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3.歓迎されない異世界転移
しおりを挟むギュッと閉じていた目から、光が収まっていく気配を感じ、私はそろそろと瞼を上げました。
そこは、先程の真っ暗な所とは正反対の、明るく広い場所で。
暫くその眩しさに目を細めていましたが、段々と慣れてきて辺りを見回してみます。
「…………?」
あれ? ここって、漫画やゲームの世界でよく出てくる、お城の構造と似てる……?
それに、灰色の鎧を着て兜を付けた、見た目兵士な人達も周りに沢山います。
え? 何ですかここ。映画やドラマの撮影現場ですか? それとも外国?
開いた口が塞がらないまま呆然としてしまいましたが、ハッと気が付きます。
「ユーナちゃんっ!?」
キョロキョロと周りを見回しても、ユーナちゃんらしき女の子はいません。
見回している途中で、ここにいる兵士(……かどうか分からないので、後ろに(仮)を付けておきましょう)より、頭一つ分身長が高い男の人と目が合いました。
その人は兵士(仮)達に取り囲まれ、逃げられないように、身体を鎖でグルグル巻きにされています。
何だか……まるで重罪人のような扱いですね……。
灰色の髪と瞳を持ったその人も、目を見開き呆然としてこちらを見ています。
――って、うわぉ。なかなかのイケメンさんですね。これは目の保養にな――って、そんなことを考えてる場合ではありません!
深呼吸をして何とか落ち着き、状況把握の為、もう一度ゆっくりと辺りを見ようとしたその時です。
「ちょっと、このドブスッ! いつまでアタシの腕掴んでんのよ!! さっさとこの汚い手を離しなさいよッ!!」
聴き覚えのある声が横からし、咄嗟に振り返ると、そこには二十代の金髪の女の子が、ギッと私を睨みつけていました。
その鋭い目つきにたじろいだ私は、急いで視線を自分の手に移します。
あ、本当だ。私ったら、いつの間にかこの子の腕を両手で掴んでる……。
しかし初対面の女の子のはずですが、この怒った顔と声、そしてこの毒舌。どこかで聞き覚えが……。
しかも最近聞いたばかりの――
「……あっ!」
思い出しました! 桜の木の丘に来た女性に雰囲気と口調がそっくりです!
そう言えば……魔法陣らしき光に取り込まれる前に、女性の腕を掴んでいましたね、私。
でもあの時の女性は確かに四十代に見えたのですが、今隣にいるこの子は、明らかに二十代です。
……何ということでしょう。若返っているではありませんか!?
体型は細くなっていて、服装も、Tシャツとデニムのミニスカートに変わっています。
一体何が何やら、もう訳が分かりません……。
「来てくれたね、華鈴。待っていたよ」
すると、前方から男の人の声が聞こえ、女の子の顔がパッと明るくなります。
「お兄様っ!!」
笑顔でそう叫ぶと、私を思いっ切り突き飛ばして、声のした方へと走っていきました。
「ぶふっ!」
私はと言えば、突き飛ばされた勢いで、顔面から床にズザザッと突っ込むハメになってしまいましたとさ……。
うぅっ、痛い……。平坦な顔が更に擦り減ってのっぺらぼうになってしまったら恨みますよ……。
涙目で顔を上げると、心配そうにこちらを見ているイケメンさんに気が付き、私は「大丈夫ですよ」と伝える為に、にへ、と笑っておきました。
イケメンさんは、また目を瞠って私の顔を見てきます。
うーん。こんな得体の知れない奴を心配するなんて、なんて心の優しいイケメンさんでしょう。
それとも、撮影を邪魔されて呆れてるんでしょうか。それでしたら本当に申し訳ないことをしました……。
「お兄様、お会いしたかったですわ! お兄様が突然いなくなって、もう二十五年も経ちましたのよ!? アタシ、寂しくて寂しくて胸が張り裂けそうでしたわ!」
華鈴と呼ばれた女の子の声が響き、私は反射的にそちらを見ます。
前の方は段差が一段高くなっており、そこには豪華でピッカピカの椅子に座っている初老の男性がいました。
黄緑色の綺麗なマントを羽織り、髪のない頭に立派な冠を被っているということは、あのおじさんが王様(仮)でしょうか。
その隣には、抱き合う男女の姿があります。
女性の方はあの金髪の女の子、男性の方は二十代半ばくらいで、同じく髪を金に染め、ゲームに出てくるような格好良い鎧を着ています。
「僕も会えて嬉しいよ、華鈴。夢の中に現れた僕の話を信じてくれた事も嬉しかったよ。だからこうして会えた」
「お兄様の言うことなら、夢でも幻でも信じますわ! 魔法陣から飛ぶ異世界転移のことも、ちゃんと信じましたのよ? お兄様が嘘をつくはずないですもの!」
若返った(多分)金髪の女の子の高い声は、耳によく響きます……。会話が筒抜けだけどいいんでしょうか。
少しでも情報が欲しいから、遠慮なく聞いちゃいますよ?
「こちらの世界に転移される時に貰える褒美は、ちゃんと手に入れたようだね。【言語変換能力】も貰えたかな?」
「えぇ! 夢の中のお兄様の言った通りね! アタシは若くして貰ったけど、お兄様は二十五年前から姿が変わってないのね?」
「僕はちゃんと年を取ってるさ。今は五十歳になったかな? ただ、僕の願いは【衰えない肉体】だったからね。もう年齢は関係ないさ」
「流石お兄様、そんな願い事するなんて頭がいいわ!」
きゃいきゃいとはしゃぐ華鈴さんとそのお兄さんの話を聞くからに、あの光る魔法陣らしきものは、異世界転移をする為のものだったみたいですね……。
――って、異世界転移!?
小説や漫画でよくある、あの異世界転移ですか!?
じゃあこのお城や王様に兵士達は、(仮)がいらない本物!?
それに、本来呼ばれたのは華鈴さんだけで、私は巻き添えを喰らった、ってことですか……?
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