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5.更に《能力なし》って積みですよね?

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 ――そんなわけで、冒頭に戻るのですが。
 今まで分かった情報をまとめてみるとこうなります。


・異世界転移してきたこの世界では、日本の言葉は通じない。独自の言語がある。
・私自身、何か能力を授かったり、最初から特別な力を持っているわけでもない。
・お金もない。お財布の中に日本のお金はあるけど、この世界ではきっと使えない。
・初めての場所なので、知り合いもいないし、どこに行けばいいか分からない。
・“元の世界”に……日本に戻る方法は見つかっていない――


 ……うぅ、絶望過ぎて涙が出そうになってきました……。
 もう日が暮れますし、夜になってもまだ私が帰ってきてないと、母さん心配するでしょうね……。
 ポーッとしてても抜けててものんびりしてても、私は母さんがすごく大好きなんです。
 そんな母さんにもう二度と会えないなんて、そんなのは絶対に絶対に嫌です!!

 戒さんは「元の世界に戻る方法は見つかっていない」と言っていましたが、見つかっていないのなら、これから探せば見つかるかもしれません……!

 戻る方法を何とか見つけ出して、母さんのもとに絶対に帰るんです……!!


 その為に、私に何か“特別な力”があれば良かったんですが……。
 私が読んできた異世界の漫画や小説の中では、異世界転移すると、何かしらチート能力が貰えるのに、私は華鈴さんの“オマケ”でここに来てしまったので、本当に何にもない……。

(ステータスオープン!)

 と心の中で唱えてみても、勿論ウィンドウも何も出やしません。
 医学や科学とかの知識も、特技も何も持っていません。
 出来るのは適当な家事のみ。

 ………………。

 …………。


 積んだぁ! 思いっきり積んでる私っ!! 
 このままだと華鈴さんの願い通り野垂れ死に決定じゃないですかぁ!!

 ……そうだ、イケメンさんはこの後どうするんでしょうか。戒さんの話からすると、何か討伐する命を受けたみたいですけど……。
 見上げると、イケメンさんもこちらを見ていたのか、またもや目が合いました。

 うっ、まだ大人の目の直視は無理です、ごめんなさい……。
 少し視線を下げ口元を見ると、何やら口を動かして喋っているのですが、やっぱり難解な発音で聞き取れません。
 私は困って首を横に振ると、イケメンさんも少し眉尻を下げ、同じ困った顔をしています。
 まさにお手上げ状態の、その時でした。


『全く、あの《勇者》め。私まで【魔封じの鎖】で雁字搦めにしてくれたもんだ。お蔭で波長が途切れてお前と喋れなかったじゃないか』


「……っ!?」

 日本、語……? 日本語が聞こえました!!
 けど、勢いよく首を左右上下にバババッと動かしてみても、それらしき人物はいません。
 でもでも、確かに日本語が聞こえましたよ!? 少し機械じみた、低い男の人の声が……
 ……ほら、今も!

『これからどうする? あの《勇者》から、勝手に討伐を任されてしまったが……』

 その声に、イケメンさんは眉間を顰め、少し唇を動かします。
 あれ? イケメンさん、この日本語と会話してる……?


『一度家に戻るのか? この子を連れて? 確かに、ここにはもういられなくなったしな。旅の支度をしなくてはならないし、何よりユーナのことが気になるだろう。ただ、兵士がまだ見張っているかもしれないから、用心した方がいいぞ、イシュリーズ』
「ユーナッ!? イシュリーズッ!?」


 その二つの名前に大きく反応した私は、思わず大声を出してしまいました。
 案の定、イケメンさんが驚いた顔をしてこちらを見つめてきます。

『……何と……。私の声が聞こえるのかい、お嬢さん?』

 日本語が、今度は私の方に問いかけてきました。

「あ……はい、聞こえます。しっかりと……!」
『ほぉ……これは驚いたな。持ち主以外の者に私の声が聞こえるなんて、そんな事は初めてだ。それに、私も君の言葉が分かる。これは何とも摩訶不思議な……。君と私の波長がよく合ってる、という事か?』

 関心のこもった声で、日本語が耳に聞こえてきます。
 それにしても、この声は一体どこから……?

「あ、あのぅ……すみません。声は聞こえるんですが、姿がどこにも見えないんです。どちらにいらっしゃるのでしょうか?」
『あぁ、そうだったな。こっちだ』
「こっち?」

 私はまたキョロキョロと周りを見渡します。

「う~~~ん……?」

 ……やっぱりそれらしき『人』、いないんですけど。

『違う違う、ここだ、下だ。この男の腰に差してある“鞘”が私だ』
「えっ!?」

 私は首をグルンと下に回し、イケメンさんの腰にある剣の鞘を見つめます。
 りっぱな装飾の入った、キラキラとエメラルド色に輝く鞘です。でも鞘だけで、何故か剣が中に入っていません。

「え、えぇっ!? この“鞘”があなた……?」
『そうだ。《聖騎士》は、【聖なる武器】と波長を合わせて話す事が出来る。ちなみにこの男の【聖なる武器】は“剣”で、私の名は《ウインドブレイド》という。ついでに言うと、“剣”ではなく、私が【本体】だ』
「…………へ?」
『他の【聖なる武器】は、武器自体が【本体】なんだが、私の場合、鞘の方が強くないと、剣を収めた時、すぐに鞘が切れて壊れてしまうからな。まぁ、剣より鞘、すなわち私の方が強いということだ。“剣”は私の半身であり相棒みたいなものだな』
「………………」
『……おや、思考が停止してるな。まぁこちらの世界にきたばかりだし、一気に説明されたら無理もないか。……しょうがない、イシュリーズ。このお嬢さんを連れて家に向かおう。お嬢さんの髪色の事もあるし、人通りが少ない道を選ぼうか』

 視界の隅で、イケメンさんが真面目な顔で頷くのが見えました。

『ではお嬢さん。行きの道で、この世界について教えてあげよう。まずはそこからだな』
「……え? あ……、はっ、はい。よろしくお願いします……?」

 私はこんがらがる頭をブンブンと振り、何とか言葉を返します。
 今の私は、この世界のことより、“鞘”が普通に喋ってるのが気になるんですが。疑問に思ったら負けなんでしょうか。


 私は無理矢理、「ここは異世界だから何でもアリ!」ということで、何とか自分を納得させたのでした。


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