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2.不思議な女の子との出会い
しおりを挟むどこかで、女の子が泣いている声が聞こえた気がします。
そっと瞼を開けると、そこは目の前のものも何一つ見えない、濃い暗闇の中でした。
けれど、自分の身体だけは仄かに光が灯り、ロウソクの火のように橙色に輝いています。
(これは、夢……? さっきから一体何が起こっているの……?)
魔法陣らしき光に巻き込まれたと思ったら、今度は真っ暗闇。
一体全体何なんでしょうか。頭がこんがらまくって状況が整理出来ません。
最初に聞こえた泣き声は、今もどこからか、か細く流れてきます。
(……とても悲しい泣き声……)
胸が苦しくなる感覚を覚えたと同時に、私の身体は、その声がする方へと引っ張られていきます。
暫くすると、自分と同じく、ぼんやりと光る何かが見えました。
よく目を凝らすと、そのオレンジ色の光の中に、一人の小さな女の子が蹲って、シクシクと泣いています。
もしそれが大人だったら自分から話しかけるのは躊躇するのですが、こんな小さな子が悲しそうに泣いているのを放ってなんておけません。
『……どうしたの? 何をそんなに泣いているの?』
驚かさないように、極力優しく声を掛けると、女の子の身体がビクッと震え、そろそろと顔を上げました。
十歳くらいの女の子の顔が涙で濡れていて、私の心がズキリと痛みます。
この女の子、瞳の色は茶色だけど、髪の色がライトグリーンという、珍しい色をしています。
三編みにされたそれは、染めていないと分かる、自然で綺麗な色でした。
『お姉ちゃん、わたしの姿が見えるの? 声が聞こえるの?』
『え? あ……うん。見えるし、聞こえるよ。とっても可愛い顔と可愛い声をした女の子が』
『それってわたしのこと? うふふ……』
女の子は、泣きながら小さく笑いました。
『うん、笑顔もとっても可愛いな』
『ふふ、ありがとうお姉ちゃん』
涙を指で拭きながら、女の子はゆっくりと立ち上がります。
『お姉ちゃん、どうしてここにいるの?』
『え? うーん、実は私にも何が何だかサッパリで……。気が付けばここにいたんだ』
『……ね、お姉ちゃん。手をつないでいいかな?』
突然の女の子の申し出に、私は慌てて首を縦に振りました。
『えっ? あ、うん、もちろん喜んで』
女の子に手を差し出すと、彼女はニコリと微笑んで、私の手を握ります。
『………!』
この子、すごく冷たい手をしています……。
その異様な冷たさは……生きている人の体温では――
『……お姉ちゃんの手、とってもあったかいね……。心もすごくポカポカしてきたよ。気持ちいいな……』
女の子は目を閉じながらそう呟くと、私の手をギュッと強く握りしめました。
『お姉ちゃんなら、わたしのお願い、叶えてくれるかもしれない。――ね、お姉ちゃん。どうかわたしのお願い、聞いてくれる?』
『うぐっ!』
可愛い小さな女の子の、目を潤ませながらのお願い事は、卑怯以外の何者でもありません……。
こんなの断れるわけがないっ!!
『うん、私で出来ることなら……!』
『ありがとう、お姉ちゃん! あのね、わたし、お兄ちゃんがいるんだけど、そのお兄ちゃんを見つけて、わたしのところに連れてきて欲しいの』
『お兄ちゃんを見つける……。捜すってこと?』
いきなり難易度の高いミッションきたーーッ!
この子の髪の色からして、お兄さんも絶対日本人じゃないですよね? 外国の方ですよね!?
うち母子家庭ですから、飛行機に乗るお金なんてないですよー!?
頼む相手間違ってますよーーっ!?
困惑した表情が分かったのか、女の子は私を安心させるように、ニコリと笑いました。
『だいじょうぶ。お姉ちゃんなら、きっとお兄ちゃんに会えるよ。お兄ちゃんの名前はイシュリーズっていうの。わたしの名前はユーナ。これさえ覚えていればだいじょうぶだよ』
『イシュリーズさんとユーナちゃん……?』
やっぱり外国の方のお名前じゃないですかぁ~!
“飛行機”必須アイテムッ!!
資金繰りの為にありったけの気力を振り絞って、すぐに働けるバイトを探さなくては……っ!
その間、ユーナちゃんはうちに来てもらいましょう。
お兄さんお一人を捜しているのなら、恐らく御両親はもういないのだと推察されます……。
狭い部屋だけど、子供一人なら泊められますよね?
母には何とか説得してこの子をいさせてもら――いや、母なら二つ返事で、
「あらぁ~、とっても可愛い子ね♡ もちろんいいわ~。大歓迎よ♡ ウフフ♡」
――って言いますね、絶対に。心配御無用でした。
それにしても、ユーナちゃんが日本語を喋れて良かった……。
言葉が分からないと、色々と不便ですから。
『ユーナちゃん、こんな真っ暗な場所に一人じゃ危ないから、私と一緒に行こう?』
『ありがとうお姉ちゃん。でもね、わたしはここから出られないの。どうしてもお兄ちゃんに伝えたいことがあるから、神様にたのんでここにいさせてもらってるの』
『え……? それってどういう――』
『あっ、そうか。お姉ちゃんがここに来たのは、きっと神様がわたしをあわれんで、手助けをして呼んでくれたんだね。わたし一人じゃ、泣いてるしかできなかった……。ここに来たのがお姉ちゃんで、本当に良かった』
そう言って、嬉しそうにユーナちゃんは笑いました。
ユーナちゃん……。可愛い笑顔で勝手に納得してるけど、ハテナマークだらけの私を置いてけぼりにしないで下さい。
『お姉ちゃん、お兄ちゃんを連れてわたしのところに来たら、またわたしの手をにぎってほしいの。ヤクソクね?』
『あ、うん! それはもう喜んで。私からお願いしたいよ』
『うふふっ。ありがとうお姉ちゃん。わたしもう泣かないで、笑ってその時をまっていられるよ』
ユーナちゃんが再び可愛い笑顔でそう言った途端、私の視界がぼやけ始めました。
身体の光が強くなっているのに気が付きます。
『お姉ちゃんならきっとだいじょうぶだよ。がんばってね』
『ユーナちゃん……? ユーナちゃん!!』
ユーナちゃんの手が離れ、思わず彼女の方に腕を伸ばしましたが、光が私を包み込む方が早く――
そして瞬時に身体が飲み込まれ、再び私は意識を手放してしまいました……。
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