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10.ありがとうございました
しおりを挟む私はきっと、とんでもなく間抜けな顔をしていたのだろう。
生徒会長はまた可笑しそうにクスクス笑うと、言葉を続けた。
「……あー、可愛過ぎてホント死にそう……。――すいません、言葉足らずでしたね。文香さんを初めて見掛けたのは、用事があって向かった朝の図書室でした。アナタは読書中だったので、邪魔しないようにそっと図書室に入ったんですが、その時のアナタの表情がとても百面相で……」
生徒会長曰く、私は色んな表情を浮かべていたらしい。
怒った顔、切なそうな顔、ビックリした顔、嬉しそうな顔……と、コロコロと変わっていったのだそうだ。
――って、ちょっと待て! 私、そんなに思いっ切り顔に出てたのか! 自分じゃ全然気が付かなかったぞ!?
……ってことは、私が本を読んでいる最中ずっとこっちを見てニコニコしていたのは、その表情を楽しんでいたから……?
……はっ、恥ずかしいぃ……!!
「アナタの表情で、どんなシーンを読んでいるのかが容易に想像出来ましたよ。それからアナタを見るのが楽しくなって、毎朝こっそりと図書室に行ってアナタを眺めていました。俺には出来ない、素直に喜怒哀楽を見せるアナタ……。俺は、いつの間にかアナタに惹かれていって、そして、気が付けばどうしようもないほどに好きになっていました。アナタと廊下で偶然擦れ違った時に、我慢出来なくて告白してしまったくらいに。ビックリさせてしまいましたよね? すいません……。でも、後悔はなかったです。これで堂々とアナタを見ていられるのですから」
生徒会長は立ち上がると、私を優しく抱きしめた。
「すぐには無理かもしれないけど、少しずつ、『俺』を出していきますね。本当の『俺』を皆が好きになってくれるかは分からないけれど……。でも、文香さんが傍にいてくれるなら、俺は力強いです。だから、文香さんも遠慮無く自分を出して下さいね? さっきのように、武士言葉で全然構わないから、言いたいことバンバン言って下さい。アナタはとても素敵な女の子です。俺が保証します。素直になれば、クラスの皆と絶対仲良くなれますよ」
「……っ!」
生徒会長、私がクラスの中でどういう状況になっているかもちゃんと分かってたんだ。
それは、自ら望んで作られた状況だったけれど。
でも、クラスメイト達が楽しそうに話してる光景に、羨ましいと思う自分が心の奥底にいたのも否定出来なかった。
……やって、みようかな。
まずは、クラスメイトの名前を全員覚えて。
挨拶は自分からして。友人のアドバイスの通り、笑顔を積極的に出して。
……それでも、その日は何も変わらないかもしれないけど。
でもきっと、私の中で一日が気分の良いものに変わるだろう。
だって、“今日一日精一杯頑張った誇れる自分”が、私の中にいるのだから。
そう考えたら、何だか気持ちが弾んできた。
こう思えるようになったのも、生徒会長の言葉のお蔭だ。
「……ありがとう」
「ふふっ……いいえ、お礼を言うのは俺の方です。――文香さん、やり直しをさせて頂いていいですか?」
やり直し……?
生徒会長は私から少し離れ、直立不動して真剣な表情になると、ゆっくりと口を開いた。
「鈴村文香さん。よろしければ、俺と付き合って頂けますか」
「……っ!」
生徒会長は、緊張した面持ちで私の返事をじっと待っている。
私の返事は、もちろん――
笑顔で大きく頷いた。
「……っ。ヤバ、その顔反則過ぎだろ……。――ありがとうございます。文香さんのこと、ずっと……いつまでも大切にしますね。――それと、もう一つ……」
生徒会長は嬉しそうに笑うと、私に顔を近付け、そっと耳打ちしてきた。
「アナタを、抱きたい。……いい?」
「……っ」
自分の顔が、瞬時に真っ赤に染まっていくのが分かった。
恥ずかしいので、目をギュッと瞑り、小さくコクリと頷く。
「……うっわ、何ソレ。めちゃくちゃ可愛い。ヤバ過ぎ。――ふふ、嬉しいです。アナタは初めてなので優しくしたいのですが、あの男子のこともあってちょっと理性が抑えられないかも。そこは勘弁して下さいね?」
首を傾げ、小悪魔のようにニッコリと笑う生徒会長。ま、また後ろから黒いオーラが漂って……!
