【R18】囚われる前に逃げたい召喚娘と、尽く邪魔をする勇者のお話

望月 或

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 部屋の中は大体の物が揃っていて、お風呂やトイレも付いていた。この中だけで普通に生活出来そうだ。

「この部屋の備品や物、昨日今日で揃えたものじゃないな……。《聖女》を召喚しようとしてたし、ここって元は《聖女》の為に準備していた部屋なのかも。うん、きっとそうだよ、めっちゃ広いし。私には場違いじゃん。もっと狭い部屋で良かったのに」
 
 飾ってある豪華な置き物が幾らくらいするのか、想像しながら部屋の中を見て回ってると、扉をノックする音が聞こえた。

「はーい!」

 元の世界で、宿屋に泊まっている時にノックされるのは夕食が出来た時だ。それが待ち遠しくて、ノックされると元気良く返事をしていた。
 今回もついクセで大きく返事をすると、扉を開け三人の侍女達がゾロゾロと入ってきて、

「身なりを整えさせて頂きます」

 と頭を下げて言った。

「へっ?」

 素っ頓狂な声を出していると、三人がかりで浴室に連れていかれて服を脱がされ全身を洗われ、お風呂から上がったあと軽く化粧をさせられ高そうなドレスを着させられ髪も後ろでクルクルとまとめられあっという間に色々と整えさせられた。

 その間、終始キョトンとしていた私に侍女達は深々と礼をすると部屋から出ていき、代わりにキールヴァルトが部屋に入ってきた。
 そして私を見るなり目を見開くと、黒曜石の瞳をパッと輝かせて笑顔になる。


「……やっぱり! フェリは水色のサラサラな髪と瞳だから、薄い紫のドレスが似合うと思ってたよ。それにすごく綺麗だ。髪型もいつもと違って、大人っぽく見えるね。素敵だ……」


 キールヴァルトは私に歩み寄ると、堪らずといった感じで私の身体を深く抱きしめてきた。


 ま、またこの男は……っ。誤解を招く行動は慎んで貰いたい! それとも久し振りに会った仲間へのスキンシップとか?
 うぅっ、どっちか分かんないから怒るに怒れない……。


「ちょっとキールヴァルト、何で私にこんな格好をさせたの?」
「たまにはいいだろう? こんなお姫様みたいな格好なんてなかなか出来るものじゃないし。女性は一度でも憧れるものなんじゃないか?」
「……まぁ……そりゃ確かにそうだけど……」
「良かった」


 キールヴァルトは私の返答にニコリと笑うと、私を腕の中に閉じ込めたままベッドの端に座った。
 そして、自分の太腿の上に私を座らせ、後ろから肩とお腹に腕を回して互いの身体を密着させると、私の髪に顔を埋め匂いを嗅いでいる。

「………………」


 いやこれは流石にアウトでは!? ペットか人形か勘違いしてないよね!? もう怒ってもいい案件よね!?
 私が奥さんである王女の立場だったら、他の女に普通にこんなことしてたら絶対に怒るわ! 怒髪天を衝くわ!
 

「あのさキールヴァルト――」
「本当に久しぶりだね、フェリ。キミに礼を言う前にいなくなってしまったから、改めて礼を言わせて。ありがとう、フェリ。キミのお蔭で一年前の魔物退治が成功したんだ」


 怒ろうとしたら礼を言われて、私の毒気を抜かれてしまった。


「へ? いや、私何にも――」
「フェリの戦闘の補助なくてはあの魔物は倒せなかったよ。素早さを活かして走り回って相手の視線を引き付け、魔物から仲間達への意識を逸らしてくれていたよね。そのお蔭で相手からの攻撃が減り、すごく攻撃がし易かったよ。通常の戦闘でもそうだ。他の仲間達はそれに気付かないで、自分達は強い、キミは逃げ回っていただけと、とんだ思い違いをしていたみたいだけどね」
「あ……」


 ――分かって、くれていたんだ。
 自分が勝手に自分の役割を決めてやっていたことなのに。
 それに気付いてくれて、こうやって直接礼を言われて、私の心が一気に上昇し踊り始める。


「えへへ、そんなとこに気付くなんて流石キールヴァルトだね。私が好きになっただけある――」
「え?」
「あ」


 しまった!!
 気分が昂っていたとはいえ、余計なことを口にしてしまった……!
 目を瞠って私を見ているキールヴァルトに慌てて弁明する。


「あ、えっと……その、い、一年前のことだから! キールヴァルトには王女がいること分かってたし、私が勝手に好きになっただけで、別にどうこうするつもりはなかったよ。人のモンは絶対に盗まないのが私の信条だし。想いを告げる気は更々なかったし。今はもう何とも想ってないから安心していいよ」
「……今は、何とも……」
「うん、そう。ホンットに何とも! だからこの話はおしまい。キールヴァルトと王女の結婚生活を邪魔するほど私は愚かでバカじゃないよ」
「……良かった……」


 ポツリと聞き取れないくらいに小さく呟くキールヴァルトに、私は思わず苦笑を漏らした。

 やっぱり、婚約者がいるのに私に想われるのなんてイヤだったよね。あの時告白しなくて本当に良かった。ま、最初から言う気はなかったけど。
 ハボックじいちゃんがいてくれて良かったな。話す相手がいなかったら、ずっと悶々としていただろうし。

 ……この胸の痛みは気の所為だよ、気の所為。――うん、そういうことにしておこう。


 ――あ! そう言えば、ハボックじいちゃんはどうしたのかな?


「ねぇキールヴァルト、ハボックじいちゃんは今どこにいるの? 元の世界に還ったの?」
「……いや、ハボックさんは城下町の外れに住んでいるよ。元の世界に還っても独りだから、そのままここに残るって」
「えっ、そうなんだ!」


 ハボックじいちゃん、久し振りに会いたいな。またじいちゃんとお喋りしたいよ。


「……あ、ねぇ、そろそろ離してくれる? この体勢、侍女達に見られたら流石にヤバイって。王女に誤解されたくないしさ。キールヴァルトだって大好きな奥さんに怒られたくないでしょ?」


 私がモゾモゾと身体を動かしキールヴァルトの腕から抜け出そうとしたけど、何故かその腕に力が込められ更に密着されてしまった。
 そして、髪が上の方に巻かれてあるので剥き出しな項に唇の感触が触れたと思ったら、チクリと一瞬痛みが走る。

「えっ?」

 少しずれて、また唇が触れたと思ったら痛みが。これが何度も何度も続き、首筋全部にそれをやられる。


 え……一体……何してるの……? もしかしなくても、コレもアウトなヤツだよね? 首にキスしてるわけだから……。
 でも痛い……。される度に痛い……。もしかして嫌がらせ? え、私キールに嫌がらせされてるの今!? そんなに嫌われてたの!?


 ようやく私の身体を離し立ち上がったキールヴァルトは、混乱してグルグルしている私の首を見て何故か満足そうな顔をしていた。
 

「じゃあ、ボクは仕事があるから行くよ。くれぐれもここから逃げ出そうなんて思わないようにね。そう……くれぐれも、ね。――もしそんなことをしたら、そうだな……。罰として、その度にキミを犯すよ」
「えっ!?」
「ふふっ。それがイヤだったら、ここから逃げる考えは捨てた方がいいよ? まぁここは城の最上階だし、逃げるなんて絶対の絶対に無理だろうけど、ね」


 キールヴァルトは意味深に笑うと、静かに部屋から出て行った。
 私はポカンとしながら、今のキールヴァルトの言葉を反芻する。
 その言葉が衝撃過ぎて、さっきの首のキスはどうでも良くなっていた。



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