10 / 134
10.母からの返信
しおりを挟む『さて、まずはお嬢さんの意向を聞かせて貰おうか』
「……はい。あの、私は、元の世界に母がいるんです。心配していると思うし、帰る方法を探す前に、母と何とか連絡を取って無事を知らせたいのですが……」
『そうか。しかし、それは難しいな。こちらの世界に転移してきた者が、元の世界に帰れたという話は聞いたことがないのだ。連絡手段があるというのも聞いたことがない』
私はその答えに、ガックリと頭を垂れました。
『元の世界では、他の者とどんな連絡手段を取っていたのだ?』
「それは、携帯っていう機械みたいなもので――あっ、そうだ! スマホはどうなっているでしょうか」
スマホは確か、ショルダーバッグの中に入れてあったはず……あっ、バッグあった!
イシュリーズさんの足元に置いてあったので、手を伸ばして掴もうとしたら、私の行動の意図を察した彼が先に取って渡してくれました。
さすが身も心もイケメン、気遣いもスムーズ!
「ありがとうございます」
言葉は分からないだろうけど、声に出して礼を言うと、イシュリーズさんはニコリと微笑み返してくれました。
「スマホ、スマホ……。あ、ありましたありました。電源は切れていないけど、さすがに電波は入ってな――って、あれれえぇ!?」
私の、某名探偵の主人公みたいな素っ頓狂な叫びに、イシュリーズさんは目を見開いて驚きます。
『どうした、お嬢さん?』
「でっ、電波が立っています! 一つだけだけど……。な、何でっ!?」
小説や漫画では、異世界に来ると電波は繋がらなくなるはず……なのに何で立ってるんですか!?
――はっ! ここが風の国だから、風に流れて日本からの電波も流れてきたって――いやいや、そんなバカなっ!?
でも、理由はどうあれ今がチャンスです! いつ繋がらなくなるか分からないし、今の内に早く母に連絡を!!
「電話は……駄目です、繋がりません……。じゃあラインで!」
メッセージを急いで打ち込んでいると、隣からヒョイとイシュリーズさんが興味深そうに覗き込んできました。
ち、近いっ! 頬と頬がくっつきそうです……!
イケメンが間近にいると緊張で手が震えて手汗も止まらないから離れて頂きたいっ!
「えっと……〈連絡遅くなってごめんなさい。ちょっとした事故で異世界に飛ばされてしまいました。いつ戻れるか分からないけど、私は元気だし、必ず戻るので心配しないで下さい。母さんも身体に気を付けて。よく寝てちゃんとご飯食べてね〉――よし、送信!」
一見しておふざけメッセージっぽいけど、母なら信じてくれるはず!
送信した後、すぐに既読が付きました! やった、母にちゃんと届きましたよ!
『そんな小さな機械で、遠い場所にいる者と連絡が取れるなんてな……。君の世界には、便利なものがあるんだな』
ウインさんが感心の声を出していると、ポロンと音が鳴ってメッセージが返ってきました……!
〈良かった。夜になっても帰ってこないし、一晩中ずっと連絡を待ってたのよ。そうなのね、あなたも雲の上に行ってしまったのね。突然でビックリしたけど、私もいずれそちらに行くから寂しくないわ。お母さん頑張るから、そちらで元気で会いましょうね。お父さんによろしくね。
P・S トリケラトプスチーズたっぷりハンバーグ、そちらに行くまでずっと楽しみに待ってるわ〉
…………か、母さあぁーーんっっ!?
私は死んでないっ、死んでいませんよぉーーーっっ!!
そうか、“事故”って言葉を使ったからいけなかったのか!
でも“必ず戻る”って打ったじゃん! そこちゃんと見てよ母さぁーーんっ!!
あと“トリケラトプス”への熱情すごいなっ!? お願いだから大項目の“恐竜”に変更させて!?
その前にあの世にハンバーグの材料あるのっ!?
急いで訂正のメッセージを打とうとしましたが、このタイミングで電波が立たなくなりました……。
スマホを振っても電源を入れ直しても全く駄目です……。
『どうした? 母親と連絡は取れたのか?』
「……取れたには取れたんですが、私、死んじゃったことにされちゃいまして……」
『何だって? それは大丈夫なのか?』
「えぇ、母は前向きに捉えたので、大丈夫だと思います……」
前向き過ぎる母を持つのも良し悪しですね……。
スマホをショルダーバッグに片付けると、イシュリーズさんとウインさんに向き合います。
「私の一先ずの問題は一応解決しました。今度は、お二人の今後を聞かせて頂けますか」
『分かった』
イシュリーズさんは、スマホを打つ為に離していた私の手を再び握ると、優しく微笑みました。
えっ、また手を繋いだまま話をするのですか? もしかして手フェチですか? こんなカサカサ豆だらけの手のどこがいいのやら……。
『まず、ここで旅の準備をして、この国を出ることにする。表向きは、あの下劣極まりない馬鹿糞《勇者》の命じた、元《雷の聖騎士》の討伐だからな』
うわ、さり気なく《勇者》をディスってますね、ウインさん。
いいぞいいぞもっとやれっ!
29
お気に入りに追加
1,799
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる