきそうです……!
 イケメンが間近にいると緊張で手が震えて手汗も止まらないから離れて頂きたいっ!


「えっと……〈連絡遅くなってごめんなさい。ちょっとした事故で異世界に飛ばされてしまいました。いつ戻れるか分からないけど、私は元気だし、必ず戻るので心配しないで下さい。母さんも身体に気を付けて。よく寝てちゃんとご飯食べてね〉――よし、送信!」


 一見しておふざけメッセージっぽいけど、母なら信じてくれるはず!
 送信した後、すぐに既読が付きました! やった、母にちゃんと届きましたよ!

『そんな小さな機械で、遠い場所にいる者と連絡が取れるなんてな……。君の世界には、便利なものがあるんだな』

 ウインさんが感心の声を出していると、ポロンと音が鳴ってメッセージが返ってきました……!


〈良かった。夜になっても帰ってこないし、一晩中ずっと連絡を待ってたのよ。そうなのね、あなたも雲の上に行ってしまったのね。突然でビックリしたけど、私もいずれそちらに行くから寂しくないわ。お母さん頑張るから、そちらで元気で会いましょうね。お父さんによろしくね。
P・S トリケラトプスチーズたっぷりハンバーグ、そちらに行くまでずっと楽しみに待ってるわ〉


 …………か、母さあぁーーんっっ!?
 私は死んでないっ、死んでいませんよぉーーーっっ!!


 そうか、“事故”って言葉を使ったからいけなかったのか!
 でも“必ず戻る”って打ったじゃん! そこちゃんと見てよ母さぁーーんっ!!
 あと“トリケラトプス”への熱情すごいなっ!? お願いだから大項目の“恐竜”に変更させて!?
 その前にあの世にハンバーグの材料あるのっ!?

 急いで訂正のメッセージを打とうとしましたが、このタイミングで電波が立たなくなりました……。
 スマホを振っても電源を入れ直しても全く駄目です……。

『どうした? 母親と連絡は取れたのか?』
「……取れたには取れたんですが、私、死んじゃったことにされちゃいまして……」
『何だって? それは大丈夫なのか?』
「えぇ、母は前向きに捉えたので、大丈夫だと思います……」

 前向き過ぎる母を持つのも良し悪しですね……。
 スマホをショルダーバッグに片付けると、イシュリーズさんとウインさんに向き合います。

「私の一先ずの問題は一応解決しました。今度は、お二人の今後を聞かせて頂けますか」
『分かった』

 イシュリーズさんは、スマホを打つ為に離していた私の手を再び握ると、優しく微笑みました。
 えっ、また手を繋いだまま話をするのですか? もしかして手フェチですか? こんなカサカサ豆だらけの手のどこがいいのやら……。


『まず、ここで旅の準備をして、この国を出ることにする。表向きは、あの下劣極まりない馬鹿糞《勇者》の命じた、元《雷の聖騎士》の討伐だからな』


 うわ、さり気なく《勇者》をディスってますね、ウインさん。

 いいぞいいぞもっとやれっ!


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