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9.イケメンさんはサスサスがお好き
しおりを挟む「……え? もう序盤でお風呂ばったりハプニングイベントですか?」
思考が追いつかない私の口から、現実逃避の言葉がポロリと出ます。
いやいや、会って二日目でそれは早過ぎるでしょう!? 乙女ゲームでは、もっと親密度を上げてから発生するイベントですよ!?
「――って違う! これ現実っ!!」
自分自身にツッコミをし、私はその場にへたり込みます。
あぁ……バッチリ見られましたね、アレは絶対。特にお腹をジッと見てましたね……。
そんなに……そんなに私のお腹の贅肉が酷かったんですかっ!? いや自覚はありますけど! 思いっ切り掴めますけど!
某バスケの先生のアゴみたいにタプタプ出来ますけど!!
……はぁ……。自分で言ってて悲しくなってきました。
もう見られてしまったものは仕方ありません。さっさと着替えて、今後についてをウインさん達と話し合いましょう……。
それにしてもイシュリーズさんには、涙と鼻水だらけの顔を見られ(朝、顔がカピカピになっていなかったので、私が眠った後に拭いてくれたと思われます)、締まりのない裸を見られ、見苦しいものばかり見せていますね……。
彼の目が腐ってポロリと取れなければいいんですが……。
…………。
……私、また泣いていいですか。
私はメソメソとお借りしたワンピースを着ると、イシュリーズさん達のいる居間へトボトボと足を進めました。
居間に入ると早々、イシュリーズさんがウインさんを手に持ち、頭を深く下げて謝ってきました。
いやいや、私の方こそタオルを忘れて届けて頂いたのに、目が腐ってしまうものをお見せしてしまい申し訳ありません!
その気持ちを込めて、両手をブンブンと左右に振り、同じように頭を深く下げると、イシュリーズさんは眉尻を下げて笑いました。
私もぎこちなく笑みを返すと、ウインさんに気になっていたことを訊いてみます。
「ウインさん。あの、ユーナちゃんは……?」
『昨晩、君が眠っている間にイシュリーズが埋葬したよ。身体は土に還り、魂は神の元へと上っていく。ユーナは生まれ変わると言った。だから、その日を楽しみに待とうではないか』
「……っ。はい……!」
私は目を潤ませながら大きく頷くと、イシュリーズさんが目を細くしながら微笑んで、私の手を取り二人掛けのソファに誘導します。
促されるままにそこに座ると、隣にイシュリーズさんも腰を下ろしました。
今後の話し合いをしよう、ということでしょうか。
……いえそれはね、全然いいんですけどね。
何で手を握ったままなんでしょうかね。
そして何で私の掌を擦ってるんですかね。
そんなに荒れたカサカサな手が気になるんでしょうか。
マメも出来てるし、女性の手とは思えないから珍しがってるんでしょうか?
あ、何故マメが出来ているかと申しますと、私のストレス発散の一つが素振りだからです。
危なくないように、プラスチックのバットでですけどね。
母が言うには、私が物心がつく前から色んな棒を振り回して遊んでいたそうです。
……そんな乱暴な女の子嫌だよ。色んな棒を近くに置かないでちゃんと止めてよ母さんっ!
そんなことを考えている間も私の手をサスサスしてるので、助けを求めてウインさんを見ます。
『……まだ、君をユーナと重ねているんだろう。この男の気持ちが落ち着くまで、そっとしておいてくれないか』
「……はい……」
それを言われたら、「はい」としか返す言葉がありません……。
イシュリーズさんはユーナちゃんのこと、とても大切に想っているのが伝わってきましたから……。
結局、イシュリーズさんとは手を握ってサスサスしたまま話し合いをすることになりました。
酷い手汗をかかないように祈るばかりです……。
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