それにキスに引き続き、何故私が初めてなのを知っている!?
……ん? あの男子……って、春友のことだよね? 何で春友が?
「……あの男子と、二人きりで行動していましたね?」
「……っ! あ、あれは偶然会って……っ」
「えぇ、分かっていますよ。文香さんが自らあの男子と一緒に行動したわけでは無いことに。俺も、義理の妹とはいえ、二人であのような行動をしたことは本当に深く反省しています。もう二度と文香さん以外の女子と二人では出掛けません。約束します。……それで、アナタを傷つけてしまった俺が言うのはとてもおこがましいことなんですが……、文香さんも、俺以外の男子と二人では出掛けないで下さいね……?」
黒いオーラが急激に萎み、私の様子を窺うように顔を覗き込んでくる生徒会長。
これは……。
嫉妬、してくれているのだろうか。
私が副会長に感じた気持ちと同じものを、生徒会長も春友に感じたのだろうか。
「……おあいこ?」
「! ははっ! めっちゃ可愛いこと言ってる。やっば、すっげぇ好き。――今日は寝かせるつもりはないので、覚悟して下さいね?」
最後は恐ろしいことを言ってのけた生徒会長は、愛おしそうに私を見つめると、身体を抱き寄せて唇を重ねてきた。
……しかしさっきから、台詞の最初に素の生徒会長が出まくってる気が……。内容が顔に火が灯るくらい恥ずかしいけど。……でも、良い傾向だよね、うん。
「……明日……」
私の唇と口内をじっくりと堪能した生徒会長は、唇を離すとおもむろに言葉を出した。
「明日、一日デートをしませんか? お互いが行きたい所へ行って、好きなものを食べて。一日中、文香さんと一緒に過ごしたいです。予定……空いていますか?」
生徒会長の提案に、私は迷うことなくニッコリと笑い頷いた。
生徒会長は私のその顔を見て嬉しそうに顔を綻ばせると、軽くキスをしてきた。
「……あ、けど今夜無茶したら、明日立てなくなるかもしれませんね……。でも俺は、ホテルで一日中過ごすのも大歓迎ですよ? 文香さんとずっと一緒にいられることに変わりないんですから」
……えぇーっ!?
そのデートプラン、春友と同じだ!
あいつだけかと思ってたのに生徒会長まで!?
男の子ってみんなそうなのかな? どうなんだろ……。
――あっ、そうそう、親には遅くなる旨をちゃんと伝えてある。
「ご両親の大切な娘さんを一晩お借りするのだから、俺から言わせて下さい」
と、生徒会長が私の家に電話を掛けてくれて。律儀だな! そして付き合っている人がいたことが親に確実にバレるな!
電話に出た母親は、怒って猛反対――ではなく、
『まぁまぁまぁ! どうぞゆっくりしてらっしゃいな。泊まってきても全然いいわよ? でも避妊だけはしっかりね! 明日はお赤飯炊いておくからと文香に伝えて下さいな。あ、あと、あなたの大好物のロールキャベツはちゃんと残しておいてあるわよ、ってこともついでにお願いね。多分、すごく気にしていると思うから。――あの子をよろしくお願いしますね』
と、仰ったそうで……。
母上よ……。あなたは色々な意味で偉大なお人だ。
しかし赤飯はいらないぞ。
……でも、生徒会長とならホテルデートでもいいかな。
何て言ったって、春友曰く、“一石三鳥”、――らしいからね?
「……私も、いいよ。……武人さんと一緒なら、どこでも……喜んで」
私は笑って頷くと、自分から生徒会長にキスをした。
……目と口をまん丸くして驚くであろう、愛しい人の表情を想像しながら――
END.
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